第305話 これまた、ひどい話もあるものだ。

ニュースソースは神戸新聞。


急病人の救急搬送を妨害したとのことで、2/2 兵庫県芦屋市の会社役員の男性(48)を「公務執行妨害」の疑いにて、県警芦屋署が逮捕したとのこと。


逮捕容疑は2022年11月26日午後7:50~午後8:10頃、自宅近くの路上で救急活動に従事していた救急隊員3名に対して、救急車の窓ガラスをたたくなどして職務を妨害した疑い。調べに対して「故意に遅らせようとしたわけではない」などと話しているという。


警察署によると、男性は当時、自宅付近で息子さんとキャッチボールをしていたとのこと。救急隊員は119番の要請を受けて、この近くで急病の男児の搬送作業をしており、退院の一人が救急車を出発させるために、少し離れるように声をかけた。直後、男性が救急車に近寄り「うちの息子に何言うたんや」「いつまで止めてるんや。赤いライト点けたままやったら近所迷惑になるやろ」などと激高。隊員が出発しようとすると、助手席側のアドから手を差し入れるなどして、さらに出発を妨害したとのこと。


妨害を受けた隊員が同市消防本部に応援要請をかけ、到着した別の救急車が約20分後に男児を乗せて出発したとのこと。男性は「病人が乗っていることは後から知った」などとも話しているとのことだそうな。


まず最初に、救急隊の方に心から「大変お疲れさまでした」と言いたい。大体このようなトラブルはファーストタッチで起きることが多い。救急隊が接触した時、とか、病院側では受付で、とか、ER/救急外来で、ということが多いように思う。救急隊員の方、現場によっては二次被害(負傷者が危険な状況下に居り、救護者自体がその危険な状況で被害を受けること)を受けることもあり、命がけで仕事をされているのは、ER/救急外来で医師をしていればよく知っていることである。


逮捕された男性は「自宅近くで」「息子さんと」キャッチボールをしていたとのこと。しかし、時刻は11月のPM8時前後である。まず一番の疑問は「ボールは見えたのだろうか?」ということである。何かしら、照明でも当てていたのか、街灯でもあったのか、商店などの近くで明るかったのだろうか?


しかも、その時間に「キャッチボール」ということなら、息子さんもそれなりに大きくなっているのではなかろうか?少なくとも、幼稚園や保育園、小学校低学年の子供と、8時ころにキャッチボールしようとは思わないだろう。むしろ、もうちょっと子供さんの年齢が上で、少年野球などをやっていて、その練習のためのキャッチボールだったのではないだろうか?


これは個人的な感想ではあるが、そのようなところに救急車がサイレンを鳴らして到着し、しばらく救急車が赤色灯をつけて止まっていれば、野次馬根性ではないが、「何だろうか?」と気になったり、心配になったりしないのだろうか?救急車を呼んだのはご近所さんだろう?


しかも救急隊が出発しようとしたときに、少し離れてほしいと伝えるくらいだから、よほど救急車の近くでキャッチボールをしていたか、道の真ん中あたりでキャッチボールをしていたかだろう。それだけ近ければ、救急隊員が傷病者をストレッチャーに乗せて、救急車内に搬入する音も聞こえるだろうし、様子も見えるだろう。「出発しそうだ」という気配もわかるのではないか??そういう点で、わざわざ救急隊が「少し離れてほしい」と言わなければならなかった状況が明らかに不自然だと思う。


救急隊員が、そのご家族に「少し離れてほしい」旨伝えた際に、救急隊員の言い方が「横柄だった」とか、「乱暴だった」というのは少し考えにくいと思っている。もちろん、救急隊員は厳しくトレーニングをされているのだが、それだけではなく「トラブルなく可及的速やかに」傷病者を搬送したいからである。変な言い方をしてトラブルになったら、それこそ今回のようにややこしくなってしまう。1分1秒が生死を、患者さんの予後を左右するのは彼らも骨身に染みついている。なので、隊員のキャラクターによっては多少不愛想に響くのかもしれないが、丁寧語で話していただろう。


なので、この男性の激高した意味が分からない。「うちの息子に何言うたんや」と。よしんば、仮に救急隊員の言葉がきつく聞こえたとしても、少なくともこの親子は、急病人を乗せた救急車の発車の「」になっていたわけである。言われるまで動こうとしない方がおかしかろう?


「いつまで止めてるんや。赤いライト点けたままやったら近所迷惑やろ」。新聞では「急病の男児」を収容したと書いてあるので、この男児の親御さんが同乗していただろう。親御さんは、この言葉をどのように聞いただろうか(当然聞こえるだろう)。同乗していた親御さんが怒り狂わなかっただけえらいと思う。それに、この救急車は救護活動をしており、しかも出発しようとしていたわけである。赤色灯をつけるのは「当たり前」である。繰り返し書くが、「」である。この男性のせいで出発できないのである。いったい、自分が何を言っているのか、何をやっているのかわかっている(わかっていた)のだろうか?


そして挙句に救急車の発車を妨害し、救急隊が別の救急隊を呼んでようやく20分後に「急病の男児」は現地を出発できたわけである。搬送された男児のその後の病状は記載されていなかったが、20分の足止めが命を奪ったり、高度な後遺症を残したりするのは珍しくはない。その間の親御さん、どれほど心配であっただろうか?その心中、察するに余りある。


男性は警察署での調べに「故意に出発を遅らせようとしたわけではない」「病人が乗っていることは後から知った」と言っているようだが、「何をか言わんや」である。救急車の邪魔になるほど近くでキャッチボールをしていたのであろう。救急車がやってきて、止まっているというだけでも何が起きているか、容易に推測ができるだろう。当然急病人を乗せているから赤色灯を点けて、出発しようとしたわけである。男性の言動によって「急病人」の搬送が20分も遅れたのは事実である。どう聞いてもかなり無理目の言い訳にしか聞こえない。


状況からは、この男性の息子さんの方が救急車のより近くにいたのだろう。声を掛けられるまで自分が救急車の邪魔になっていることに無頓着だったのなら、彼はよほど気が回らないのか、自分が良ければ他人はどうでもいい、と思っているのだろうか?もしそうなら、それもとても残念なことである。


自宅の近所のお宅のお子さんが急病で救急車を呼んだのに、その搬送を20分も遅らせたのだろう。多分ご近所さんの目は冷たいと思うなぁ。その場所で住み続け、生活を送るのはとてもつらいだろうと思う。もしかしたら、この出来事が起きる前から、ご近所さんの目は冷たかったのかもしれないが。男性の職業が「会社役員」となっているので、お金持ちでひょいひょいと引っ越しして新しい家を買えるのかもしれないが。


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