第769話 “In My Life” (from Album “Rubber Soul”)
私は中学時代、放送部に所属していた。それまで学校になかったのが不思議だったのだが、とにかく私が1年生で入学した時に新設されたクラブだった。
当時は「校内暴力」など「荒れた学校」が社会問題となっていた。おそらくその対策もあったのだろうと思うが、私の中学(もちろん市立中学)では、生徒全員が何らかの部活動を行なわなければならなかった。いわゆる「帰宅部」は許されていなかった。
小学生のころから、ラジオの深夜放送にハマっていた私は迷うことなく放送部に入部した。放送部の活動は、主にお昼休みに流す校内放送番組を作ることだった。週に3回、洋楽中心の番組、各クラブや先生方へのインタビュー番組、邦楽中心の番組を流していた。
放送部の特権は、「エアチェック」(もう「死語」だなぁ。FMラジオで流された曲をカセットテープに録音することを「エアチェック」と呼んでいた)をするため、と称して、放課後は堂々とラジオを聴きながら、部活動をできたことだった。
顧問の先生は「ビートルズが好き」とおっしゃられていたが、いわゆる「ビートルマニア」ではなかったのかもしれない。中学2年生のある週、先生から「今週はNHK―FMで5日連続、『ビートルズ特集』をするから、エアチェックしておくように」と指示された。
5人の部員、誰もビートルズのことを名前しか知らず、特に興味もなかったが、顧問の指示とあれば仕方がない、と考え、その番組を録音した。番組も、特に曲ごとの解説などはなく、3曲か4曲、まとめて題名を紹介して、その曲を流す、それの繰り返しだった。カセットテープで5,6本になっただろうか、特に「全曲」を流していた、というわけでもなかった。
それから数か月後に、私は「ビートルズ」に目覚めた。目覚めた私にとって一番アクセスしやすい音源は、顧問の先生が指示された「ビートルズ特集」のテープだった。
ディスカウントストアで、60分テープだったように記憶しているが、5本セットで安売りしていたMaxcellのカセットテープを購入し(小遣いの少ない中学生にはとても痛い金額)、ダビングして、それを家で聞くようになった。
お気に入りの曲はいくつかあったが、たまたま、”I’m Only Sleeping”. “Here There and Everywhere”, “In My Life”と3曲続けて放送されていた部分があり、いずれも名曲ぞろいなので、カセットテープのその部分を繰り返し、繰り返し聴いていた。
たかが普通の公立中学生、リスニングなんてダメダメで、歌詞の意味なんて分からない。ただ、”In My Life”は、切ないイントロ、美しいコーラス、切ないメロディー、美しいピアノの間奏、そして最後のファルセットが美しい曲、として、理由は分からないがお気に入りの1曲となった。
高校に進学し、少しお小遣いは増えたが、それでも大した額ではない。そのお小遣いを節約して、ビートルズやS&Gのアルバム、そして、「ビートルズ詩集」という、彼らの曲の歌詞と、その和訳が載っていた本、確か2000円くらいしたと記憶しているのだが(ちなみにそのシリーズでS&G詩集もあり、それもお金をためて購入した)、小遣いをためて購入した。
歌詞そのもの、その訳も記載されているが、その意味を理解するほどには大人ではなかった。ただ、歌詞を丸暗記して、曲に合わせて歌っていた。
それから40年近くなって、いろいろな心の機微もわかるようになった(つもり?)が、今となっても聴くたびに心をゆすぶられる。
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