第30話 【レオノーラのお話】―1

【とある職場のオバちゃん達のお話】


「あんた、休みを取ってるかい?」

「いや、もう十三日連勤だよ」

「新しく支配人になったバッシャー・ウッマー男爵は、あたしらが死ぬまで働かせるつもりかね」


「でもさ、休みを取ったサリーは首になったじゃないの。物価が高騰してるんだから、首になったら食っていけないよ」

「うちはもっぱら1〇コインショップで買い物さ。肉や野菜は不味いけど安いからね」


「うちもだよ。まともな肉なんか高くて買えやしないさ。購入税が上がっちまったからね」

「はあ〜、労働税は上がる、購入税も上がるし、いくら働いても給料は上がらないし、過労死する未来しか見えないねぇ」


「おまけに旦那は仕事をクビになって飲んだくれの毎日さ」

「どこも一緒だねぇ。ルミアーナ様がいた時には女性労働者への労働改善をしてくれて、あたしゃ嬉しかったよ」

「ロックフェラー様もクビになったって話じゃないか。全くお先真っ暗とはこの事だよ」



【とある孤児院の院長と働くお姉さんのお話】


「お腹痛いよ〜」

「困ったわね。診療税が上がったから全員を教会で見て貰うわけにもいかないし……」

「院長、薬草も無くなりそうです……」

「はあ、困ったわ。薬草は品薄で手に入らないのよ」


「どうしてですか?」

「いま、腹痛をしている人が多いみたいなのよ」


「やっぱり、1〇コインショップの野菜が原因ですよ! 一ヶ月も持つ野菜なんて絶対に変な薬を塗っていますよ」

「でもお野菜も販売税が上がって高騰しているのよ。国からの援助金も無くなってしまって、お店でお野菜を買ったらお金が無くなってしまうわ」


「私はお給料はいりませんから、そのお金でちゃんとした野菜を買いましょう」

「でも、それでは貴女が――」


「……お腹痛いよ〜」

「そ、そうね。ありがとう、助かるわ」

「そうですよ! ちゃんとした野菜を食べたら腹痛も治りますよ。それに、きっとルミアーナ様が助けに来てくれます!」



【とある子爵領でのお話】

 

「レオノーラ様、お考え直しをお願いします」

「案ずるなジョゼフ。家督は弟のミッシェルが継いだ。私がいてはロックフェラー家が取り潰しになりかねない」


「し、しかし、狂った森に向かうなど狂気の沙汰です」

「ルミアーナ王女の行方を探さねばならない。このままではこの国は終わりだ。あのバカ王子を止められるのは、ルミアーナ王女殿下しかいないのだ」


「で、ではイレーヌとミレーヌを連れていって下さい」

「よいのか?」

「はい。あの二人であればお嬢様の身の回りのお世話から身辺警護までこなせます」

「そうだな。分かった、連れていこう」


「くれぐれも無茶は為さらぬようお願いします」

「アハハ、それは無理だな。かの森に棲む狂猿クルッテールに見つかれば、何十、何百の魔物を呼び寄せると言われている。無茶をせねば生き残る事も叶うまい」


「そ、それでも行かれるのですか?」

「行かねばなるまい。我が国の国民の為にもな。かの森、呪われた森へ!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る