19 俳句(秋)



 海峡は満艦飾なり漁日和


<読み>

 かいきょうは まんかんしょくなり りょうびより



漁日和って、たぶん季節は決まっていませんね。だから(また)季語なしです。

朝ふと海を見ると、船がたくさん出ていたので、ああきっと今日は大漁なんだろうな。市場も賑わってるだろうか。どんな魚が出てるだろう? とうきうきしたのを詠んだものです。

別に大漁旗をはためかせていたわけでもなく、まして「満艦飾」はふつう軍艦を万国旗等で飾りつけることなので、表現がピント外れと思われるかもしれませんが、船そのものが、海を飾りたてているかのように見えたので。



さて、前回夏目漱石に触れてから、漱石のことを言いたくてたまらなくなってしまいました。

日本語で書く作家のなかで、私は漱石が一番好きです。内容も文章も好き。漱石の文章のよさにはいろいろな要素があるのだと思いますが、そのうちの一つが、俳句だと思うのです。(漱石は子規と親しく、その縁もあって多くの俳句を残していることを、ご存知の方も多いでしょう)。漱石の散文のなかに、俳人の眼と感受性が息づいているような気がします。

例えば――


「静かな夜を、聞かざるかと輪を鳴らして行く。鳴る音は狭き路を左右に遮られて、高く空に響く。かんからゝん、かんからゝん、と云ふ。石に逢へばかゝん、かゝらんと云ふ。陰氣な音ではない。然し寒い響である。風は北から吹く。」(『京に着ける夕』より)


この情景の、なにをどう切りとるかという取捨選択、音の捉え方、そして最後にぽんと、「風は北から吹く」と切る。

いいなあ……と、うっとりしてしまうのです。


ここらで止めておかないと、呆れられるぐらい長々語ってしまいそうなので、今回はここまでにします。


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