嫌悪

 こんな男のことをいまだにダラダラ引きずるのはみっともないと思う。そこに「好き」だとかの恋愛感情が一切ないことが、気持ちをより掻き乱してくるから嫌になってしまうんだ。あいつはきっと私のことなどもう少しも考えていないのだから、私もキッパリ忘れてしまえばいいのに、それがなかなか難しい。

今思えば私も相当馬鹿になっていた気がする。なぜあいつに拘っていたのか、あいつじゃなければ駄目だと思ったのか。なぜあいつのことを長い間、好きでいたのか——。


 私はふとした時にあいつを思い出して苦しくなる。楽しかった思い出とかならまだいいと思う。私が思い出すのは「近くにいるはずなのに遠くにいる」「向こうからの連絡はほとんど来ない」「最後にありがとう、と言ってもらったのは相手が別れたいと言ってそれを了承した時だった」というネガティブな瞬間の嫌な感情ばかりだ。これらに関しては憤りや呆れに近い感情で思い起こされることもある。


 中島みゆきの「空と君のあいだに」という歌で「憎むことでいつまでも あいつに縛られないで」といった歌詞がある。この歌詞を思い出す度、憎しみで縛ってくるあいつのことを思い出すという現象が起こる。これは中島みゆきがどうこうでもなく、あいつが悪いわけでもなく、前向きな歌詞をこんなにも捻くれた受け取り方をする私が悪い。他人から見たら私は憎しみに縛られて喜んでいるマゾヒストに見えてしまうのか。そう考えると早くこの呪縛から逃げ出さねばならないな。


 昨日、あいつとの思い出の(?)写真を3枚ほど消した。別れてからも消せていない、というより枚数が多すぎてもう半ば諦めている。思い出にはてなをつけたのは理由がある。まずふたりで遠出をしたことが殆どない。二人で撮った写真も殆どない。写真フォルダにあるのは、私が個人的に撮った会話のスクリーンショットと、隠れて撮ったあいつの顔写真である。顔写真はかなり整理したから残っていても今は1、2枚だけだと思うが、スクリーンショットが多すぎる。無理。見たくもないしどれがあいつとのものかも確認したくない。

 

 何度したか分からない別れ話、ある時も別れ話をしていて、あまりに辛すぎて奇行に走ったこともあった(非行ではない)。あんなに苦しかったのになぜ必死に別れたくないと縋っていたんだ。やっぱり馬鹿になっていたんだ。

 

 別れてから何ヶ月経ったのかも忘れた。トータルで何年付き合ったのかもはっきりとは思い出せなくなっている。もう視界に入れたくないし、とっとと記憶から消えてほしい。そう思う今日この頃。

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