第31話 こんな恋のスタートも有りかも?
まさか、元の高校で付き合っていたギャル系女子が、岸沼君を追って転校して来て、交際再開なんて!!
驚き以外の何ものでもない!!
初恋の女の子似だった志原君のイメージから連想すると、今の岸沼君の好みの女子のタイプが、根川さんみたいな感じとは思わなかったけど……
ギャル風とはいえ、根川さんは、キレイで目立つ事には変わりないし……
岸沼君だって、そういう子にそこまで想われるなら、本望なんだよね、きっと。
成長と共に、好みって変わるものだし、男子と女子で捉え方が違うのかも知れないし……
どっちにしても、岸沼君に関しては、もう私の出る幕なんて無いと思っていた矢先……
昼食後の昼休み時間に、予想外にも岸沼君から呼ばれた!
岸沼君にしては、珍しく周囲を気にしているようで、校庭へ向かった私達。
もしかして、今さらだけど、根川さんの『微笑み係』は、岸沼君が引き受けるっていう話かな……?
別にわざわざ、そんな事の為に、休憩中に呼び出さなくても……
私じきじきの承諾なんて特に必要としてないんだから、暗黙の了解という風に対処してくれても良かったのに……
ヘンなところで、律儀なんだよね、岸沼君。
「綿中、あのさ、根川の『微笑み係』の件だけど……」
岸沼君、根川さん本人に対しては、呼び捨てで
私の前では、他人行儀に根川って呼ぶんだね……
そういうところで、感じたくなかったのに、私と岸沼君の距離感を否が応でも感じさせられてしまう……
岸沼君にとっては、根川さんが一番身近な女子って事なんだ……
私は、岸沼君が転校して来てから今までで、他の女子達に比べたら優位にいるように感じられていたのに、そんなのは勘違いでしかなった……
岸沼君にとって、私は、ただの『微笑み係』の相方ってだけだったんだ……
「あっ、それ、すごく驚かされた~! 岸沼君に元の学校の彼女がいたのも驚いたけど……岸沼君を追いかけて、お父さんを説得にして、ここに転校して来るなんて、なかなか出来ない事だよね~!」
自分の気持ちは隠して、出来るだけ『微笑み係』風の明るい表情を作って、驚きだけ伝えて見せた。
「根川の事だけど……そもそも付き合っていたわけじゃねーし! あいつは男なら、片手で足りないくらいいるし。冗談半分な感じで、一方的に付きまとわれてただけなんだ。転校を機に、離れる事が出来て安心していたんだけどな。まさか、あいつが転校して来るとは……」
それって、言い訳に聴こえるけど……
何に対する言い訳なの……?
言い訳だとしても、無理して作り上げた話じゃない感じ……?
真実味を感じられるくらい、岸沼君も困っているっぽいんだけど……
「それじゃあ、根川さんの空回りみたいな感じなの……?」
「空回りというのか、とにかく、あいつは気まぐれなんだ! 別に俺にこだわっているわけではないし、例えば、ただ環境変えたかったという事の言い訳に、俺が使われているとかだったり。俺は、もう、あいつのよく分からない衝動に付き合わされたくないんだ! だから、綿中に頼みが有るんだけど……」
頼みって、私が『微笑み係』を引き受ける事……?
私はかなり苦手なタイプだけど……
元々、女子の転校生には女子の『微笑み係』というのが基本だから、当然断れないよね。
「うん、いいよ! 根川さんの『微笑み係』は私が引き受けてあげる!」
笑顔で引き受けてあげた!
岸沼君が困っている時くらい、私が力になってあげないと!
苦手とか言ってられないよね。
「良かった! それもだけど、あと……もう1ついいかな?」
もう1つ……?
何だか、岸沼君、言い難そうにしているんだけど……
あっ、もしかして、転校生で、岸沼君以外に知り合いがいないから、根川さんの友達になってあげて欲しいとかかな……?
それだったら、ちょっと困るかな……?
お互い、性格が違い過ぎて、一緒に行動するには苦痛な感じかも知れないし……
そんな事を頭で思っていたのに、意外にも、岸沼君の口から出た言葉は、私の想像を遥かに超えていた!
「頼みにくいんだけど……根川の関心逸らす為に、綿中と俺が付き合っているって事にして欲しい」
「えっ……?」
根川さんの関心を逸らす為とはいえ、私と岸沼君が付き合っている事にって……
それは、私にしてみたら本望過ぎて、怖いくらい嬉しいけど!
だけど……私に、そんな風な素振りって出来る?
あのいきなり、岸沼君にハグしてくるような彼女を相手にして、私が対抗出来ると……?
「あっ、もちろん、嫌だったら引き受けなくていいよ! 『微笑み係』を担当してくれるだけで十分だから!」
私が戸惑って、即答できずにいると、嫌がっていると勘違いしたようで、岸沼君が慌てて付け加えた。
「ううん、嫌なんかじゃない! ただ、その、私が岸沼君と付き合っている素振りなんて、上手く出来るかなって……」
そんな素振りしているうちに、ますます岸沼君の事が好きになって、素振りでなんかいられなくなりそう……
常に浮かれてしまいそうな自分の気持ちを上手くオンオフモードでセーブ出来るかが問題……
「別に素振りじゃなくてもいいけど……」
「えっ……?」
今、素振りじゃなくてもいいって、岸沼君が言わなかった……?
素振りじゃなくてもいいって事は、普通に付き合うって事……?
私と岸沼君が……?
「いや、その……
「あっ、
私が、ボソッと呟くように言ったのをその時に限って、岸沼君は聞き逃さなかったらしい……
「いや、あの俺も……」
「えっ……?」
志原君との事は、どうなっているのか、本当はすごく気になるけど、もう何も尋ねないでおこう!
もしかしたら、志原君と岸沼君が付き合っていく為のカムフラージュ的なお役目である可能性も高いかも知れないけど……
でも、私は、岸沼君と一緒にいられるのが楽しいし、私の前では、岸沼君は志原君の存在を全く感じさせない!
それなら、今はそれで十分じゃないかなって!
あ~、どうしよう……!!
さっきのって、ホントに幻聴じゃなかったよね……?
まだ、耳を疑ってしまうくらい信じられないけど……
まさか、私と岸沼君が付き合っていく事になるなんて……!!
そこにはモチロン、
そんな弟君含めての楽しい休日が続いて行くうちに、いつか、私が岸沼君にとって一番身近な存在になれるかも知れない!
だから、今は、ちょっとまだ不安定で不確定な関係からの始まりになってしまうけど、そんな事は構わない!
『微笑み係』の役を借りたまま、笑顔で返事をして、前向きにお付き合い始める事にしよう!
【 完 】
微笑み係も悩まずにいられない ゆりえる @yurieru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます