54 自由詩


真夜中に咳きこんで、

口じゅう血の味がすると言って泣いた

魚を孕む夢を見たと

大きく目を見ひらいて話した

破水して、九匹の魚を流産したと言った

胞衣えなと羊水とにまみれて、

未熟なままいつまでも動いていた

真珠色の目が鈍くひかって

ゆっくり動いて、泣くように、助けを求めるように

わたしを見上げたんだと言った

さわると糊のように粘って、

くずれた


つぎの朝には、血の味がしなくなったと言って笑った

白く透けた魚のひれがいつまでも動いていたと言った

太陽の光を浴びて、

小っぽけな背骨まで透けていた

うずくまって、ずっと魚を見ていたと言った




詩の情景をいちいち説明するのは、せっかく読者が自由な想像をめぐらせようとするのに邪魔っけな駄文だ、、、とも思うのですが、いままでさんざんやってきておいて、なにを今さら……ですよね。今回も語ってしまいます。


魚を孕む夢を見て泣いたひとは、おそらく妊娠したことも、流産したことも一度もないんじゃないかなと想像します。

なのに泣いてしまうほどの夢を見たのは、胸に怖れを抱いているから。

ふたりの恋は許されざる、祝福されることない恋なのかもしれません。

いまが幸せ過ぎるためにいつか手からこぼれ落ちることを思わずにいられないのか。

それとも、少女から女へと罪深く変容しつつある自らの感情に慄いているのか。

どうして彼女はこんな夢を見て泣いたんでしょうね。



さて、またタイトルのお話です。

この詩にタイトルをつけるなら、「魚を孕む」かなと。

あるいは「I Love You」というのもぱっと浮かびましたが(尾崎豊風味)、狙ってる感がぷんと臭って、気に障るかも。やっぱりシンプルなのがいいかなと思いますが、いかがでしょうか。


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