第15話 一人登校

 平気だよ……

 そんな予感くらいしていたもの……


 あんな事があった翌朝、真緒との待ち合わせ場所に行ったら、真緒が時間になっても来なかった……

 真緒からの連絡は入ってなかったから、少し待っていたけど、遅刻するのがイヤだったから、そのまま一人で学校に向かった。

 真緒にLINEで確認をするのも、既読スルーされそうで、気が進まなかった。


 真緒も含めてクラスメイトの女子達が、教室でまた昨日みたいな陰口三昧な感じだったら入り難いし……

 ギリギリまで玄関にいてから、教室に向かおうと思った。


 つい、ウロウロ歩いてしまっていたから、他の人からは、私、ヘンな人に見られそうだけど……

 他の人達って、自分が思うより人の事をよく見てないって言うのを聞いた事が有るし、大丈夫かな?


「お前、今度は、こんなとこで、何してるんだ?」


 岸沼君だ!

 なんでなんだろう……?

 岸沼君の姿を見ると、不思議とホッとしてしまう......

 

「ああ、そっか。昨日の今日だから、教室入り難いんだな。何か言う奴いたら、俺に任せろ」


 そう言って、一緒に教室に向かってくれる岸沼君。

 なんか、男らしくて、頼もしい!!


 でも......これだと何だか、『微笑み係』は岸沼君みたい。


 こんな意外にイイ人っぽい感じの岸沼君を私、これから騙そうとしているんだけど……

 既に決行前から、罪意識を感じさせられてしまう……


 でも、きっと、結果オーライになるはずだから!

 岸沼君と一緒にいる事の多い私が、今、行動を起こさないと!


「その分じゃあ、お前の友達とも仲直り出来てなさそうだな」


 真緒との事、心配してくれているんだ、岸沼君。

 やっぱり、優しい……

 

「うん……なんか、誤解したままみたい」


「女子同士って、男子と違って、こじれたら修復が難しそうだからな。俺がズバッと言って、何とかなるなら言ってやるけど。かえって悪化したら、お前の居心地がますます悪くなるだろうからな」


 そこまで考えてくれているなんて、良い人過ぎる~!


「あっ、それは、大丈夫!」


 岸沼君が私を庇ってくれるのは嬉しいけど、庇おうとすればするほど、やっぱり岸沼君が予想している通り尚更、女子の圧力が強化しそうだから……

 今は、孤独に耐えて、皆の為に頑張らなきゃ!


 そう、私、クラスの皆の為に、こんな無い知恵まで絞って、悪役を演じようとしているのに……

 それが、全然伝わらなくて、女子の中で孤立してしまっている……


 仕方ないよね……

 孤立は仕方ないから、それよりも今は、岸沼君と2人で話せるチャンスなんだから、今のうちに作戦を開始しなくては!


「私の事よりも、岸沼君……言い難いけど、昨日、岸沼君がバイトが有るからって下校した後、少し志原君と話したの。その時に、聞いたんだけど、実は、志原君は好きな女子がいるみたい。『微笑み係』の任期中には告れないけど、任期終了したら告るつもりでいるんだって……」


 こんな岸沼君には痛い感じの嘘を伝えた私。

 

「志原が、そんな事を言ったのか?」


 信じてもらえてない……?

 それとも信じたくないって気持ちが強過ぎる?


「岸沼君には、信じられないかも知れないけど、今までだって、志原君は色んな女子と付き合っていたし、付き合うとしたら、やっぱり女子だって言っていた。だから、岸沼君からのスキンシップとか困るって……」


 なんか、私、志原君の事が大好きな岸沼君に向かって、かなり残酷な事を言っているよね……

 岸沼君の反応を見ていると、言っている私の方が辛くなる……


「そうか……志原は、好きな女子がいるのか……」


「あっ、私じゃないからっ!」


 まあ、そこはまず誤解しないと思うけど、一応、誤解されないように言っておかなきゃ!


「志原の相手が、お前ではないって事くらい分かるよ」


「信頼されているのか、ディスられているのか分からない感じ……」


 信頼されているとしたら、岸沼君を騙している身としては、余計に辛い。


「信頼の方だよ。あっ、それより、お前、俺に対して敬語使わなくなったな!」


「そういえば、ホント......」


 いつの間にか、私、岸沼君に対するガードが随分緩んでいたんだ!


 あんなに最初は、志原君からゲイだって聞いていたし、不愛想だったから、苦手意識強くて警戒していたのに。


「志原の事、わざわざ教えてくれて、サンキュー! けど、俺はさ、志原が好きな女子がいても、気持ちは変わらないから」


 岸沼君、私が嘘を伝えてるなんて疑いもしないで、自分の正直な気持ちを伝えてくれている……


 この人の志原君への想いは、こんな事くらいで、ブレない。

 そんな事、分かっていたはずなのに……

 改めて、岸沼君の口から聞かされると、すごくこたえてしまう……


 私のついた嘘って、なんてちっぽけなんだろう。


 こんな嘘なんかで、岸沼君の気持ちを志原君から逸らせようとしてたなんて。

 志原君への想いを忘れようとしてくれたらって望んでいたけど、そんな事は、岸沼君に限っては無理なんだね。

 残念だけど、完敗だって認識させられた!

 

 残念なのは……

  計画が失敗して、クラスの女子に対しての気持ち?


 それとも……

 私自身の気持ち?

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