第40話 【レオノーラのお話】―3
「着いたぜ、です」
ムッソー子爵家の令嬢であるクスノハさん。剣王のギフトを持ち、鬼神の如き強さを持つ小さな少女が、石橋の前で止まり振り向いた。
綺麗な水で満たされた堀の向こうに高い土壁がある。土壁の上から水が溢れ落ち、美しい虹がアーチを描いている。森の中に突然現れたその幻想的な風景に感動すら覚える。
「参りましょう、レオノーラ様」
私をエスコートする大賢者のシルフィさん。本人はまだ上級賢者と言っているが、五属性魔法を使いこなす魔法使いなどアザトーイ王国、いや帝国以外の近隣諸国には存在しない。
石橋を渡り、土壁に取り付けられた小さな扉をクスノハさんが開けた。
扉を潜ると、広々とした土地が広がり、変わった形の建物が数件建っている。
「あれは何だ?」
土壁の奥に背の高い水車が見える。
「あれは給水塔に水を組み上げる大水車です」
「トーマが作ったんだぜ、凄えだろ、です」
給水塔は大きな都市では見かけるが、あれほど壮大な水車は初めて見た。
ここから見ても分かる給水量は、この何も無い土地に対して過剰すぎる。つまりはあれを作成した人物は、この土地に作られる都市の規模が王都を上回り、住む人々の生活レベルの向上を既に視野に入れている事を物語っている。
「トーマ国王か……」
クスノハさんも、シルフィさんも、そしてルミアーナ殿下さえもが認めたトーマなる人物。狂った森の中に建国されたアマノガワ王国の国王。
シルフィさんに緑色の奇跡のポーションを持たせてくれたのもトーマ国王との事だ。ハイポーションとか、そんなレベルではない奇跡のポーション。損失部位再生が可能なポーションは……まるで――。
「レオノーラ、無事で何よりですわ」
「ルミアーナ王女殿下!」
「オホホ。もう王女でも、殿下でもありませんわ」
扉を潜って間もなくしてルミアーナ殿下が、私たちを迎えてくれた。
「この度は、私たちの危機を救って頂きありがとうございました」
「オホホ。お礼ならトーマ様に仰ってください」
そのトーマ国王の姿は見えない。
「トーマ国王陛下は……え゛ッ!?」
少し先の何も無い土地に、突如として家が建った。
「トーマ様は貴方がたの家を作っていますわ。オホホ」
よく見れば、突然できた家の近くに一人の少年の姿が見えた。彼がトーマ国王陛下?
「か、彼は……いえ、国王陛下はいったいどのようなお方なのですか?」
「オホホ。そのお話はゆっくりお風呂にでも入りながらお話いたしますわ」
「凄っげえお風呂があるんだぜ、です」
「さあ、イレーヌさんも、ミレーヌさんも行きましょう」
「私たちもですか?」
「はい。旅の疲れが取れますよ」
シルフィさんがイレーヌとミレーヌにも声をかけてくれた。二人は我が家の使用人だから私がいたら、共に風呂に入る事はないのだが――。
「お誘い頂いたのだ。共に入ろう」
「「は、はい」」
◆
「「「…………」」」
「オホホ。アマノガワ王国名物、エリクサイトの湯ですわ」
「怪我も一瞬で治るんだぜ!、です」
「美肌効果が凄いんですよ!」
「オホホ。若返り効果も有りますわ」
……私たちが連れて来られた屋外のお風呂。エメラルドグリーンのお湯が満たされているのだが……。
「……エリクサーの温泉……なのか?」
「「…………」」
普通に湯船に入るルミアーナ様たち。有り得ない温泉を目の前にして、私とイレーヌ、ミレーヌは、湯船の縁で足が震え、すくみ上がっていたのだった。
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