残念クリシュ

「じゃあ、次はクリシュを見に行っていい?」


 レイシアはサチにたずねた。


「クリシュ様? 教会に行くのですか?」

「うん」

「いいですけど、結局いつものコースですね」

「いいの。この間、クリシュの先生役見られなかったんだから」


 そうして、2人は教会に向かうことにした。



「クリシュ様はお帰りになりました」


 初めて見た、いや、朝の礼拝のスーハーで、ノリノリに声を出している教会の人だ。


「どちらさまですか?」

「クリシュの姉のレイシア・ターナーです」


 レイシアがていねいに名乗ると、男の目が見開いた。


「あなたがレイシア様でしたか。私は、見習い神官のマックスです。バリュー神父のもとで勉強させて頂いております。お見知りおきを」


 と、ていねいに挨拶をされた。


「クリシュ様は、『お姉様が帰ってきているから、お昼ご飯は要りません。一刻も早く帰りたいんです』といって、午前中にお帰りになりましたが、その様子ではお会いになれていないようですね」


「まあ。それでは、神父様にご挨拶をしてからすぐに家に戻りましょう」


「では、ご案内いたします」


 神官のマックスはそう言うと、奥に歩いて行った。



「失礼します。レイシア様がお見えになりました」


 そう言ってドアを開け入るマックス。レイシアとサチも中に入った。


「ああ。今日はいかがいたしました?」

「弟の授業を見ようかと思ったのですが、もう帰ったみたいで」

「そうだな。君に会いに帰ると大急ぎで帰ったからな」


 神父は笑いながら答えた。


「そうみたいですね。私も早く帰らなくてはと思っていますわ。それで神父様、こちらを収めようかと思うのですが」

 レイシアは、鞄からいくつかのラノベや絵本を取り出した。


「子供たちの勉強や息抜きのためにどうぞ。こちらのラノベは私と同じ寮に住まう『イリア・ノベライズ』先輩の本です。サイン入りで頂いて来ました」


 レイシアが、イリアを自慢げに紹介しながら本を渡した。


「仲良くしてもらっているのですか?」

「はい!」


 その返事を聞いて、神父は笑顔をこぼした。


「それはよかった。レイシア。君は他人と打ち解け合うのが苦手だから心配していたんですよ。よい友達に巡り合えたみたいですね」


「はい。寮ではイリアさんにも寮母のカンナさんにもよくしてもらっています」


 にこにこと報告するレイシア。微笑み返す神父。


「ところでレイシア。少し相談があるんだが」

「なんですか?」


 神父が机の上にあった瓶を取り出した。


「このサクランボのジャムなんだが。販路が広がらなくてな。大量に残ってしまったんだ。どうにかならないかと相談を受けているんだが、中々伝手がなくてな。なにかアイデアをかんがえつかないかな?」


 レイシアの目が据わった。情報を聞き出す。


「卸値と売値は?」

「領内だと、直接販売で小銀貨1枚。これがそのまま卸値になる。隣町の商人は、ここに輸送費と儲けを加えて小銀貨2枚と大銅貨7枚、2700ルーフで売っているらしい」


「う~ん。高いですが、商売として考えるならそんなものですね」

「そうなんだ。これが遠くなればなるほど高くなる。品質はいいんだが高級すぎて手が出ないみたいでな」

「材料費から考えても値崩れは困りますよね」

「そこなんだよ。どうすればいいか」

「現在の在庫は?」

「500程売る先が見つからないそうだ」

「作り過ぎです!」

「そうなんだが、今年は豊作で加工しないといけなかったらしい」


 う~んと悩み始めた2人。レイシアがサチに指示を出した。


「まずは試食からね。サチ、孤児院からパンを持ってきて。そうしたら紅茶を4人前お願い。まずは、自領の消費を上げるための商品開発と、販路先の開拓ね。私が王都までもっていくとして、どう販売ルートを作れるか」


 レイシアは、目の前の課題に夢中になり、クリシュの事は気にも留めなくなってしまった。



「今日はここまでです!」


 サチが神父とレイシアに告げた。


「え~、もう少し……」


「神父様もレイシア様も、こうなると際限がなくなります。ほら、今日はお休みのはずだったでしょレイ。クリシュ様も待っているのに。これ以上はダメです」


 名残惜しそうに神父が言った。


「そうだな。夢中になり過ぎた。レイシア今日は帰りなさい。

「そうですね。


 フフフと笑い合う2人を見て、(こりゃだめだ)と思うサチだった。


 マッドサイエンティスト達の会議は、明日も行われることになった。

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