学力チェック

「まずは学力だが」

 クリフトが神父に成績表を見せた。


「おお、シャルドネ先生。レイシア、君はシャルドネ先生に習っているのか?」

「いいえ。習っていませんけど」


 あっさりと否定するレイシア。


「習っていない? どういうことだ」


 出鼻からくじかれる父クリフト。


「だから昨日話しましたよね。所属クラスがないんです。成績優秀ですから」


 レイシアは6%減った胸を張りながら自慢げに話した。


「まあ、そうでしょうね。一年生の内容など6歳の頃すでに終わっていますから」


 神父も当たり前のように話す。


「そうですよね。簡単でした」

「学園で習う基礎学は8歳で終わった所までですよ」

「そうなんですか? 余裕ですね」


「何を言ってるんだ、お前たちは!」


 クリフトは理解不能。みんな苦労する学園の基礎学が8歳で終わり? どういうこと? そんな心の叫びが声の大きさに現れた。


「まあ、クリフト様が驚くのもしょうがないでしょう。しかし、一年生レベルであれば、クリシュ様でも合格できるでしょう」


「お前たちは一体何をしてるんだ」

「「勉強です」」


「……お前の異常な学力は教会でつちかわれたのか」


「異常? 普通ですよね」

「異常だ!」


 よく分かっていないレイシア。


「まあ、知識など覚えるだけでいいのですから。そこから考える事が勉強ですよ」

「はい、先生」


 盛り上がる師弟。理解不能から理解拒絶へ向かうクリフト。


「もういい。レイシアの学力が高いのはここのせいだと分かった。他に隠していることはないのか?」


 成績表をみていた神父が質問した。


「なぜこれだけ成績が良くて、ビジネス作法だけE評価なのでしょうか」

「それが私も分からないんですよね」


「そこは、私は人間らしくていいと思ったところだが」


 クリフトが言うと、二人から睨まれた。


「「よくありません」」


 完璧な娘を望んでいるわけでもなければ、成績が悪いのを喜んでいるわけでもないのだが、誰にでも得手不得手があるよね、と言いたかっただけなのに……。クリフトの発言権が減っていった。


「実技ですから、再現するのが早そうですね。最初の課題は何でしたか?」


 神父が聞くと、レイシアは「ビジネスとして王子に挨拶をするという課題でした」と答えた。


「では、どうやったか実践してみなさい。私を王子だと思って」


 レイシアは神父に近づいてひざまずいた。



「旦那、あっしはレイシアともうす半端者です。こっから先、お世話になることもあると思いますんで、一つよろしゅう頼んます。あ、これはほんのお近づきのしるしでございやす」

 そして、銀貨を一枚差し出した。


 あまりの出来事に、神父もクリフトも声が出ない。


「完璧ですよね。何が悪かったんでしょう?」


 のほほんと聞いてくるレイシア。


「どこが完璧だ! 全部だめに決まっているだろう!」


 思わずツッコミを入れるクリフト。


 「さすがにこれは……。レイシア、何を考えてこうなったのですか?」


 冷静を保とうと頑張る神父。


「もしかしてお前は普段から王子にそんな態度を取っているんじゃないだろうな」


 手紙で王子と接点がある、いや、模擬戦でボコボコにしている王子に……ヤバい、そう思わずにいれなかった。


「やだなあ、そんな態度を取るわけないじゃないですか。ちゃんと貴族対応しています。というか、できるだけ関わらないようにしています」


「そうだな…関わらないのが一番だ」


「騎士の模擬戦でも、話しかけられないように毎回心折るくらい実力差を……」

「それ! なぜそうなる。手加減しろ」

「もちろんしています! 危ないですから。怪我はさせていません。そうですね、今は4割くらいで相手をしていますよ」

「そうじゃなくて! たまには勝ちを譲ろうとか思わないのか」


「譲ろうと思ったこともありましたが……、その時言われまして。『わざと手を抜くな。全力で来い。勝ちを譲られるのは俺にとって屈辱だ』と言われまして。だから、負けないように手を抜いているんです」

「負けないように手を抜く?」

「だって本気出したら瞬殺ですから」


 レイシアなりの気の使い方に、あ然とするしかないクリフト。


「話を戻しましょうか。それで、貴族対応ができるのになぜあんな言葉遣いになったのでしょう」


「え? だって平民が貴族というオエライサンにものを頼むのでしょう? 賄賂は当たり前ですよね」


「君はどこでそんなことを習ったのですか?」


「料理人の兄弟子のサムからです」


「料理人……かなり特殊な事を聞きましたね。確かにそんな場合もありますが、平民でも特殊な例です。というかヤバい人たちの話し方です。そこを基準にしてはいけません」


「そうなんですか!」


「ビジネスコースは、平民になっても貴族相手にどこまで丁寧な対応を取れるかを確認する場所です。ですから、貴族らしい対応を求められます」


「そうだったんですか! 授業中全員に『へりくだれ』と言っていたので、どんどん口悪くしてみたのですが」

「もっと酷くなったのですか!」


「でも分かりました。貴族対応をすれば良いのですね。後期では頑張ってみます」


 レイシアは、うまく行かなかった理由が分かり前向きになった。

 初めてレイシアの役に立つ話し合いが行われた。

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