第76話 月夜のくない

体にズドンと衝撃が走る。


(またか…。やられたか…。)


と、津久見はシップの上から落ちながら考えていた。


スローモーションの様に風景が映る。


(走馬灯…来るか?)


と、まで考える余裕がある程ゆっくりであった。


(いや、俺石田三成?津久見?どっちの走馬灯来るの???)


などと猶予な事も考えていた。


痛みはない。


ふと、自分の乗っていたシップの方に目線が行った。


(ん?誰かいる?)


そこには今まで津久見が乗っていたシップの馬上に誰か知らないが、同じく吹き飛ばされている人間がいた。


(え????)


と、思うや津久見の体は地面に落ちた。


ズザー


「ぐ、いててて。」


津久見は地面に仰向けに倒れていた。


「ちっ。仕留め損ねたか。」


と、声が聞こえた。


「ならば!」


と津久見はやっとの思いで立ち上がろうと片膝をつこうとした時、声の主の踏み込む音が聞こえた。


(まずい!)


咄嗟に津久見はこの声の主が自分に切り掛かってくる事を察知した。


目の前には今にも斬りつけて来ようとしている者がいた。


(やられる!)


と、思い目を閉じた。


「カーン!」


刀を弾く音がした。その音が止むか止まないかの間に次は、


「びゅっ!びゅ!びゅ!」


と刀を振る音が聞こえた。


(どこかで聞いた音…)


津久見はその者を見た。


そこにはこれまた全身黒づくめの人間が立っていた。でも、黒い頭巾の後ろから長い髪が束ねられて垂れていた。


…さん?」


「殿、そこにお隠れなされ!」


の声だ。


津久見は慌てて身を隠す。


は切り掛かった男と剣先で間合いを取っている。


すると、奥から


「しまいじゃ!散れ!!!」


と、誰かが叫んだ。


すると黒づくめの集団は一斉にゆっくりと後ずさりする。


「うっ、う〜。」


静寂の中から誰かの悲痛な声が聞こえる。


左近らも津久見達の近くにゆっくりと近づき津久見達はその悲痛な声の主の、近くに集まった。


「今じゃ!」



と、黒づくめの集団は一斉に夜陰に消えようとした、


「させるか!!」


怒気ののこもった左近の声と同時に左近は一人の男の太ももを切り付けた。


「うっ!」


斬りつけられた男はそう叫ぶと、周りから2人の男がその男の両脇を抱え暗闇に消えて行った。


殿!」


左近が呼ぶ。


「はっ。」


「よくここがお分かりになりましたな。」


「はっ。父が治部様の大坂での一連の動き、京から大阪へ帰る道中に何かもしれないと、京の街から駆け付けている最中でございました。」


「それは奇遇じゃ。助かった。そこでそこもとにお願いがある。」


と左近はの近くに歩み寄る。


左近はに何やら小声で言うと、もまた暗闇に消えて行った。


「うっ〜。」


一瞬の出来事だったが、やっとこの悲痛な声の主に皆が目をやった。


秀信であった。


津久見はそう気づくと、秀信の元に駆け寄る。


「ひ、秀信さん!!!!」


「う、う。」


言葉にならない言葉を秀信は発している。


津久見は秀信の体を見た。


そこにはおびただしい血が飛んでおり、肩には何かが刺さりなおもそこから流血していた。


「あ、え、なん、あーーーー!」


津久見は泣きながら、自分の服を手で探り、手拭いを探した。


「秀信さん!秀信さん!」


泣きながら津久見は持っていた手ぬぐいで、患部を抑える。


そこには鋭利な鈍器が刺さっていた。


津久見は混乱しながら、鈍器に触れない様、血を拭き取っている。


何もできないが、何かしなくてはと行動していた。


と、そこへ


「殿!御免!」


と、津久見を遮る様に秀信の体に触った。


か…。」


?」


「喜内殿、平岡秀信殿を抑えておれ!!」


というと、二人は秀信を抑えた。


「ふん!!」


と、左近はそのを一思いに抜くと


「殿、布でしっかり抑えてくだされ。喜内殿何か縛る物できつく肩を縛って下されよ。」


左近の的確な指示に二人は動いた。


「平岡!枚方宿まで走り医者と籠を用意させぃ!」


「はっ!」


平岡はすぐに馬に飛び乗り走って行った。


「ふぅ。肩をやられましたが、致命傷にまでなりますまい。」


左近は落ち着いて言う。


津久見はずっと


「秀信さん!」


と泣きながら連呼する。


息はしているが、意識が無いようである。


と、左近は一息付くと手に持っているに鼻を近づけた。


「毒は…なさそうじゃな。」


と、左近は言うとを見つめる。


「……。これは!!!」


左近はそのの柄の部分を見て激しく驚いた。


「殿…。」


左近は事の重大さを津久見に伝えようとしたが、津久見はまだ大声で泣きながら、必死に秀信の患部を抑えている。


必死の介護もあり、秀信の呼吸が落ち着いてきた。


「秀信さん!!秀信さん!!!」


津久見はまだ泣きながら呼ぶ。


「殿。もう大丈夫でござろう。いうてる間に平岡が枚方宿から医者と駕籠を連れてまいりましょう。」


「うっ。うっ。…そうですか…。」


津久見の手は秀信の血で赤く染まっていた。


「殿。それよりいささか厄介な物が見つかりまして…。」


「厄介な?ヒック…。」


泣きながら津久見は答えた。


「はい。こちらを。」


左近はを津久見に渡した。


「これの何が?ヒック…。」


そう言われると、左近は柄の家紋を指さした。


「!!!!!!」


津久見は驚いた。


「これは…!!!うっ、うっうお~~~~~~!!なんで!なんでだよ~!」


津久見は空に向かって叫んだ。


その手に持つくないの柄にはの家紋が彫られていた。





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