第284話 2類でも5類でも

春にCOVID-19を2類から5類に変更する、という話が持ち上がっている。まぁ、世間の同意を得るにしても、その時期にCOVID-19が流行していなければいいなぁ、と個人的には思っている。


世間では「5類にするタイミングが遅い」という批判もあれば、「5類にすれば医療崩壊は防げる」という意見、「5類にしても自己負担額が増えるだけで特に状況は変わらない」という意見もある。私は「5類にしても、状況は変わらない」と思っている。ただ、これ以上COVID-19に税金を投入するわけにもいかないので、「5類にせざるを得ない」とは思っている。


作家の知念 実希人氏も、氏のtwitterで、「5類に変更したからといってすべての医療機関が対応できるわけではない。眼科が心筋梗塞を診ないようなものである(趣意)」とtweetされていたが、同意である。


昨日、北海道でリハビリテーションを中心に急性期も守備範囲として脳神経外科医として働いている友人から電話をもらった。当然のことながら、日本全国、どの病院もCOVID-19の洗礼を浴びている。私はまだそのようなクレームをもらったことはないが、彼は「リハビリを目的で入院しているのに、コロナでリハビリができない状態になるとはどういうことだ!貴重な時間を失ったことに対して損害賠償を請求したいぐらいだ!」という家族からのクレームを受けたりしていると聞いた。彼の話を聞いて、「これでは、COVID-19を5類感染症としても受け入れ病院は増えないよな」と強く思った。


感染症法の分類が2類であろうが5類であろうが、そんなこととは関係なく、COVID-19は極めて感染力が強く、高齢者の感染ではCOVID-19が契機になって命を落とすこともある、若い人でも時にサイトカインストームや血栓症などで命を落とすことがある病気であることには変わりがない。なので、下手に普通の病棟に入院させれば、その病棟全体が容易にクラスター化してしまう。普通の待合室で診察を待っていたら、診察室でクラスターを起こすわけである。インフルエンザはCOVID-19に比べて、はるかに感染力が弱いので、マスクをしていれば普通の待合室で診察を待つことができただけである。


なので、COVID-19を疑う患者さんであれば、一般の患者さんとは別の隔離されたエリアで待ってもらわなければならない。ということは結局発熱外来のスタイルを取らざるを得ないわけである。


入院したとしても、大部屋に、他の疾患の人と一緒に入院させてしまえば、病室の患者さんはみんな感染してしまう。看護や介護をする人も普通の仕事着で仕事をすれば容易に感染してしまうわけである。となれば、入院はやはりCOVID-19専用病棟、あるいはCOVID-19感染者を集めた病室を用意し、その病室を担当するスタッフは感染予防のためにPPEが必要となるわけである。COVID-19の患者さんが一人入院すれば、その部屋はCOVID-19専用病室とせざるを得ず、例えばそれが4人の大部屋であれば、他にCOVID-19の患者さんがいなければ残りの3床は空床とせざるを得ない。


以前も書いたことであるが、病棟の損益分岐点は、稼働率90%あたりにある。私の勤務している病院は70床弱の病床数である。大部屋は5人部屋である。となると、男性のCOVID-19患者さん一人、女性の患者さん一人が入院すると、その二人のために8床が空床となる。これだけで損益分岐点を割ってしまう。当然、緊急入院に備えて、いくつかは空床を用意しておかなければならないので、その8床以外にも空きベッドを備えておかないといけない。となると、病棟は真っ赤っ赤である。


ということで、各医療機関が無駄な空き病棟を抱える、ということになると日本全体の医療が危機に瀕するわけで、COVID-19専用病棟として、COVID-19患者さんを集約するのが効率的である。と考えると、現状と何も変わらない。どの医療機関でも対応しなければならない、というのは屁理屈で、待合室でのクラスター発生を許容しないのであれば結局、動線の隔離された待合室と診察室を持つ医療機関でなければ二次感染を起こさずに診察はできない。COVID-19専用病棟を持つ病院でなければ入院を受け入れることはできない。当然重症者が増えれば、「重症管理」をできる設備を持つ病院でしか対応できない。


となれば、今と何が違うのだ?と思わざるを得ない。結局、2類と5類の違いは、自己負担の有無だけ、ということになるのがオチであろう。おそらく学生については、インフルエンザなどと同じように、現在の隔離期間がおそらく出席停止期間となるであろう。社会人は法的な規定がなくなるが、その分、容易に流行は広がるであろう。


どうか、5類になり、診察室クラスターや病棟クラスターが発生したとしても、医療機関や医療スタッフに文句を言うのはやめてほしい。COVID-19はそんな病気なのである。病原となるウイルスや細菌なども自然の営みの一つであり、自然の前に人間は無力である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る