第255話 天下の大新聞なんでしょ?

昨日のこと。仕事から帰り、朝に読めなかった朝刊と、夕刊を読む。今の時代、「新聞を読む」ということは少し時代遅れの行為なのかもしれないが、私たち医師がイメージするところの原著論文と“Up to date”の関係と同じように、出来事を簡潔に整理し、提供するツールとしての新聞はまだまだ重要な存在だと思っている。


年末も近づき、今年一年を回顧する記事も多く記載されている。昨日の朝刊のローカル面では、大阪のCOVID-19にかかわることについて回顧する記事が載っていた。


2021年12月から第6波が始まったようで、この第6波以降はオミクロン株系統のウイルスが流行を起こしているとのことだ。なので、おそらく私もオミクロン株に罹患したのだろう。オミクロン株の流行とともに、一つは感染者の爆発的増加、もう一つは重症化率、死亡率の低下(これは薬の開発や治療法が確立されてきたことの影響も大きいと思うのだが)が目立ってきた、とのことだった。現時点では季節性インフルエンザと同等の重症化率、死亡率となっており、9月下旬からは全数把握を行わなくなった。保健所が実名、住所も含め把握するのは65歳以上の高齢者、妊婦さん、COVID-19重症化のリスクを持ち、(これは私の地域の保健所だけのルールかもしれないが)実際に抗ウイルス薬での治療を行なっている人、重症度の高い方だけとなり、それ以外の方は、保健所には患者数のみを病院側は報告し、患者さん自身が「陽性者登録センター」に登録することとなった。


大阪府としては、それと並行してオンライン診療や往診をできる体制を整えているとのこと。現時点で1日に4000人程度をオンライン診療/往診できる体制を整えたとのことである。


自宅で抗原検査キットで陽性と診断された方については、オンライン診療でも問題ないだろうと思うが、発熱外来そのものをオンライン診療、とするのは危険だと思っている。実際にこの目で患者さんを見て、身体診察を行なわなければ、重大な見逃しをする危険性が高いと私は思っている。


さて、私が「いかがなものか」と思ったのは、その「発熱外来」のことである。記事では、府内で2958の医療機関が発熱外来の指定を受けているが、全病院のうち約7割、診療所(クリニック)のうち約4割とのこと。ただこれが、日曜、祝日になると289施設と1/10になる、とのことだった。


上記のように書くと病院のうち3割、診療所の6割が「非協力的」という印象を受けるが、ちょっと待ってほしい。「病院」、「診療所」とひとくくりにしているが、病院にも、それぞれ異なる役割を担っており、診療所も同様である。


大阪には「国立循環器病研究センター」という巨大な病院を持ち、24時間365日患者さんを受け入れているが、その病院は「COVID-19発熱外来」を開設すべき病院なのだろうか?「大阪国際がんセンター」は「COVID-19発熱外来」を開設すべき病院なのだろうか?


また逆に、療養型病床を中心とし、急性期医療をほとんど行わない病院に「COVID-19発熱外来」を運営する人的資源があるだろうか?そういう点で考えると3割の病院が「発熱外来」を開設しない、あるいはできないのはやむを得ないところではないかと思われる。


診療所、となれば内科、小児科以外の診療科を掲げているクリニックは多数ある。院長の思いで左右されることだとは思うが、眼科や皮膚科、精神科などのクリニックが「発熱外来」を開設しないことを非難はできないと思う。そういう点で、6割の診療所が「発熱外来」を開設しない、ということも不自然ではないと思う。


また、「発熱外来を開設している医療機関は公立病院、公的病院が9割にも拘わらず。民間病院は4割」という記載もあった。公立病院・公的病院は圧倒的に地域の中核となる急性期病院が多い。民間病院にも、たくさん地域の中核となる急性期病院はあるが、いわゆる療養型、慢性期の病院となると圧倒的に民間病院である。


以前にも書いたことではあるが、場所的な問題、人員の問題、動線の問題を勘案すると、療養型、慢性期が中心となる当院では1時間に一人、1日に6名ほどが限界である。新規感染者数20万人に対して6人、どれほどの貢献やねん、という思いになるが、当院としては「発熱外来」を開いていることだけでも、ずいぶんな負荷になっているのは確かである。病院によっては当院よりも多い入院患者数を常勤医3人で診ているようなところもあるわけである。


私の兄弟子も療養型病院の院長をしていた時は、担当患者さんが120人、毎日全員の回診は不可能だったので、全員の発熱、排便の有無、食事量を確認して、あとは曜日ごとに決められた病棟の回診を行ない、その後、臨時で調子の悪い方を診察する、という仕事の仕方をしていた、とおっしゃられていた。もちろんそのような病院では、「発熱外来」は無理だろう。


ということを考えると、「民間病院は4割」ということについても、民間病院の急性期、慢性期・療養型の病院比率を勘案する必要があると思われる。そこまで考えれば、「民間病院が4割」というのが、不当に低い数字なのか、妥当な数字なのか明らかになるであろう。新聞の「回顧」記事であるので、そこまで深堀してこその新聞だと思うのだが、それを要求するのは、現場の医療者の「傲慢」なのだろうか?


記事全体としては、まとまって分かりやすかったのだが、わかりやすい分、さらっと流されている部分の考察がもう少し深ければ、と残念に思う記事でもあった。問題の深堀りをしていくのが「新聞」というメディアの重要な仕事だと思うので、もう少し頑張ってほしい、と少し上から目線の感想を持った次第である。

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