第111話 やはり過酷な高校受験

今から35年ほど前、私は中学生で高校受験を控えていた。「不真面目」ではなかったものの、受験勉強を熱心にしたか?と問われると、「うぐぐ…」と言葉に詰まってしまう。


恥ずかしながら、自分の能力に依存していたことと、家庭の問題でろくすっぽ勉強していなかった、というのが正直なところである。

妻は中学3年生のクラスメートで、文化祭で同じ大道具係をしたことが縁で仲良くなり、友人→恋人→夫婦となったのだが、おそらく、受験勉強は妻の方がしっかりしていたと思っている(彼女も中学3年生の頃は家庭の問題で苦労していたのだが)。なので、今中学3年生の次男君に「お父さん、何か言ってよ!」と妻にお尻を叩かれても、自らを振り返るととてもじゃないが、「厳しいこと」や「親らしい」ことを言える資格はないと思っている。と言って、自分のことを正直に言ってしまうと、次男君が勉強しなくなるのも目に見えているのが辛いところである。中学時代の私は、自暴自棄になっていたわけではないが、「家のことを考えたら、働きながら定時制に進学するのがいいのかなぁ」と、その当時はそれなりに真剣に思っていた。

運良く、そのような事態にはならず、地域で2番手の公立進学校にほぼゼロ勉で滑り込み、以前にも書いた充実した高校生活を過ごすことができた(数学が得意ではなく、勉強もしなかったのでそこに落ち着いたのだが、数学も、他の科目と同様にできていたら、1番手の進学校に進めたのかもしれない)。


さて、私の昔話は横においておく。今、大阪府の公立高校の入試では、英語については、英検の2級、準1級、1級を取得していると、それを英語入試の得点として換算してくれることになっている。当日の英語の得点と、英検からの換算した得点を比較し、高い方を入試の得点としてくれる、とのこと。英検準1級、1級を取っていれば、100%、2級なら80%の換算となるそうである。ちなみに英検1級は大学上級程度(おそらく英文科などで英語そのものを専攻している人のレベル)、英検準1級は大学中級程度(英語を専攻はしていないが、自分の専攻の中では英語で学会発表、ディスカッションなどができるレベル)、英検2級は高校卒業レベルとなっている。


今日のニュースで、大阪府の偏差値トップ10校で、この制度を利用している人が増えている、という記事を見た。実際にどれだけ利用しているか、利用率が各高校で年度別に出ていたが、明らかに年を追うごとに利用率が増加しており、特に大阪公立高校のトップ校である北野高校では、本年度は92%が利用していた、とのこと。平たく言ってしまえば、北野高校を受験する人たちのほとんどが、高校入学前に、高校の英語をほぼ習得している、ということである。まぁ、すごいものだなぁ、と本当に驚いた。


私の世代が公立高校を受験したときは、どの公立高校も同じ問題を使用していた。なので、各校で大きく成績の分布が異なっていたであろうと推測される。今は、難易度に応じて、A,B,Cの問題が英語、数学、国語で用意されており、どの問題を使用するかは各高校に任されている。そのような難関校はほとんどがC問題を採用しており、これがかなりのレベルである。実際に次男君と一緒にC問題の英語リスニングを解いたことがあるが、かなり難しかった。設問の最初の方は、「流れてくる英文を読んで、正しい選択肢を選びなさい」という問題であるが、まず、選択肢がひねっている。あらかじめ選択肢に目を通していないと、選べないようになっている。例えばこんな感じである。


「ねぇ、メリー。次の日曜日にこの映画に行かない?」

「面白そうな映画ね。でも次の日曜日はジョージとの約束があるの」

「残念だなぁ。この映画は水曜日で終わりなんだ」

「そうなの。でもまた機会があったら教えてね」


という会話文で、正解の選択肢は「彼女はその映画に興味がないわけではない」というように、リスニングの前に各選択肢をしっかり理解していないと、正解が分からない(会話文そのままの選択肢はない)のである。そのほか、かなりひねった問題が並び、最後は5分ほどのディスカッションを聞いて、どちらの意見に賛成なのかを明示し100語程度で自分の考えを英語で述べなさい、という問題で終わる、というレベルである。ニュースでも取り上げられていたが、英語のC問題と英検2級では英検2級の方がひねりがなく素直な問題なので簡単である、とのことであった。実感としてそれはそう思った。


今の受験生、大変である。トップ高校に入学するために、英語は高校入学前に高校終了レベルの能力を要求され、さらに難関大学に進学し、仕事についたとしても、日本経済がどうなるか、という問題(それだけの能力のある人なら、日本にこだわらないかもしれないが)があり、本当にしんどいなぁ、と思う。私は第二次ベビーブーマーで、厳しい競争にさらされてきたはずであるが、今の子供たちは、私たちとは別の次元で、シビアな戦いを要求されているなぁ、と思った次第である。次男君、もうちょっと気合を入れようよ。

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