15 漢詩



 重宵是九十九夜

 佳人月下待開芳

 陵上青松肖於舊

 人世流転復不同

 耿耿北辰詡堅節

 君莫謂不値清光

 涼風遽起而揺莟

 応風披葩散妙匂

 借問花惟誰所有

 子答花非処被擁

 有花擁花者惟花

 願作小花於叢莽


<読み>

宵を重ねることれ九十九夜

佳人は月下に開芳を待つ

陵上の青松、きゅうたり

人世は流転した同じならず

耿耿こうこうたる北辰は堅節をほこ

君謂うなかれ、清光にあたわずと

涼風にわかにちて、つぼみを揺らす

風に応じはなひらきて、妙匂を散ず

借問しゃもんす、花はたれの有する所ぞと

答うるに、花は擁せらる処に非ず

花を有し花を擁するは惟れ花

願わくは叢莽に小花とらん


<現代語訳>

花を植えて待つこと九十九夜。

月明りを浴び、あなたは開花を待つ。

丘につ青松は、昔と変わらぬ姿。

一方、人の世は変化して同じ姿を留めない。

輝く北極星は、常に同じ位置にあって節の堅さを誇っている。

その星の光に自分は値しないなどと言ってくれるな。

涼風が吹いて、花の蕾を揺らした。

風に応えるようにはなびらが開いて、いい香りが周囲に匂った。

「花は誰の所有ものか」と問うてみる。

「花は誰かに所有されるものではないよ」とあなたは答えた。

花は花のもの

叶おうものなら、くさむらに咲く小さな花になりたい。




世の変転に押し流されて、人は変容していかざるを得ません。変節をじて、ささやかな花になりたいという佳人。その胸中にはなにがあるのでしょうか。


さて、今回はまじめに押韻に取り組みました。(芳・同・光・匂・擁・莽)

おかげで苦労しましたが、音読みで読んでみると、やっぱり揃えた方が気持ちいい。韻を踏むと、詩は音楽に通じるってことをあらためて思いますね。ラップなんかはその典型。

音のまま読むと、読み下しとはまた違った味わいを発見できると思います。例えば、「非処被擁」と読めば「非処」と「被擁」がついのように響くけれど、読み下すとその感覚はもうわからない。「有花擁花者惟花」は読み下してもそれなりにいい響きですが、そのまま音で読むと、よりリズムが出るような気がします。



※ 「佳人」というと今の日本では女性を思い浮かべますが、漢詩の世界では多く男性を指す美称・尊称のようです。この詩では、男女どちらにとっていただいてもかまいません。


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