150話 冒険者レイシア

 クリシュが戻ってきたら神父がついてきた。


「そんな面白いもの、私も同行させていただきます」


 結局、料理長・レイシア・サチの実践組と、クリフト・クリシュ・神父の見学組のパーティーが出来た。


「まあいいか。いくぜ嬢ちゃんたち」

 料理長一行は冒険者ギルドを目指した。



 ギルドは朝の混雑時が終わり、がらんとしていた。仕事を見つけた冒険者はとっくに出向いているから。ドアを開けるとカランカランとカウベルがなる。サムを先頭にギルドに入ると奥から声がかかった。


「おう、ラッシュ。なに受付なんぞしてんだ?」

「なんだいサム久しぶりじゃねえか。それが受付の事務員が怪我してな。代わり出来るやつが俺くらいしかいねえんだ。で、今日はどうした」


 受付にいたごつい男が料理長に聞くと、料理長はレイシアとサチを前に出した。


「こいつらを冒険者登録させようと思っている。こっちは俺の弟子だが、強いぞ」

「このちっこい前掛けかけた嬢ちゃんがか?」


 料理人のエプロンをしたガキにしか見えないレイシアに対して不信感を抱くのはしかたがない。


「ああ。Cランクでも通用する」

「ははは、まさか。でこっちのキレイなメイドは?」


 それに対してサチは18才。色気も出て来た美人さん。メイドが出来るなら何も冒険者になど何らなくてもと思うのも仕方がない。

 

「まあ、強いぞ」

「本気か? まあいいや。嬢ちゃんたち冒険者について聞いてきたか?」


 レイシアは学園で習っていたので「はい」といったが、サチはいきなりの指名だったのでちんぷんかんぷん。「まったく分かりません」と答えた。


「おいおい大丈夫かい? えっ、仕事上冒険者になれと。はぁ。なんか分かんねえが大変だな。まあいい。それじゃあ説明しようか。字は読めるか?」

「読めます」

「ならこれを見ながら説明しようか」


 受付の男は木版をだすとサチにみえるように置いた。


「まず、冒険者と言うのは『何でも屋』だ。町の清掃、荷物の運搬、食料や薬草の採取、戦えるなら狩りで動物や魔物を狩る。それぞれ得意不得意があるから大きく3つに分かれている。『雑用』『採取』『狩りと採取』だ。まずはどのコースを選ぶか決めてもらおう。もちろん慣れてきたら変更は自由だ。最初は雑用から始めた方が身の丈に合っていると思うがな」


 男はていねいに説明を始めた。


「私は狩りと採取にします」

 レイシアが答えた。


「では、あたしも同じのを」

 サチが追随した。


「おいおい、大丈夫か? 背伸びすると死ぬよ。まあ、もう少し説明を聞きな。狩りならランク制だ。ランクによって受けることが出来る依頼も変わるし狩場も変わる。最低はF、まあ危険は少ない。ウサギ狩りくらいだ。ここから始めて依頼をこなせばだんだんランクが上がる。4人~6人程度のパーティーでボアを狩れたら一人前Dランクだな。ランクが上のチームが低ランクの狩場を荒らすのはご法度だ。初心者が食えなくなるからな。しかし、Fの狩場でも危険な魔物が出ないとも限らないし、ヤマネコと戦って怪我するやつもいる。焦って勝手に死ぬやつもいる。簡単に考えない方がいい。雑用から始めた方が身のためだ」


「いや、狩りと採取にしてやってくれ。ランクアップスタートで」


 料理長が言うと男はニヤッとわらった。


「試験にゃ大銀貨5枚ずつかかるがいいのかい? 失敗しても戻らんが」

「ああ、スポンサーは後ろにいる。大丈夫だ」

「あれは、誰だい?」

「俺の雇い主。ここの領主さ」


 男は奥にいる領主を見て固まった。そしてすぐに「ギルマス! 大変でさあ」と奥に引っ込んだ。



 結局試験が行われることになった。試験官は受付の男。実際に狩場に行って狩りが出来るかどうか判断する。


「俺の名はラッシュ。Cランクだ。今日一日試験官として付き添う。駄目だと思った瞬間で試験終了だ。いいな」

「「はい」」

「では出発だ」


「しかし、ぞろぞろと保護者付きか。はいはい、保護者の皆様は離れた離れた! ほれ、サムもだ。30メートル以上離れる事。試験にならん」


 保護者達を無理やり遠ざけたラッシュは、レイシアとサチの2人に声をかけた。


「では試験を始めようか。狩場まで走るぞ、ついてこい! 付いてこれなきゃ試験終了だ」


 そう言うと足場の悪い道を、物ともいわず駆け出した。失敗させる気満々だった。失敗させる、それがこの子たちのため。それが自分の役割と信じて。



「久しぶりに全速力で走ったが、そんな恰好でよく付いてこられたな。とっとと終わらせたかったのに」


 ゼイゼイと息を吐きながらラッシュはサチを誉めた。


「ガキの頃は野山で食料調達してたし、メイド修行はこんなもんじゃないさ」

 息も切らさず平然と答えるサチ。


「俺も年かな。しかし、ちっちゃい嬢ちゃんは無理だったな」

「そうでもないよ。ほら」


 その言葉と共に、ラッシュの前にいきなりレイシアが現れた。手にホロホロ鳥とその巣を持って。


「うわっ! てか嬢ちゃん! その鳥は?」

「足場が悪かったので、木の上を通っていたらコース上に巣がありまして。威嚇いかくしてきたので気絶させました。卵も入っています」

「……その鳥、美食家が金貨積み上げても手に入れたいというホロホロ鳥だよな。しかも卵も。いくらになるんだ?」

「そんなに珍しくて高く売れるんですか!」

「ああ。金貨30、いや50になるかも。読めんな」


 レイシアは大喜び。冒険者として初の獲物がレア魔鳥。ビギナーズラックとしか言いようがない。いや、レイシアクオリティなのか?


「ギィィィ—————」


 上空でオスのホロホロ鳥が威嚇の声を上げ旋回している。攻撃をしようと一直線に下降してきた! すかさずサチが動いた。


   シュタッ!

   「ギャァァァァァ————— 」 ドスッ!


 サチが投げたステーキナイフが頭に刺さったまま、ホロホロ鳥が地面に落ちた。


「私も狩りましたわ。レイシア様」

「おそろいですね」


「「では血抜きをしましょう」」


 仲良くスパッと鳥の首を切る少女たちを、不思議なものを見るような目で見つめるラッシュだった。

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