第233話 他人事じゃないし、真剣に考えないといけない。

イギリスの医療システムは、欠点はあるものの非常によくできたもので、現在日本で「かかりつけ医」制度を実施しようとしているが、イギリス型の医療システムの利点を導入しようとしているのだろうと思われる。


イギリスの「国民保健サービス」システムは、それぞれの患者さんがその地域ごとに存在する「かかりつけ医」を持つ。「かかりつけ医」となる医師は日本の開業医のように、それぞれの専門医が独立に開業するわけではなく、「一般内科医(General Physician)」として、「かかりつけ医」という専門教育をうけた専門医が国民保健サービスでのクリニックを受け持つ(もちろん、地域のクリニック数は人口によって厳密に決められている)。なので「うちは内科なので小児科は診ません」とか、「外科じゃないので、切り傷の縫合処置はできません」ということはなく、よほどの重症、あるいは緊急性のあるものでなければまずこのGPが対応することになっている(重傷、緊急性のある患者はERに運ばれる)。そして、GPが「この状態は専門医の医療を要する状態」と判断し、紹介状を作成して初めて専門医、高次医療機関への受診が可能となる。この「国民保健サービス」に沿っている限りは医療費はほとんどかからない。


ところが残念なことに、「国民保健サービス」、GPから専門医への受診に時間がかかるのである。せっかく早期大腸がんで発見されたのに、専門医受診は3か月後、専門医に受診した時には進行がん、となっていることが頻発している。なので、急いで受診したい場合は、国民保健サービスから離れて、「自費診療」という形で「自費診療」を行なっている専門医、高次医療機関を受診する、という事になる。この場合は自費診療なので、それなりにお金がかかるが、それでもアメリカの医療費と比べれば話にならない金額ではある。


医療経済学では、医療の3要素である「アクセスのしやすさ」「高度な医療」「安価な医療」の3つを同時に成り立たせるのはほぼ不可能、とされている。そういうことを考えれば、日本の皆保険制度はうまくやっている方である。


閑話休題。ウクライナ侵攻などで、イギリスでもインフレが問題となっており、庶民の生活が圧迫されている。当然医療従事者も同様で、特にこの「医療保険サービス」にかかわって仕事をしている医療従事者は、賃金を国からもらっているため、非常に生活が厳しくなっているそうである。そんなわけで、「医療保険サービス」を支えている看護師さん作る労働組合「王立看護協会」が賃上げストを予定している、とのことである。この10年、賃金が上昇しておらず、実質的な実質所得の低下、低賃金のため看護師が集まらず、慢性的な人手不足に陥っており、患者さんのケアにも悪影響が出ている、とのことである。ただ、国側は賃上げを受け入れておらず、看護師さんのストライキは行われる可能性が高いとのこと。ストライキによって約10万人の患者さんの受診、手術、処置などに影響が出ると予測されているとのニュースだった。


日本でも、COVID-19の流行とともに、特に看護師さんの働き方に大きな変化が起きているそうである。昨日の医局会で事務長が困っていたが、私たちのような小規模の病院/有床診療所に看護師さんが応募してこなくなった、とのことである。急性期病院ではCOVID-19の流行で仕事がハードとなり、燃え尽きてしまう看護師さんが多数出てしまう一方で、単発のワクチン接種などのアルバイトで高給が得られるので、常勤として働くよりも、非常勤で高給のアルバイトを掛け持ちする方がはるかにお金になるからかもしれない、と私としては考えているのだが。


それはさておき、医療従事者がストライキを起こす、というのはよほどのことである。ニュースでも「王立看護協会」が設立されて126年の歴史の中で初めて、とのこと。それほど看護師さんは薄給に困っているのである。どうか、国民保健サービスにかかわる看護師さんが、「普通の」生活が過ごせるようになることを願っている。

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