第18話 噂の真実
奥沢さんと一緒に向かったのは、学校から電車で数駅先にある繁華街。
メイン通りの商店街から分岐している狭い道を曲がり、裏通りへと入っていく。
辺りを見渡せば、雑居ビルが立ち並んでおり、先ほどまでのチェーン店のお店が立ち並ぶ雰囲気とは打って変わり、夜のお店やホテル街が乱立している。
もう少し日が暮れたら、完全に大人の街へと化すのだろう。
そんな裏通り街を、奥沢さんはぐいぐい進んでいく。
「お、奥沢さん……一体どこへ向かってるの?」
「ん? それは着いてからのお楽しみ」
奥沢さんは相変わらず、今から向かう場所のヒントさえ与えてくれない。
果たして、こんなところに奥沢さんの行きたい所が本当にあるのかと不安になってくる。
あるとしたら一体、どんな所なのだろうか?
頭の中で予想しながら、俺はキョロキョロと辺りを見渡しつつ、肩身を狭くしながら奥沢さんの後を追っていく。
すると、突然奥沢さんがピタリと立ち止まって歩みを止めた。
「着いた。ここだよ」
そう言って、指差したのは、どう見ても看板からアダルティーな雰囲気がプンプンと漂う、いわゆるラブHOTELだった。
「えっ、ちょっと待って奥沢さん。どういうこと?」
「雪谷君には、私とお付き合いするにあたって、本当のことを知ってもらおうと思って」
「本当のこと?」
動揺する俺ををよそに、奥沢さんは淡々と話を続けた。
「実はここのホテル。私の親が経営してるんだよね」
「えっ? あっ、へぇー。そうなんだ」
「私の家はこの裏になんだけど、入り口はホテルの横にあるってわけ」
そこでようやく、奥沢さんが俺に何を伝えたかったのか、そしてどうして俺をここへ連れてきたのかを理解した。
「じゃあ、もしかして奥沢さんが清楚ビッチっていう名前を付けられた原因って……」
「そう。私が家に入っていくとき、たまたま遠目で目撃した子が、ラブホに入っていったと勘違いしちゃったんだろうね」
「そ、そんな……」
つまり、清楚ビッチの奥沢さんは、単なる見間違いから生まれたものだったのだ。
「ならどうして奥沢さんは、噂を否定しないの?」
俺が疑問を問いかけると、奥沢さんは力のない笑みを浮かべた。
「だって、ここのホテルを経営してるのは私の親であって、変な噂を立てられても仕方のないことだから」
「でも、ちゃんと説明すれば、みんなだって理解してくれるはずだし……」
「いいの。もう仕方のないことだから。それに私は、近しい人がちゃんと理解してくれていれば、それでいいの」
そう言って、奥沢さんはパッと朗らかな微笑みを湛える。
「……」
俺は、何も言えなくなってしまった。
だって、このことを教えてくれたということは、奥沢さんは少なからず、俺のことを信頼してくれていて、勇気を出してくれたということなのだから。
「ここで立ち話してるのなんだし。せっかくだから上がって行って」
「えっ⁉ それって、俺が奥沢さんの家にって事⁉」
「うん、何もないけど」
「いやいやいや、流石にそれは、本当に付き合ってるわけじゃないから申し訳ないというか……」
「ううん、そうじゃない。雪谷君には、私がどういう生活をしているか、ちゃんと見て欲しいの。これは、彼氏彼女とか関係なく」
真剣な眼差しを向けてくる奥沢さんに対して、俺は再び口を噤むことしか出来なくなってしまう。
「……分かったよ」
次に出た言葉は、奥沢さんの期待に応えようという気持ちから出た言葉だった。
「ありがと。それじゃあ、こっちに来て」
奥沢さんに手招きされて、俺はホテルの入り口の隣にある、人一人がやっと通れるような小さい通路へと導かれる。
初めて入る奥沢さんの家。
そして、彼女がどんな生活をしているのか?
色んな意味で、ドキドキしながら、俺は奥沢さんと一緒に、薄暗い通路を奥へと進んでいくのであった。
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