第128話 う~ん、そんなところに統一教会の影響があったか。

私たち夫婦がちょうど結婚を決めたころ、国会内で「夫婦別姓」の論議が盛んであった。世論調査でも「夫婦別姓を支持する」意見が半数を超えていたのだが、結局国会では法案は流れてしまった。法案が通っていれば私たち夫婦も別姓にしよう、と考えていたのだが、結局妻に姓を変えてもらうことになった。


今回の「旧統一教会」の問題が明らかになり、政権内部での影響力がそれなりに大きかったことが明らかとなったことで、夫婦別姓の問題やLGBTQの問題などについて、保守的な意見が国会内で多数となったこと、またそこに旧統一教会の家庭観との関連があったことも明らかになった。今日のニュースで見たが、とある地方議員からは、「私の持つ家庭観は、統一教会の家庭観と共通することが多く、彼らの意見に賛同し、また彼らも私を選挙で支持してくれた」という声も上がっている。


自民党と「旧統一教会」との関係については「しっかり調べていく」という岸田首相の言葉があり、それに対して「逃げの姿勢だ」という批判も多数出ている。


確かにこの問題、うやむやにしてはいけない問題だと思う。しかし、拙速に対応するのも不適切な問題である。


「信教の自由」と「政教分離」について、ネットでのコメントを見ると、まだ十分に理解していないと思われるコメントが多数みられることを残念に思っている。そして、この問題が「政治家」と「特定宗教」の癒着、とみている人が多いのも残念なことである。この問題の本質は「政治家」と「宗教団体、信仰を隠れ蓑として犯罪行為を繰り返す『反社会的組織』」との癒着、ということである。宗教団体との関連、ではなく、反社会的組織との関連、ということである。


政教分離のことについては、どうして誰もこのことに触れないのか、私には全く理解できないのだが、大切なことを取り上げたい。


第55代内閣総理大臣 石橋 湛山氏のことである。彼を誹謗するつもりではないのは理解いただきたい。岸 信介氏との派閥抗争で、連立派閥を組み自民党総裁となり、第55代内閣総理大臣となった石橋 湛山氏は、現職の総理大臣であると同時に、日蓮宗の現職の僧侶で「大講頭」という僧階にいた。そして、総理大臣に就任したことで、日蓮宗から「権大僧正」の僧階を与えられた。ちなみに「権大僧正」は僧階としては、2番目に高い位である。


石橋氏は、総理大臣の地位に就いたが、体調不良のため総理大臣としての職務を行なえず、「職務を行なえない私がこの地位にいるのは間違っている」として就任から50日ほどで総理大臣、自民党総裁を辞任、その後岸 信介が総理大臣となったという歴史がある。


「宗教と政治は切り離さなければならない」と誤った認識をしている人は、この石橋 湛山氏が総理大臣の地位にあったことをどう評価するのだろうか?なぜこの石橋 湛山氏のことを提示して、マスコミは「政教分離の原則」の正しい解釈を伝えないのだろうか?私にとっては不思議でしょうがない。


石橋氏が総理大臣となったことは、「政教分離の原則」とは相違しないと私は考えている。「政教分離の原則」は「宗教者は政治に口を出してはいけない」という意味ではなく、「政治が特定の宗教に特権を与えてはならない」ということである。なので、日蓮宗の現職の高僧が総理大臣の座に就いたとしても、そのことは憲法違反でも何でもない、全く問題のないことである。さらに言えば、自身の体調不良を理由に、速やかにその座から降りた、というのは彼の宗教的倫理観による潔さを反映しているのかもしれない。


一方で、平成の天皇が即位した際に、一部キリスト教団などが訴えを起こしていたが、天皇即位の際の神事、新嘗祭などに国費を出すのは「政教分離の原則」に反する、という訴え、その訴えのほうがより正しく「政教分離の原則」を反映していると思われる(「神道」という宗教に政治的特権を与えている、と解釈されてもおかしくはないだろう)。


大日本帝国憲法でも一応「信教の自由」はうたわれていたが、特に太平洋戦争時代、信教の自由は反故とされていた。神道を実質の国教(国家神道)とし、既存の宗教団体に対して、大麻(神札)を祀ることを強制し、それを拒否する教団や、それを受け入れても、教義上、国家神道を脅かす教団に対しては「不敬罪」と「治安維持法」で検挙し、多くの人たちが弾圧、拷問を受け、少なくない人が獄死をしているのは歴史上の事実である。


日本国憲法の「信教の自由」は、大日本帝国憲法下での「国家神道の強制と宗教弾圧」の反省の上に立っているので、その教団の宗教法人格の取り消しには、その教団が「反社会的な行為を繰り返している」ということを明確にしなければならないので、きわめて慎重に行われなければならない。


そういう点で、慎重な調査は必要だと思う。ただ、時間をかけている間に、政治家ではなく人々の心の中で、旧統一教会の問題が風化していくことが最も恐ろしいことだと思っている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る