第329話 本気で「一般医療機関でCOVID-19を診させる」のなら

東京都医師会が2/14、「新型コロナが『5類』へ移行しても、『現在の診療検査医療機関以外に多くの診療所が新型コロナを診るとは考えていない』との見解を示した」とのニュースを見た。


ニュースソースはTBS、Yahoo Japanで見た情報であるが、東京都医師会長のコメントは「動線を分けずに新型コロナを診ていくという事は不可能に近いと思います」とのことだった。


Yahoo Japanのコメント欄は、予想通り、暴風雨状態となっていた。一般の皆さんがどのようなことを考えているのか、ざっと見てみる。多いのは「医師会は開業医の団体で、開業医の利益しか考えていない。開業医も自分の利益しか考えていないので、COVID―19を診ない。医師会長のコメントは『ごねて補助金を取るためだ』」という意見。あとは「普通の風邪なのになんで診れないのか、あるいはインフルエンザがこれまで診れたのに、インフルエンザと同等のCOVID-19が診れないのはおかしい」という意見だった。「3年もの間、医師会や開業医は何をやっていたんだ。この3年の間に対応できるようにしておかなければならなかったのではないか」という意見も散見した。


ありがたい、と思ったのは、冷静な意見もそれなりにあったことである。「2類の時から、『対応できる能力のある』医療機関は対応して、『対応できる能力のない』医療機関が対応していなかったわけでしょ。2類が5類になっても、そこは変わらないだろうから、医師会長が言う事は当たり前のことだと思います」という意見や「『動線を分ける』という事は簡単ではない。東京などはビル診(ビルの一室を借りた診療所)も多い。『動線を分ける』ことができる医療機関はすでに分けているはず。小さな個人診療所では「動線を分ける」ことも難しく、スタッフも少ないので「発熱外来」のような対応は無理でしょう」という意見もあった。


「『医は算術』と医者が考えている」と思っている人が多いのは、いわば想定の範囲内である。私が医学生時代、大学祭は3年次、4年次が行なっていたのだが、私たちが3年次の大学祭終了後、とある大きな新聞社が私たちの大学祭について「大きな人権問題である」という記事を掲載した。その当時、多くの医科大学では献体されたお身体からいただいた健常な臓器や、手術で切除した病変のある臓器などを展示し、各臓器の機能や疾患の説明を行ない、医学的知識の啓蒙を行なう目的で、「人体臓器展」を行なっていた。ただ、新聞社の論説の指摘通り、その臓器を「展示・公開する」という形での承諾を得ていなかったのは事実である(そういう点で、ちょうど時代の転換点でもあったわけだが)。ただ、その記事が出て、たくさんのクレームが大学側に来たことは事実で、そのため、私たちが主管学年となった4年次の大学祭は、マイナスからのスタートであった。大学祭を行なうにあたって、大学側、教授側の代表の先生方と、私や私の親友Y君(Y君が学祭運営委員のトップ、私がNo.2)とで繰り返し話し合いの機会を持った。その中で、大学側に寄せられたクレームについても教えてもらえた。私たちの人権意識の低さを厳しく非難するものが多いかと思いきや、クレームのほとんどは、「所詮、医者はお金のことしか考えていませんね」というものだった(ちなみに「人体臓器展」は、人体、疾患の知識、健康への啓蒙活動のためなので、当然のことながらお金は取っていない)。


そんなわけで、「5類を診ないのは補助金が~」などと「お金」のことを言っている人については、「人はパンのみに生きるにあらず」とだけ言っておくこととする。3大疾患と呼ばれ、死亡率の高い「悪性腫瘍・虚血性心疾患・脳血管障害」については、その基礎として「喫煙などの習慣、高血圧・脂質異常症などの生活習慣病」があり、3大疾患発症を予防、あるいは遅らせる(いずれも加齢が最大の危険因子)という点で、身近な内科クリニックは日本人の長寿、という点に大きく関与していると考えている。「本気で金儲け」を考えるなら、内科であれば悪性腫瘍などの「代替医療」を行なうほうがはるかに儲かる(だって自費診療だもの)。内科の「保険診療」を行なっている時点で、そんなに儲かるわけがないのは自明の理である。そういう人を「金の亡者」扱いするのはいかがなものかなぁ、と思っている。


物事の正確な理解、というのもなかなか難しく、医師、医療従事者も時に勘違いしている節があるようで戸惑うのだが、COVID-19は「普通の風邪」や「インフルエンザと同等」という発言、文面を本当によく見かける。「風邪は万病のもと」ということわざがあるが、「普通の風邪」でも時に命取り、となることはあるものの、COVID-19の重症者数、死亡者数を見ると、私たちが普段感じている「普通の風邪」とは大きく異なるのではないか?と思うのだが。「インフルエンザと同等」なのは「死亡率」であって、感染力が明らかに異なるので、「インフルエンザ」と同じ扱いをすれば、医療機関がクラスターの原因になるのは明確である(待合室は明らかに「密」だろう?)。COVID-19を診ない内科、小児科クリニックがあるのは、「動線を分けることができなければ『医療機関はクラスターの温床』だから」である。


「応召義務」を語っていた人も多かったが、「動線の分離ができていない」という事は正当な理由になると思われる。適切な防護体制を取らなければ、その人を受け入れることで他の患者さんに感染を拡大させるリスクが高いわけであり、「一人」を守るのか、「十人」を守るのか、答えは簡単である。しかも、「普通の風邪」だというのであれば、「受診、診断」をつける必要性があるのか、という話になり、議論そのものが不成立となる。「普通の風邪」ではないから、受診、診断が必要なのだろう?


これは個人的な意見になるが、厚生労働省と法務省が共同で以下の声明を出せば、少しは状況は変わるのかもしれない、と思っている。その声明とは


「医療機関、高齢者施設で罹患したと推定されるCOVID-19、およびCOVID-19に併発した疾患で受けた不利益について、医療機関、高齢者施設及びその職員は免責とする」


というものである。そうすれば、「自分のところが感染拡大の原因となるかもしれない」という「善意」、あるいは「恐怖」、あるいは「罪悪感」でCOVID-19患者さんを受け入れていない医療機関以外は多少受け入れるようになるかもしれない。


そして、その結果がどうなるか、その結果についてどのような感想を持つのか、知りたいものである。


「診れる医療機関では診ているだろう。動線などの問題で現在受け入れていない医療機関は、2類であろうが5類であろうが受け入れられないだろう」という意見、「小さな診療所では「動線を分ける」スペースすらないので、受け入れは無理だろう」という意見がそれなりに散見されたこと、状況を分かっている人がいることに少しほっとした次第である。


因みに、普通のクリニックの外来で、二類感染症である結核、三類感染症である腸管出血性大腸菌感染症、四類感染症のツツガムシ病、レジオネラ症(レジオネラ肺炎)、いずれも経験したことがある(結核、腸管出血性大腸菌感染症は複数回)。研修医時代に1学年上の先輩が四類感染症のレプトスピラ症をERで診察→入院、というのを端で見ていたことを覚えている。1類感染症はすべて「めちゃくちゃヤバい奴」だが、2類感染症より下では、致死率100%だけど4類感染症の狂犬病、5類感染症のクロイツフェルト・ヤコブ病が入っていたりするので、2類以下については、感染症分類と感染症の重症度は必ずしも比例しない、という事は知っておいてほしいと思う(2類→5類になったのは、単純に「重症度が低くなった」という意味ではない、という事である)。

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