第42話 勇者帰還
その日、一匹の鳥がやってきた。
遂に来たか……。
俺はその足で、急ぎ王城に向かった。
「お待ちしておりました。ベリアル様」
「ご苦労。ゲラルド」
多くの衛兵達に見守られる中、俺はゲラルドに案内され城壁にあがっていく。
遠くに王国の旗をなびかせて、王都に向かってくる馬車と一団が見えた。
「間違いなく勇者一行です。あの正面にいるのが、王国最強騎士、騎士団長スカーレットですから」
王国最強騎士のスカーレットか。
非常に堅い人物で有名らしいな。曲がったことは嫌いで、正義のためなら貴族にすら躊躇なく剣を抜くという。
ひとまず、視界に入った全ての『勇者様御一行』にはいつもの『マーキング』を付与する。
その時。
ん?
一人だけ変だな?
いまいち反応が弱い?
いや、反応が弱いというか、『マーキング』が付与出来ない?
「ゲラルド」
「はっ」
「勇者と一緒に馬車に乗っているのは誰だ?」
「はっ――――――第二王女、オリビア様でございます」
「ん? エリノーラの妹か?」
「その通りでございます。ただ、腹違いの妹になります」
第二王女なんていたんだな……。
というか王族なら子を多く残しておくのは、当然といえば、当然なのか。
それにしても第二王女とやらが非常に気になる。
彼女の性欲値は15%と非常に低い。
そんな彼女の性欲値を変えようとすると、簡単に変えられるのだが、問題はそこではない。
彼女には『指定』が効かないのだ。
それならばと『条件変更』も試してみたが、『指定』と同様に全く効かない。
こんな事は初めてだったので、驚いていると勇者一行が王都近くまで着いた。
「ん? 勇者は第一王女の許嫁だよな?」
「そうでございます」
「なぜ第二王女があの馬車に乗っているんだ?」
「はっ、それは――――――」
そのあと、ゲラルドから驚く言葉が続いた。
「彼女が『バーサーカー姫』と名高い騎士であり、王国最強戦力の一人だからでございます」
まさか……王女が戦うなんて思いもしなかった。
スカーレットとやらと一緒に勇者の師匠兼護衛か。
馬車の後ろには魔物の頭だと思われる巨大なモノが横たわっていて、王都に入るや否や国民達から大きな声援と拍手で迎えられた。
馬車の天井が開いて、その中から勇者と第二王女と思われる可愛らしい少女が一緒に手を振って、国民に応えた。
完全な偽装工作だな。
あんな巨大な魔物をあのクソが倒せるはずもない。
だが、広場を通り時、クレイの右手から光の柱が空に放たれる。
王都はかつてない歓声があがった。
あれが勇者の力――――『光の力』なんだな。
彼らは王国民に歓迎されながら王城にやってきた。
◇
「お帰りなさい。勇者様」
「た、ただいま。王女様」
二人は
しかし、直後に王女様が何かを呟くと、勇者
その様子があまりにもあからさまで、その場にいた多くの貴族達もその現場を目撃している。
その後、後ろから現れたゲラルドが勇者様に挨拶を交わし、何かを話す顔からますます血の気が引いて行く。
そんな彼を見ながらニヤニヤしていると、俺に向く視線を感じた。
視線を横に向けると、遠くから真っすぐ俺を見つめるのは――――第二王女オリビア様だ。
目と目が合うと、彼女は怪しい笑みを浮かべると俺に何かを言いかけた。
何を言いたかったのかは分からない。が、何となくその唇の動きで分かった気がした。
――――――「み・つ・け・た」。
◇
◆王城内◆
下働きのメイド達が廊下で話し合う。
「ねえねえ、聞いた?」
「ん? なになに?」
「勇者様が帰ってきたって~」
「あ~! あの
「ぷっぷっぷ。一度も姫様をいかせられなかったって有名だものね」
「兵士さんが噂していたんだけど、帰って早々に姫様に色々言われたみたいだよ?」
「え~! どんなどんな?」
「えっとね」
メイドは周りを見渡し、誰もいない事を確認する。
「
「え~! 見たかった!」
「すぐに新しい彼氏からも何か言われて凄い表情になったらしいよ~きっと姫様のお気に入りの新しい彼氏さんと比較されたのね」
「ぷっぷ~勇者様が森に出てから新しい彼氏さんが出入りするようになって、毎晩凄いんでしょう?」
「うんうん。この前、担当メイドに聞いたらね~シーツがとんでもない事になってるらしいよ? 3枚くらい凄い事になってるみたいよ~」
「え~! 姫様って
「うんうん。でもあの新しい彼氏なら凄そうじゃない?」
「凄そう~! 私もやりたかったけど……断られたんだよね」
「えっ! 私もだよ! 堅物として有名だったのに、相手を選んでいたのね。あの人」
「姫様をあんなにいかせてるんだから、相手を選べるんでしょう~それにしても羨ましいわ~この前なんか、あの勇者様の取り巻きから誘われたけど、あいつら全然起たなくて笑っちゃったよ~」
「あ~私も一人誘われて、そこそこ良い仕事に就くのかなと思って付いて行ったんだけど、全然起たなくて勝手に泣き崩れていて、凄く気持ち悪かったよ~」
「ぷぷぷっ、勇者様御一行はそういう男ばかりなのかしら~」
「もしかしたら男専用だったのかもね~」
「あ~あるかもあるかも~」
王城内だけでなく、貴族間でも王女と勇者の間の破局や王女の新しい恋人の衛兵長が囁かれ始めていたのだ。
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