残念少女レイシア

 温泉三昧においしいランチ。そして大好きなサチとの会話。レイシアは腑抜けたような幸せを味わっていた。


「だから、今日は昔みたいにレイでいいって。ね。お休みなんだから」

「そういう訳にはいかないでしょ。レイシアお嬢様」

「もう……」

「それに、こういったお店ではあまり砕けた会話はいけないのでしょう」

「個室はいいのよ」


 レイシアはいきなり応用編をぶっこんだ。


「個室はね、家族で使うならしつけの出来ていない子供が粗相しても他のお客さんに迷惑にならないし、商談で使うなら従業員が聞いても他に教えないのが鉄則だし、他にも恋人同士の逢瀬とか、いろいろ知られたくないことが出てくるところなのよ。だから、従業員は守秘義務が徹底されているの。サチが私にため口で話すくらい、たいしたことではないのよ」


 貴族社会ヤバい。そう思うしかないサチ。本当の闇の使い方もっとあるのだが、そこまではレイシアの年齢では分からなくてもいい。


「それはそうと、王都ではどう過ごしているのですか?」

「だから、敬語じゃなくていいって」

「じゃあ聞くけど、王都でちゃんとやれてるの? レイ」


 くだけるならどこまでもくだけてやれ。そんな感じでサチは開き直った。


「やっとレイって言ってくれた! 王都での生活? そんな変わんないよ」


 スープを飲みながら、レイシアは答えた。


「朝はメイドの基礎訓練を欠かさずしながら朝食作っているし、馬小屋の掃除は絶対ね。授業中は戦闘訓練か図書館で自習でしょ。そしてまた馬小屋の掃除。帰ったら、掃除洗濯お風呂の準備。夕食を作って後片づけ。終わったら魔法の研究とか? 土日はアルバイトもしているわ」


 サチは聞いていて「働き過ぎだよ、あんたは」とつぶやいた。


「そんなことないよ。普通でしょ?」

「普通じゃないから。絶対やり過ぎているんでしょ!」

「そうかなぁ」


 自覚無しのレイシアは、どこまでも普通の基準が自分。なんとなくそこに気づいているサチは話題を変えた。


「いいけど、友達は出来たの? レイは昔から人付き合い淡泊だから、知り合いしか出来てないんじゃない?」


 レイシアは、友達ってなんだっけと考えてみた。確かに……誰か、そうだ!


「寮にイリアさんって人がいるの。すごいのよ。ほら、ラノベ作家のイリア・ノベライズ様」


「えっ、あのレイが好きって言っていた『花束を抱えて』の作家?」

「そうよ。サイン本ももらったし、お昼ごはんもおごってくれる優しい先輩なのよ」

「そう。よかったね。で、クラスメイトは?」


「……」


「……やっぱり」


 いたたまれない空気が流れた。黙々とボア肉のステーキを食べる2人。


「そういえば、王子様とお知り合いになったの? 旦那様がぶつぶつ言いながら困っていたけど」


「王子? ああ、同学年だから授業が一緒なのよ」

「ふーん。素敵な人?」

「どうだろ? 見た目はいいし、頭もいいし、剣も強いからキャーキャー言われているね」


「……何その感情の伴わない言い方。ステキ~、とか憧れる〜、とかないの?」

「ないよ」

「……ああそう」


「気になる人とかいないの?」

「気になる人?……いないよ」


(思春期の女の子としてだめじゃん!)


 そう思いながら、にこにことステーキを頬張るレイシアを見つめるサチだった。

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