相伝者 サチ
「どうして僕は入れてもらえなかったのですか!」
朝食を食べながら、クリシュは朝ホールに入れてもらえなかったことを怒っていた。のぞき見くらいはと思っていたのを、執事から引き離されてしまったことも含めて。
「私も今回初めて知ったターナー家の秘密だ。お前にはまだ早い。いや、本当に」
父として実感を込めてクリフトは語った。
「ぜんぜんお姉様と一緒にいられない」
「まだ夏休みは残っているだろう。時間ならあるさ」
「そうだけど」
「それより料理長」
クリフトは料理長を呼んだ。
「レイシアと狩りに行っているそうだが、レイシアは本当に狩りが出来るのか? 一昨日鹿を持ってきたんだが、どうにも理解できなくてな」
「狩れますよ旦那。そうですね、見てもらった方が早いな」
そう言うとレイシアを見て
「嬢ちゃん、どうせなら冒険者登録しておこうか。学園で冒険者の授業受けているんだろう。この際取っときな」
「いいの? 授業では2年生にならないと取れないって言ってたけど」
「う~ん。王都ではそうかもしれんが、うちじゃ8歳の子供でも取れるさ。子供が働けなきゃ困るからな」
「取ります!」
「じゃあ、登録したら狩りにいくか。皿洗ったら支度しな」
「はい!」
「僕も行きたい!」
クリシュが声を上げた。
「どう思う、料理長」
「坊ちゃんですかい? まあ、ついてくるだけなら心配はないが」
「レイシアは?」
「クリシュにお姉様の雄姿をみせてあげますわ」
「……そうか」
クリフトは一抹の不安をおぼえたが、考えても仕方がないと流した。
「いいの? 一緒に行っても」
クリシュは嬉しそうに言った。お姉様の雄姿なんて見たことも……あ、昨日のは……雄姿と言えるのだろうか。雄姿? 雄姿って何だろう。
悩み始めたクリシュ。さえぎるように父クリフトは言った。
「まて、教会に行って神父様に許可をもらってからだ。孤児院での仕事はないのかい?」
「今日は大丈夫。すぐに話してくる」
「待て。ご飯を食べ終わってからだ」
食事を終え喜んで教会に向かったクリシュ。
片付けを終え、狩りの支度をするレイシアと料理長。
久しぶりに剣を腰に差したクリフト。
メイド長が料理長に声をかけた。
「お嬢様が冒険者登録をするのなら、サチもついでに登録して。侍従メイドが主の行き先に行けないのは困るからね」
「は? あたし?」
「私と言いなさいサチ。どんな状況でも身を挺して守るのがメイドの役目。あなたなら、そこいらの冒険者より強いですよ」
「はあ……」
「返事は!」
「はい!」
「よろしい」
料理長は、今朝の出来事を聞いていたため仕方なく了解した。
「でも私、武器はこれしかないんですけど」
ジャラジャラとステーキナイフやフォークなどを出しては並べたサチ。
「う~ん。ちいと弱いな。止めが刺せん」
「そうですよね」
武器を見ながら悩む料理長。
「それではサチ。あなたにはメイドが使える最終ウエポンを授けましょう」
メイド長はそう言うとベルベットで
おもむろに箱を開け、中から
「これがメイドが主人に渡せる、言うなればメイドが扱える最大の刃物、『ウエディングケーキナイフ』。相伝。免許皆伝の証です。このナイフを血にまみれさせてもレイシア様を守りぬきなさい」
「これを私に?」
「そうです。よく頑張りました。私が認めたのです。自信をもってメイド道を励みなさい」
「はい! このサチ。命に代えてもレイシア様を守り抜きます!」
レイシアは、「私には?」と言ったが「「あなたは守られる方」」という2人のツッコミにより敗退。代表一人だけに相伝の宝刀はサチが受け継ぐことになった。
初めて通ったメイド長とサチの信頼関係。分かりあえた瞬間!
しかし、感動的なシーンに水を差すようにクリフトが言う。
「クリシュは血塗られたナイフでウエディングケーキを切るのか?」
その場にいた全員が固まった。メイド長が誤魔化すようにかわいらしく言った。
「その時は、新調してくださいませ。旦那様」
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