第2話 古都咲樺蓮との選択
僕は、今からバレーボールをしようと提案したものの、バレーボールをする場所も、肝心のバレーボールでさえも用意しておらず、僕の無計画さがそれはもう鮮明に映し出されていた。
「そもそも君はバレーボール持ってるの?」
「持ってない」
「やっぱり」
やっぱり僕の無計画さは、鮮明に映し出されているようだった。
「すぐそこにデパートがあるだろ?今からそこで買うよ。」
「分かった」
こうして僕と古都咲はデパートまでゆっくりと歩き始めた。
並んで歩いているのに、会話が何一つなかった。雲一つない夜空が、僕たちの声を全部吸い込んでいるみたいだった。
「「あった!」」
僕と古都咲は、無事バレーボールを見つけることができた。しかし、色とかデザインとか違うものがたくさんあって、どれを買えばいいのかよく分からなかった。
「なあ、古都咲。いろいろあるけど、どれを買えばいいんだ?」
僕は分からないけれど、素晴らしいことに僕の隣には経験者の古都咲がいた。
「えーっと、大きさはこれで、種類はねー、こっちがこれからの私たちの代のボールなんだけど、高いんだよねぇ。でも感触は柔らかくて、あとサーブとかがすごい伸びるの。こっちの種類は前の代、つまり先輩の代のやつで、こっちの方が—————————————————」
なんやかんやあって、僕は古都咲の代がこれから使うという方のボールを買った。ちゃんとしたヤツ(大会とかでも使われるもの)を買ったら一万円くらいした。僕の財布が涙を流していたが、後悔はしていない。
「じゃあ、あの公園に行くか」
「あのって、どの公園?」
「合木先公園」
「あきさきこうえん?」
「そう。ほら、あの遊具が一個もない、ベンチが一個あるだけの公園」
「ああ、あの公園!そんな名前だったんだ…」
「まあ、確かに公園の名前なんていちいち覚えないよな」
「そうなのだよ、よくわかっているねえ」
そんなことを話しているうちに、合木先公園に着いた。
「よし、じゃあ始めるか」
僕がこの公園唯一のベンチに荷物を置くと、その横に古都咲も荷物を置いた。
そして、僕は買ったばかりのバレーボールを袋から出して開封した。
「うわ、すべっすべだ…」
買ったばかりのバレーボールの触り心地はとても気持ち良かった。すべすべしているのに加えて、表面にある凸凹もまたいい味を出していた。
「私にも貸して」
古都咲はそう言って、両手を差し出してきた。
「はい」
僕は古都咲にボールを渡した。
「わー、ほんとにすべっすべだぁ。赤ちゃんの肌みたい。買ったばかりでこんな綺麗だから、公園で使って汚くしちゃうのが勿体なくなってくるね」
古都咲は、まるで子供のようにはしゃいでいた。むしろ彼女が赤ちゃんみたいだったが、それは黙っておいた。
「まあ、ボールは使ってなんぼだからな」
多分。
「そうだね。じゃあ、軽くパスから始める?」
「了解」
僕たちは少し距離を開けて立った。ボールは古都咲が持ったままだった。
「よし、じゃあいくよー、ほいっ」
古都咲がボールを投げた。放物線を描いてこちらへ向かってくる。僕はそれをレシーブで取ろうとして両手を組んで前に出した。
そして、腕にボールが当たり、綺麗に古都咲の方へと上がって……欲しかったが、現実はそう甘くなかった。
僕の腕に当たったボールは明後日の方向に向かって飛んで行った。この公園が広くなかったら車道に飛び出してしまっていたところだ。広い公園を選んでよかった。
僕が飛ばしてしまったボールを古都咲が拾った。そして、ニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。
「あんなこと言って、バレーボール初心者だったんだね」
「まあ、そうだな」
「ふっふっふ……私がバレーボールを教えてあげましょう。この古都咲樺蓮サマがね」
ドヤ顔が非常にウザかったが、教えてもらえるのはありがたかったので、仕方なく了承することにした。
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします、でしょう?」
やっぱりウザかった。
「じゃあ、まずはアンダーハンドパス、アンダーの練習をするわ」
このままお上品(?)な口調で行くつもりのようだった。
「アンダー?」
「あなたの思っているレシーブってとこかしら。私も呼び名に関してはあまり詳しくないけど、確か若干ニュアンスが違うのよね」
「へえ」
「まあ、詳しい説明を聞きたいなら自分で調べなさい」
かなり雑だった。
「それで、肝心のやり方について説明するわ。まずは、手の形からね。私の場合は、右の手のひらを出して、左の手のひらを載せて、親指を閉じてって感じかしら。私が思うに、これが基本…というか、普通の組み方ね。もちろん左右逆もあるわ」
僕が思っているものと同じ組み方だった。基本は間違えていないようで安心したが、やり方はあっているのにこんなに下手なのか、と少し悲しい気分になった。
「これ以外にも組み方があるのか?」
なんとなく気になって聞いてみた。もしかしたらそちらの方が自分に合っているかもしれないのだ。
「そうね、もちろんあるわ。でも、私もよくは知らないから教えられないわね。どうしても知りたければ、自分で調べなさい」
かなり雑だった。
「じゃあ次に、当てる場所ね。君はさっき、腕の付け根あたりに当ててしまっていたでしょう?それだと、コントロールがしにくいのよ。もうちょっと手前でいいわ。腕時計とかつける位置ね。あと、さっき君、ものすごい腕を振ってたから。よく聞く話かもしれないけれど、バレーボールでは膝を使うのよ。腕は極力振らないの。まあ多少は仕方ないけれどね。じゃあもう一回投げるから—————」
そこから古都咲は、三十分以上バレーボールのやり方を僕に教えてくれた。
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