魔法使いレイシア

「学力についてはこれでいいでしょうか、クリフト様」


 神父がそう言うとクリフトはうなずいた。


「では次の問題ですが、レイシア、君の魔法はどうなっているんだぃ」


「魔法ですか? 光闇風火水土すべて揃った6属性です」


「有り得ない」


 神父がつぶやくと、魔法について理解度が低いクリフトが質問した。


「6属性の何がありえないんだ?」


 神父は、(そこからか)とおもいながらため息をついた。


「いや、だってな、魔法など脳筋の騎士のものだろう? 火をぶっ放すだけの」


「それが分かっていれば十分です。魔法は普通1属性、多くても2属性でないと使い物にならないと言われています。累乗で威力が落ちるので」


「どういうことだ?」


「6属性持ちがでたという記録もないし、3属性以上の者がリスクをおかしてまで魔法を取ったという記録もないのです。6の6乗威力の低い魔法など誰も見たことがないのですよ」


「6の6乗? どのくらいだ? そうぞうできないな」


「46656分の1ですね」

 レイシアがすかさず答えた。


「馬鹿みたいな数字だが……。役に立つのか」

「ええ、便利ですよ」


 にこにこと答えるレイシアに、怪訝そうな目で見る二人の大人。


「よく分からんが、大丈夫なのか?」

「見てみないことにはなんとも」

「じゃあ見せますね」


「「ここでか!」」


「まさか。移動しましょう」


 そう言ってスタスタと部屋から出ていったレイシア。あわてて2人は付いていった。



「ここならいいかな」

「「ここでいいのか?」」


 孤児院の調理場に着いた3人。レイシアは、かまどに近寄った。


「火起こしね、私に任せて」


 火起こしを苦労している孤児を退かせて、レイシアがかまどの前にしゃがんだ。


「ファイヤー」


 指先から青白い炎が現れ、円を描くように薪を一撫ですると、あっという間に火が着いた。


 「「「わ〜」」」


 盛り上がる孤児たち。固まる大人たち。


「すごいや〜!」

「もっとやって〜!」


 集まってくる孤児たちに称賛を受け調子に乗るレイシア。


「じゃあ次は水魔法ね。ウオーター」


 ドボドボドホと手のひらから水がめに注がれていく。拍手喝采の孤児たち。


「わ〜」

「すごい〜!」

「べんり〜!」


「じゃあみんな頑張ってね」


 そう言って、レイシアは調理場から外に出ていった。大人二人は、黙って付いていった。


 孤児院の外に出たとたん、大人たちは騒ぎ出した。


「レイシア! なんだあれは!」

「素晴らしい。縮小された魔法があれほど美しいとは」


 わめくクリフト。

 語りだす神父。


「まだありますよ。風魔法、トルネイド」


 小さなつむじ風が移動もせずグルグル渦巻いている。いつまでもいつまでも。


「ありえない……」

「すまん、俺には分からん」


「便利ですよ。洗濯とか勝手にできますし」


「「洗濯?」」


「スープが焦げ付かないようにかき混ぜたり」


「その話詳しく。いや、実践して見せてもらおう」


 神父のマッドサイエンティスト心に火が着いた。そうして、夕方まで魔法の実践と研究が行われたのだった。


 その結果、水と火魔法を同時に使いお湯を出すことに成功! 温度調節もできるようになった。

 さらに、水の出し方も細くしぼって勢いよく出したり、シャワー状に出したり形状を変えることで様々な使いやすさを手に入れた。


 つむじ風には、洗った洗濯物をうまく入れることで『脱水』が可能になった。更に火魔法を組み合わせることにより自動乾燥まで!


 趣味全開で魔法の魔改造を行う師弟マッドサイエンティスト達。やらかし具合は歯止めが効かなかった。


「土と闇に関しては、今後の課題だな」

「はい」


「しかし便利すぎる。本来なら国に報告するべきなのだろうが、その場合どんな扱いになるか想像ができないな。レイシア、しばらくばれないように過ごしなさい」


「ばれないようにですね。けっこう見せてはいますけど」


「ならば、今まで以上の事は見せないように。いいですね」

「分かりました」


「まあ、今日は有意義だった」

「本当ですね。属性を同時に扱うなんて思いもよりませんでした」

「常識に捕らわれてはいけないよ。想像が大事だ」

「分かりました。常識は捨てます」


 にこやかに笑い合う師弟。



 満足気になっている二人をみて、


「常識捨てたらだめだろう!」

 とクリフトがツッコんでみたが、


「新しい事は常識の外にあるのですよ、クリフト様」

「そうです。常識に捕らわれてはクリエイティブになれません」


 と、マッドな師弟から言われ


「理解できん。俺にこいつを育てるのは無理だ」


 と、クリフトは肩を落とすしかなかった。

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