どんな言葉を使っても足りない

三人が、部屋に行ったのを見ながら華君と晴海君のグラスを下げる。

僕が戻ってきたのと同時にるいも戻ってきていた。


「まだ、飲めます?」


「やめておきます。」


椚さんの言葉に、月がお水をいれてきた。


「美咲さんは?」


「俺は、もう少し飲みたいかな」


「わかりました。」


僕は、持ってきたワインを開けた。


美咲さんのグラスに注ぐ。


椚さんは、水を飲んでる。


月も、ワインを飲んでる。


僕と月は、二人をただ見ていた。


沈黙に耐えきれなくなったのは、椚さんだった。


「俺、やっぱり美咲さんが好きです。お酒はいってるから、冗談に思われるかもしれませんが。美咲さんに、出会って。初めて男の人を好きになった。でも、全然その気持ちが嫌じゃなかったんです。ずっと言わないようにしなくちゃって思ってたのに…。5年前に言ってしまいました。それからは、もう伝えるしかなくなるぐらい好きになってしまって。美咲さんが、笑いながら駄目とかないとか言うから…。俺、嫌われてないんだって嬉しくなって調子のって、何回も気持ちを伝えてしまってました。ごめんなさい。」


椚さんは、美咲さんに謝った。


「何で、謝るの?」


美咲さんの言葉に椚さんは驚いている。


「美咲さんの気持ち考えずに、華君や晴海君にも俺は、話したりするし。何回も言われて嫌だと思ったから」


美咲さんは、椚さんを見つめてる。


「嫌だったら、嫌ってハッキリ言うよ。」


「じゃあ、嫌じゃないんですか?」


椚さんの目から涙が落ちてきた。


「嫌ではないよ。」


美咲さんが、笑いかけたらさらに泣いた。


「しーちゃんの話なんだけど。まず、最初にこの話を聞いたからってしーちゃんを嫌いにならないで欲しい。約束できる?」


「はい」


「じゃあ、話すね。」


そう言って、美咲さんはポロポロ泣きながら何があったかを話した。


僕も知らなかったから泣いていた。


月も隣で泣いてる。


椚さんは、誰よりも泣いていた。


「何で、話してくれたんですか?」


涙を手で一生懸命拭いながら、椚さんが話した。


「何でかな?聞いて欲しかったんだと思うよ。」


そう言って美咲さんは、笑いかけてる。


「何で、そんな酷い言い方できるんですか…。俺には、わかりません。美咲さんが、椎名さんを嫌いになれない気持ちはわかります。だから、よけいに悲しくて涙が止まらないです。すみません。俺が泣いて」


椚さんは、あふれでる涙を一生懸命拭ってる。


「俺より泣きすぎだから」


美咲さんが、椚さんの頭をポンポンって叩いた。


「俺は、美咲さんにかけてあげれる言葉をうまく見つけられなくて。俺なんかじゃ、椎名さんのかわりになんかなれないのもわかってる。なのに、傍にいたくて。なのに、守ってあげたくて。許されるなら、抱き締めてあげたい。だけど、それは出来ないのわかってるから。泣く事しか出来なくてごめんなさい。」


椚さんの目からどんどん涙が落ちていく。


「椚、俺の事そんなに思ってくれてるの?」


「はい、好きとか愛してるなんかじゃ足りないです。どんな言葉を使っても、足りないです。」


美咲さんが、その言葉に泣いてる。


「俺とどうなりたいの?」


「美咲さんの彼女になりたいです。でも、無理なので。プライベートでこうやってお酒を飲む関係でいいです。」


「辛くないの?」


「辛いですよ。でも、美咲さんの傍にいれない事の方が辛すぎます。だから俺は、これで充分です。」


美咲さんは、その言葉に少し考えてる。


「俺は、椚が想ってくれてるぐらいに椚を愛せるかわからないよ。」


「そんなの望んでないですから」


椚さんは、涙を必死で止めて笑ってる。


「酔ってるから、明日には、気がかわるかもしれない。でも、今の俺は椚と一緒にいたいと思ってる。」


その言葉に椚さんは、美咲さんを抱き締めた。


「それって、付き合ってくれるんですか?」


「椚の気持ちを利用してるだけだよね。駄目だよね」


美咲さんの言葉に、椚さんは美咲さんから離れて美咲さんの顔を見つめる。


「一度だけしか恥ずかしくて言えないので聞いて下さい。」


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