第309話 一度も行けずにすみません(土曜日シリーズ)

以前にも何度か書いていることだが、私の一週間の仕事で最もハードなのが「土曜日」の仕事である。第2、第4週は午前の外来担当医が私一人なので、前日からドキドキし、朝のお勤めでは「どうか今日も平和で、ミスをしないように」とご祈念してから出勤している。


昨日(2/4)は第一週目であり、午前診は2人体制なので、「少し余裕があるかも」と一人外来の時よりは少しリラックスした気分で出勤したのだが、やはり土曜日、甘くはなかった。


もちろんいつもと同じように、高血圧や脂質異常症、その他の生活習慣病や慢性の臓器疾患の患者さんが、定期の処方薬をもらいに受診に来られる。高血圧など、いくつかの疾患については、「指導料」なるものが加算(これが結構大きい)されるのだが、「指導料」を取る以上「指導」し、その指導内容を「詳細に」カルテに記載しなければならないと規定されている。診療所や病院などへの「監査」が入る場合、診療内容についてはここを突っ込まれることが多いと聞いている。


お上が「『指導料』を保険請求するのに不十分な診療だ」と判断すれば、「診療報酬の取りすぎ」ということで、取りすぎた金額を「返納」しなければならない。ただ、先ほど述べたように「指導料」は結構大きいので、「返納」となるとその医療機関が潰れてしまうほどの金額になってしまう。そんなわけで、突っ込まれても大丈夫なように(もちろんそれは患者さんのためでもあるのだが)、状態の落ち着いた慢性疾患の方についても、比較的時間を取って診察し、カルテ記載も「指導内容」を記載するため、それなりに時間を取ってしまう。医者になって20年近くなり、当然他の先生のカルテ記載も見るのだが、明らかに私のカルテ分量が多い(1回で紙カルテ(2号用紙と呼ばれている)の半分くらい書いている。多くの先生は4行程度だが、それでは「監査がきたらアウト」である)。そんなわけで、それだけのことをしていることを考えれば、速度はあまり悪くはないのだが。


私の外来は、ぱっと見の診察患者数が、もう一人のDr.の方が多いので(そちらのDr.の方が、かかりつけ患者さんが多く、先生のカルテ記載も少ないので、回転が速い)、私の方に、初診の方であったり、久方ぶりに「調子が悪い」と言って受診された方が回されてくる。そういった方ほど、診察、検査などで時間を使うので、診察した患者さんの数は少なくても、こちらの方が圧倒的に仕事量は多くなる。なのになぜか、なかなかその状況は変わらない(今の職場でも、診療所でも。研修病院時代は、私の担当する午前診、私以外の内科医師はすべて各専門診療科の部長外来だったので、初診の方は私に回ってこざるを得なかった)。

そんな星のもとに生まれたんだぁ、と思いながら仕事をしている。


定期外来の合間に、そのような臨時受診の患者さんが来られる。最初に受診されたのは、2日前に私が「発熱外来」で診察した人だった。初診時の主訴が「1か月前から続く咳、息苦しさ」ということで発熱もなく、なぜこの方が発熱外来に回ったのか分からない(発熱、鼻汁、咳の訴えで受診した人は「発熱外来」に、というルールで医事課が動いているので、そのルール通りになったのだろう。組織が大きくなればしょうがないのだが、なんとなく官僚的な動きで嫌だな)。初診時にカルテを見ると、6年ほど前の胸部CTでも両肺野の気腫性変化を指摘されていた。「多分、COPDが悪化しているのだろうなぁ」と思いながら診察。発熱外来用の問診表で「検査が陰性の時に、医師の診察の上で追加の検査を希望されますか?」という質問欄に「はい」とチェックがされていたこと、予想通りCOVID-19,FluA、FluBの抗原検査が陰性だったので、病歴聴取と胸部写真、胸部CT、血液検査を行ない、やはりCTでは気腫肺を示唆する所見があるもののその他の異常陰影がなく、血液検査も緊急項目では問題がなかったため、「COPDの加齢による進行のために出現した咳嗽、呼吸苦と診断し、LABA+LAMAを処方、2週間後に再診を指示した人だった。今回は「2日前の夕食時にお酒でむせてから咳が止まらない。誤嚥性肺炎が心配」という主訴だった。


診察室に入ってもらい、お話を伺う。夕食後の晩酌をしているときにお酒が気管に入ってひどくむせたとのこと。それから咳が続いているので受診した、とのことだった。発熱なく、SpO2も良好で重篤感はないが、聴診では、2日前にはなかった右の背側でcoarse cracleが明確に聴取された。2週間後の受診時に、と思って先にオーダーしておいたスパイログラム(呼吸機能検査)は、強制呼気がうまくできていなかったものの、フローボリュームカーブの「下に凸」の変化から、閉塞性換気障害は存在すると診断できた。


娘さんは「誤嚥性肺炎」を心配して受診されたが、症状は咳以外にほとんどないが、聴診からはやはり「誤嚥性肺炎」だろうと診断した。前回検査で結構お金がかかっているので、また今日も胸部の画像評価と採血、とすると懐も厳しいだろうと思い、身体所見からは2日前にはなかった呼吸の異常音が、誤嚥性肺炎で典型的な好発部位で聴診されたこと、何度も検査をすると、金銭面でも厳しいだろうと考え、現時点で誤嚥性肺炎と診断し、抗生剤治療を開始することを伝えた。嚥下機能についてはおそらく加齢に伴うものであり、嚥下機能をよくする薬は存在しないことを伝え、ネットで「嚥下体操」を検索すれば、嚥下機能維持のための訓練法が出てくるので(こういう時にインターネットはありがたい)、自身で訓練をしていただくように、と伝え、抗生剤などを処方した。


午前の発熱外来の患者さんのカルテは、すべて私の外来に回ってきたが、A型インフルエンザだった一人を除いて、ほとんど「発熱外来」の呈をなしていないような印象であった。


最初の発熱外来の患者さんは、3週間前にのどの違和感と咳が出現。その後のどの違和感は消えたが、咳だけが続き、近くのクリニックに受診。1週間薬を飲んだが改善せず、同院に再診。薬を変更され、また1週間分処方を受け、「症状続くなら、次回レントゲンを撮りましょう」と言われたとのこと。その後も咳が良くならないので、気になって来た、という方だった。「咳、鼻汁、発熱のいずれかを訴えて受診された初診の患者さんは、『発熱外来』へ案内」という医事課のルールがあるので「発熱外来」対応となったのだろうが、どう考えても異なるだろう。「発熱外来」には「発熱外来用」の問診表があり、その一番下の欄は「発熱外来での抗原検査が陰性だった場合、医師の診察で必要があれば、追加の検査を希望しますか?」という質問で、そこには「いいえ」のところにチェックがついてあった。もちろん、診察前に抗原検査を行なうのだが、予想通り、COVID-19もFluA,FluBとも陰性であった。


チェックが「はい」なら、発熱外来の待合室から、通常診察の待合室に前もって移動してもらい、通常の診察室で診察するのだが、「いいえ」とチェックされていたので、「抗原検査だけを希望されたのだろう」と思いながら発熱外来に向かう。患者さんに抗原検査の結果をお渡しし、これまでの病歴を確認する。予定では次の月曜日にレントゲンとなる予定である。


「それでは、咳止めを少し追加するので、月曜日、かかっている先生のところで検査を受けてくださいね」

「あの、ここでは検査などはしてくださらないのですか?」


ほら来た!。多分そのつもりで受診されたのだろうとうすうす感じてはいたのだが、「追加の検査の希望」に「いいえ」とチェックしているではないか。


「あれぇ?書いていただいた問診表で『追加の検査は…』のところに『いいえ』とチェックされていたのでは?」

「あの、そういう意味の質問ではないと思っていたのですが…。あそこに『いいえ』とチェックをすると検査はしてくださらないのですか?」

「いえ、そういうわけではないですが、あらかじめ『はい』とチェックをしていただければ、前もって普通の待合室に移動していただき、通常の診察室で診察をしたのです。待っている患者さんがたくさんおられるので、『医者が動く』という時間のロスをしたくないので、あの質問がついているのですよ。検査をご希望されるなら特に問題ないですよ。私の後についてきていただき、診察室で詳しく診察させてください」


と伝えて、診察室に戻った。「ちょっと意地悪だ」とは思ったが、あの問診票の文章、勘違いしようのないものだと思っているのだが、どういうつもりだったのだろうか?「初診」の際の問診表、「ワクチン接種」のための問診表、多くの人が「結構適当」に書いてきていて、「もう!前提条件から無茶苦茶やん」とか、「この状態やったら、「ワクチン接種」ダメやん」ということを幾度となく経験しているので、つい塩対応となってしまった。


診察室に戻ってから、喫煙の有無やアレルギー、ぜんそくの有無を確認する。喫煙歴は全くなく、春には花粉症があるが喘息と言われたことはないとのこと。「症状出現時に咽頭不快感もあったから、気道感染症(風邪症候群)を契機とした『感染後の咳嗽』、あるいは『咳喘息』だろう」とアタリをつけ、ご本人は検査を希望されているので「院内で緊急でできる血液検査と、胸のレントゲンを確認させてください」と伝え、胸部レントゲン2方向(これが胸部レントゲンの基本。CTを取るつもりがなければ、健診でなければ必ず2方向をオーダーしている)と院内緊急項目を指示した。


結果が出るまでの間に、他の患者さんを診察し、結果が出そろったところで確認。胸部レントゲンは正面、側面とも明らかな異常を認めず。血液検査も特記すべき結果を認めなかった。前医でCAMを処方されているので、マイコプラズマ感染の遷延についても可能性は低いと判断。時々「百日咳」が見つかるので、「百日咳抗体」は外注項目で提出しておいた。


患者さんを呼び込み、結果を説明。「現時点では、気道感染症の後にしばしばみられる『感染後の咳嗽』あるいは、感染を契機に増悪した『咳喘息』を第一に考えます。どちらも気道過敏性の亢進があり、『感染後の咳嗽』についても喘息の治療で改善することが多いので、今回は『咳喘息』をターゲットとして、吸入薬と、強めの咳止めを処方します。時に「百日咳」が咳の原因としてみられることがあり、その他、院内で検査できない項目は外注検査に提出するので、薬がなくなっても咳が続いていれば、あるいは咳が落ち着いていたとしてもそのころにもう一度私のところに来てください」と伝えた。患者さんは「悪い病気ではなくて安心しました。ありがとうございました」と言って帰って行かれた。それはありがたいのだが、やはり時間を食ってしまうのはつらい。


2枠目の発熱外来はご夫婦で来られ、主訴は発熱、嘔吐、下痢。2日前にお子さんが発熱、嘔吐、下痢で近くの小児科クリニックでウイルス性腸炎として点滴を受けられたとのこと。ご夫婦とも昨日から同じ症状が出現した、とのことだった。普通に考えれば、「感染性胃腸炎、ウイルス性胃腸炎」だろう。ただこれも「発熱」のある初診患者さん、ということで発熱外来対応となっていた。やはりCOVID-19、FluA、FluBとも、ご夫婦ともすべて陰性だった。結果説明のために発熱外来へ。


「検査は陰性で、経過からはお子さんから感染したロタウイルスとかノロウイルスなど、冬季に流行する消化管に感染するウイルスによる胃腸炎だと思います。しっかり水分を取って、お薬を出しておきますね。」

と伝えると、奥様から


「あの、私、今何を飲んでも吐いてしまうのですが、点滴ってできますか?」

「もちろんですよ。大変しんどいですね。ご主人は大丈夫ですか?(ご主人は「点滴はいらない」と意思表示)、そしたら、奥様は2時間ほどかかりますが、点滴をしましょう」と伝えた。ご夫婦で相談され、ご主人はいったん帰って、あとで迎えに来るとのこと。奥様を点滴室に案内し、晶質液+ブドウ糖+制吐剤の点滴をしてもらい、ご夫婦には同じように整腸剤、消化管を動かして嘔気を抑える薬、制吐剤、解熱剤を処方した。


3枠目の発熱外来は、これは適切な案内で、検査の結果はA型インフルエンザ。タミフルについては数年前に「10代の人への処方は禁忌」の指定が外れたが、やはり10代の方への処方にはためらいがあり、イナビルと対症療法薬を処方。診断書が必要な場合は、「明日から学校に行く」という段階で受診してもらうよう伝えた。


そんなわけで、発熱外来や、複雑な病態の方(定期薬をもらいに来たが、他院で抗がん剤治療中で、抗がん剤を始めてからひどい下痢が止まらず、下痢止めも効かない、という方など)を、話を聞いて、診察して、カルテを書いて、としていると、時間が足りない。いつの間にか12時の受付終了時間が過ぎ、隣の診察室は診察終了しているにもかかわらず、私の外来だけ「カルテ山積み」状態となっていた(受付番号は60番台で、こちらの診察室も25人以上診察しているのだが)。土曜日なので、高次の病院はほとんどが休診であり、外来を開けているところも12時までなのだが、12時を超えてから(患者さんの受付時間が11:20分ごろ)、困った患者さんが続けてやってきた。


最初の方は、主訴は「数日前から右上肢だけがむくんできて、息が苦しくなってきた」ということだった。コントロールは良好な糖尿病と、詳細不明のCKDstage3bをお持ちの50代男性だった。


全身性の浮腫の原因としては、心臓、腎臓、肝臓に問題があることが多いのだが、身体の一部分だけの浮腫、といえば、「リンパ性浮腫」か「深部静脈血栓症」を考えるべきである。お体を診察しても、右の上肢、手背はpitting edema(押さえるとペコンと凹む浮腫)がはっきりと診られたが、左の手背、両下肢にはpitting edemaは認められなかった。特段手術をされている方でもないので、リンパ浮腫も否定的である、とすれば右上肢の深部静脈血栓症が疑わしい。しかもご本人は息苦しい、と言っておられる。特に動くと息切れがひどい、とのことである。SpO2を測定したが、パルスオキシメーターも安静時で94~96%と不安定で、爪の色は紫っぽい感じがする(チアノーゼがあるようだ)。病歴、身体所見を見れば、「右上肢の深部静脈血栓→肺塞栓症」が最も可能性が高い。しかしその診断を現時点の当院でつけるのは不可能である(確定診断に必要な検査が何一つ行えない)。とるものもとりあえず、院内でできる胸部レントゲン写真2方向と、院内至急採血を確認することとした。


「いやぁ、困ったなぁ。12時を過ぎたら、地域連携室が病院探しをしてくれないから、私が病院探しをすることになるのかぁ、厄介だぁ」と思いながら、次の患者さんを呼び込んだ。


20代後半の男性、主訴は数日前からの上腹部痛、腰背部痛とのこと。お話を聞くと、この2週間ほど深酒が続いていたそうである。今朝起床時から上腹部と腰背部に波のないズーンとした重い痛みが出現し、よくならない、とのことで受診されたそうである。受付時間は11:50のようだ。とりあえず診察をする。


腹部は平坦、軟。上腹部に自発痛はあるが触診で痛みは悪化しない。明らかな圧痛、反跳痛はなし。Heel-drop testも陰性で腹膜刺激症状はない。腰背部は背部上部よりも、いわゆる「腰痛」と言われるような低位腰椎当たりの鈍痛だ、とのことだった。


痛みの高さはずれてはいるが、心窩部痛と腰背部痛がそろっているのは悩ましい。深酒が続いている、となれば膵炎も鑑別する必要があり、そうなれば、腹部CTと採血が必要である。


そんなわけで、ずいぶん待たされ、少し不機嫌となっている患者さんに想定される疾患をお伝えし、検査の指示を出した。


その後も患者さんは残っており、ほとんどが定期受診の患者さんだったが「遅くなり、すみません」と謝罪しつつ、診察をこなしていった。一通り、患者さんを診察し終わったのは13:20頃だったか?


丁度そのころに、最初の方の結果が出た。胸部レントゲンでは、正面像では2022.10月にははっきり見えていた正面像でのCP-angleはdullとなっていたが、側面像では明確な胸水貯留ははっきりしなかった。血液検査、尿検査は、血液検査では軽度の正球性貧血(腎性貧血?)はあるものの、白血球、血小板に異常なく、CRPも基準値内。肝酵素は問題なく、電解質は異常ないものの、腎機能低下は著明。ただこれは以前からのことであった。検尿は尿潜血(3+)、尿たんぱく(3+)、沈査で白血球も赤血球も見られている。よろしくないデータだが、今回の病態を解明するためには役に立たない。


患者さんを診察室に呼び込んで結果説明。


「検尿結果、採血結果は腎機能が極めて悪くなっているのは分かりますが、今起きている右手だけのむくみ、息苦しさの原因を同定するものではありません。右肺には『胸水』と呼ばれる水が溜まっているようですが、心臓の拡大がなく心臓にそれほどの負担がかかっているわけではなさそうです。しかし、今回の原因検索、治療のためには大きな病院での精密検査、治療が必要です。すぐに紹介状を書いて受診できる病院を探します。待合室で待っていただき、時間をください」と伝え、大急ぎで診療情報提供書を作成する。これまでの採血結果、今日の採血結果、今日のレントゲンの結果については補助についていた看護師さんに用意をお願いし、大急ぎで作成するが、それでも10分程度はかかる。


書類の準備ができたら、看護師さんが「そしたらこれを地域連携室に持っていきます。病院を探してもらいます」と言ってくださった。紹介状の病名ではややこしいので、地域連携室や、相手方の病院の事務、看護師さんには難しいだろうと考え、別の紙に「病名:右上腕の深部静脈血栓症+肺塞栓症の疑い。基礎疾患:コントロール良好の糖尿病(HbA1c 6.3%)、慢性腎臓病ステージ3b」と書いて、「病名を聞かれたら、このように答えてもらってください」と伝言をお願いした。


病院が決まらなければ、あるいは地域連携室が「もう対応時間を過ぎましたから」と断られたら、私が動かなければしょうがないのだが、何とか一つ緊急の対応にけりをつけた。


そして二人目の採血と腹部CTを確認した。血液検査は緊急項目は明らかな異常なし。そして腹部CTを見て、頭を抱えてしまった。


周囲の脂肪組織の濃度上昇など、急性膵炎の所見はないが、膵体部だけが不自然に大きくなっている。画像上「椎体(脊椎)の横径2/3以上の大きさなら膵腫大」と簡便な判断方法があるのだが、膵体部の大きさは椎体の横径とほぼ同じかやや大きめ。他の膵臓の部分は、少し表面がデコボコしたりしているのだが、膵体部の大きくなっているところだけ、表面もツルーンとしていて、CT値に違いはないが、なんとなく膵頭部、膵尾部とは様子が異なっていた。膵腫瘍を疑うが、これまた、当院では十分な評価ができない。


患者さんに診察室に来ていただいて病状説明。「今回の心窩部、背部痛との関連は分かりませんが、膵臓の真ん中あたりが不自然に大きくなっています。これは痛みの原因の可能性かもしれませんし、そうではないかもしれませんが、詳しく調べる必要があります。大学病院に紹介状を書きますが、今日は大学病院はお休みなので、受診予約が取れるのは週明けになります。予約が取れたらこちらから連絡しますので、紹介状と予約票を受付に取りに来てください」と説明。現時点での心窩部痛については、胃酸を抑えるPPIという薬と、比較的強い痛み止めの「トアラセット」を処方し、診療情報提供書をまた書き始めた。そんなわけでまた時間を使い、午前の診察が終了したのは13:45頃だった。


「先生、お疲れさまでした。午後のワクチン、14:30からで、60名の予定です」と看護師さんから言われる。


「マジか!」と思った。確か先日の医局会では「2月はワクチン外来は空きが多い」と聞いていたのだが、予約は完全に埋まっていた。しかも、ワクチン外来まで1時間もない。ワクチン外来開始の15分くらい前から消毒用のアルコール綿花などの用意をするので、実際30分しかない。


とりあえず大慌てで昼食のために医局に上がり、食事をとった。


病棟待機の先生に「今日は大変でした~」とお話しすると、先生も「こっちも大変でした~」とのこと。緊急でレスパイト入院(家族が患者さんを介護できない期間にあずかるための入院)の依頼があったとのこと。患者さんは数日前に転倒し、近くの高次病院であるH病院に搬送。検査をしたが、「異常はありません」と言われ帰宅となったが、ご家族の介護負担が大きくなったため、きょう緊急で「レスパイト入院をお願いしたい」と連絡があったとのこと。かかりつけ医からもらったデータを見ると、明らかにデータがおかしかったため、「午後一時に受診してください。そこで診察し、受け入れ可能ならうちでレスパイト、異常があればH病院に転送します」と段取りを組んだそうである。1時の受診前に様子を伺いにケアマネージャーさんがお宅に伺ったところ、お宅で亡くなられていた、とのことだった。


外来も大変だったが、そちらも大変であったようだ。今日はどうもツイている日のようである。


大急ぎで食事を済ませ、ワクチン外来のためにもう一度外来に降りた。ワクチン外来の部屋では、接種用のワクチンが用意されており、看護師さんからアルコール綿花をもらい人数分、一枚ずつ離して取りやすいように積んでいった。そんなことをしている間にワクチン外来の時間となり、ワクチン開始。患者さんを呼び込み、体調を確認し、胸部聴診を行なう。


COVID-19ワクチンは上腕の三角筋に接種するのだが、冬で皆さん着込んでおり、三角筋部を露出するのに手間がかかる。高齢の方が多いので、お手伝いをして、何とか三角筋の接種部位を露出し、消毒してワクチンを接種する。頑張って接種するが、高齢の方で、入室に手間がかかり、三角筋部の露出に手間がかかり、退室に時間がかかる。となれば当然時間がかかる。


病棟の指示最終時間は15:30、スタッフの勤務時間も16:30までである。私といえば、朝回診(これは看護師さんの勤務帯としては前日の当直帯)で回診を回った後は、病棟に行く暇もなく外来縛り付けの状態であった。日勤の看護師さんから医師への依頼などは、Dr.ボードに書いてくれているのだが、いかんせん、日勤帯に病棟に上がる暇もなかった。15:30頃、病棟のリーダー看護師さんから私のPHSに連絡があり、


「先生、〇〇さんと××さんの指示をいただきたいのですが」

「了解しました。今ワクチン外来中なので、終わり次第すぐ行きます!」


と待ってもらったものの、ワクチン予約枠は15:45まで設定されており、到底指示受け時間の終わりまでには間に合わない。下手をすれば、スタッフの退勤時間にも間に合うかどうかである。内心イライラしながらも、笑顔で、コンスタントにワクチンを接種していった。


突然のキャンセルが出たときのため、ワクチン外来の時はわざと最後の1バイアルは開けずに、終了直前でワクチンを用意するようにしている。なので、16時前、残り4人のところで用意していたワクチンがなくなり、ワクチン補助の看護師さんから、「ちょっとワクチンを用意してきます」とのことでちょっとした空き時間ができた。


「指示を出すなら今しかない!」と思い、大急ぎで病棟に駆け上がり、依頼されていた指示を出した。


そして大急ぎで外来に戻り、待っておられた患者さんに「すみません」と言いながらワクチン接種を再開。結局ワクチン外来が終了したのは16:25であった。


本当に時間いっぱいまで頑張った。医師の勤務時間は17時まで、既定の勤務開始時刻は9時からなのだが、私は7時から出勤し、この体たらくである。


食事をするのもままならず、トイレに行くのもままならず、ハードな仕事を終え、ようやく1週間が終わった。


しかしながら、私の外来、どうしていつもこんなに悩ましいことが起きるのだろうか??しかも20年近くである。ただただ笑うしかないのだろうかな?

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