第125話 どうやって戦うというのだ?

以前にも書いたが、現在、日本中で様々な薬が不足している。製造メーカーの問題、原材料の問題などで、普通に使っているがキーになる薬が複数入手不可能になっている。


抗生剤についても、非常に有用な薬剤であるセフトリアキソンが不足し、在庫切れになったことを書いたと思う。これはこれで頭を抱えるほど大きな問題なのだが、先日の医局会で、薬剤部から、またいくつか、欠かせない抗生剤が入手できない、との報告がなされた。


日本は抗生物質の使用があまり厳格に行われておらず、耐性菌の問題が大きい国のひとつかもしれない。細菌感染症を疑った場合には適切な培養検体を採取し、菌種と薬剤耐性スペクトラムを確認し、適切な抗生剤を適切な期間しようすることが原則であり、また、培養結果が出るまでの経験的治療についても、感染している臓器から、頻度の高い菌種を推測して、経験的治療を開始するのが基本なのだが、内科、感染症科以外の診療科ではそこまで厳格にしていることは多くない。亜急性期病院である私たちも、発熱時には適切な培養検体を提出し、抗生剤の適正使用に配慮しているつもりではあるのだが。


そんなわけで、日本全体の問題であるが、薬剤耐性菌の検出頻度が低くない。研修医時代にはあまりお目にかからなかったのに、最近よく目にするのがESBL(Extended-Spectra beta-Lactamase:基質拡張型β―ラクタマーゼ)をもつ腸内細菌科の細菌である。どうしても急性期医療機関でしっかり抗生剤治療を受けた後に当院に転院となるので、前医での治療が選択圧となり、目にするのは仕方がないのだが、検出されると主治医としては悩ましい。


まず菌種の耐性スペクトラムを確認する。基本的にペニシリン系、セフェム系の抗生剤は感受性あり、と返ってきていても臨床的には無効である。ただ一つCMZ(セフメタゾン)は他のセフェム系と少し毛色が異なるので、CMZ感性ならCMZを頭に入れておく。カルバペネム系はほぼ有効なことが多い。あとは、ミノマイシン、レボフロキサシン、ST合剤の感受性を確認している(当院で使える薬はそれくらいしかない)。


その他、私たちの頭を悩ませるのはMRSA、緑膿菌である。かつて私が担当した方だが、MRSA骨髄炎のため、6週間のバンコマイシン治療中で、バンコマイシンの治療を継続してほしい、とのことで転院依頼があり、受け入れたのだが、転院時に持ってきた紹介状には、「数日前にバンコマイシンに起因すると思われる薬疹が出たので、バンコマイシンを中止しました」との記載があった。当院には、MRSAをカバーする薬はバンコマイシンしか常在しておらず、慌てて他の薬(確かLZDだったと思う)を用意したことを覚えている。

MRSAや緑膿菌は効果のある抗生物質が限られているので、必ず感受性スペクトラムを確認する必要がある。


少し長くなってしまったが、前述のESBL産生菌や緑膿菌をカバーする抗生物質であるカルバペネム系の薬(当院ではメロペネム)が、入手不可能となってしまった。原材料が入手不可能となったため、メーカーで薬が作れないとのことである。それと同時に、緑膿菌をカバーするペニシリン系合剤であるタゾピペ(緑膿菌に効果のあるピペラシリンというペニシリンと、薬剤耐性の原因となるβラクタマーゼを阻害するタゾバクタムの合剤)も入手不可能とのことであった。


メロペネムも、タゾピペもここ一番の時にはないと困る薬である。使いやすい薬、ここ一番の薬が使えなくなってしまい、今後どうなるのだろうか?非常に困った事態である。

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