第31話 耳かきのお礼
俺は黒亜がスマホを眺めている間、じぃっと夏川ゆら的行動をしていないか観察していた。
プライベートの情報を覗き見るのは気が引けたけど、幼馴染特権として気づかれても許されることを祈る。
「くっくっくっ……」
バイト前、スマホを見ながら、肩を揺らして笑っている黒亜。
俺は背後から、ちらりとスマホの画面を覗き見てみる。
スマホで見ていたのは、Tikt○kの踊ってみた動画だった。
どうやら、ただ暇つぶしの時間を娯楽の時間に費やしていたらしい。
「礼音君、ごめんね、お客さん来ちゃったから準備手伝ってくれる!」
「はい、分かりました」
とそこで、理恵さんに呼ばれてしまったため、俺はそのまま店先へと出ていくことになり、黒亜観察は中断。
その後は、アルバイトに勤しんだ。
今日はなぜだかお客さんがひっきりなしに来店してきたこともあり、俺と黒亜は休憩する暇もなくあっという間に閉店の時間を迎えた。
「ふぅ……疲れた」
「だな……」
ずっと動き回っていたこともあり、ホールの仕事が全部終わった頃には、俺と黒亜はへとへと状態になっていた。
着替えを済ませ、
バタバタしていたこともあり、理恵さんのレジ締めに
アルバイトを終えて、理恵さんの締め作業を待っている間。
お客さんのいなくなった店内の椅子に足を組みながら座り、スマホをポチポチといじる黒亜。
俺は再び、背後から気づかれぬようにスマホの画面を覗き見る。
今度は、Instagl〇mでフォロワーがUpした写真をスクロールして眺めていた。
これもまた、黒亜の中ではルーティーンの一環らしい。
やっぱ、高校生してるんだなと感心していると、黒亜が視線に気づいたのか、くるりとこちらを振り返り、じとりとした視線を送ってくる。
「……何?」
「いやっ……何でもない」
「怪しい」
眉間にしわを寄せ、訝しむような視線を送ってくる黒亜。
俺は黒亜の圧に耐えきれなくなり、一つ咳払いをしてから口を開いた。
「ほら、この前黒亜に耳かきしてもらったから、そのお礼に何か黒亜が好きなものをプレゼントしてあげようと思ったんだよ」
「あー……そゆこと。そんでアーシの好みを探るために、スマホをチラ見してたってわけ」
「まあ……そう言うことだ」
「もーう、そんなまどろっこしいことしなくても、アーシに直接聞けばいいのに」
「は、恥ずかしかったんだよ」
「ふぅーん。へぇー」
ニヤニヤとうざい笑みを浮かべながら、俺を見つめて来る黒亜。
その視線を交わすように顔を逸らしていると、黒亜が突然椅子から立ち上がり、腰に手を当てながら仁王立ちし始めたかと思うと、ドヤ顔を浮かべながら言い放った。
「ならさ、今度の休日、アーシとデートしてよ」
「デ、デート⁉」
「っそ。アーシの買い物に付き合ってよ。そしたら、お礼にもなるっしょ?」
「でもお礼がそんのでいいのか?」
「当たり前っしょ。むしろアンタと二人でデートすることに意味があるんだし」
「まあ、黒亜がそれでいいならいいけど……」
「なら決まり! ってことで、今度の休み、午前十時に駅前集合ね。遅刻したら許さないから」
「はいはい、分かったよ」
適当にでっち上げた言い訳から、何故か黒亜とデートをすることになったけども、これは、黒亜のことをさらに深く知ることで、夏川ゆらの正体を突き止めるチャンスだとも見込んでいた。
今度のデートで、絶対に夏川ゆらの証拠を突き止めるぞと、心の中で意気込むのであった。
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