第102話 最初にこの人が首相をしておけば…。

安倍 晋三氏の「国葬」問題がグズグズとくすぶっている今日この頃である。エリザベス女王が亡くなられ、そちらの「国葬」に社会の目線が行き、安倍氏の問題はあまり大きな話題にならなくなっているが、昨日、立憲民主党の野田 佳彦元首相の発言が報道され、私はその発言に感銘を受けた。


民主党政権が成立したころ、日本中が「これで日本が生まれ変わる」という期待感であふれていたが、鳩山氏、菅氏が首相を務めている間にどんどん失望感が広がっていった。一番悪い影響を与えたのは、鳩山氏だと思っている。今もくすぶっている普天間基地移設問題、政権が変わる前、自民党政権の時代に、実は調整が済んでいて、普天間基地を返還する代わりに辺野古に移設することに、県内でも合意が形成されていたそうである。あとは着々と仕事を進めるだけの状態にあったらしい。そこに鳩山政権ができ、その合意を反故にしてしまった。


地政学的に考えると、沖縄の地は、東アジアの要となる場所である。広く中国の海岸線をカバーし、台湾やインドネシア、フィリピンなどから北朝鮮あたりまでを守備範囲とできる場所なのである。日本の米国基地の70%が沖縄に集中しており、沖縄が犠牲にされている、というのは全くその通りなのだが、国家の防衛力を「日米安保条約」に依存している日本では残念ながら在日米軍の軍事力に頼らざるを得ないところがあり、日本という国の「国防」、そしてアメリカの平和を維持するための基本方針が”Balance of Power”(力の拮抗)というところにあることを考えると、現実的にはそうせざるを得ないのは否めない(もちろん、日本は第二次世界大戦の敗戦国で、アメリカに占領されていたことも影響している)。その状況を無視した鳩山政権のため、その後20年近く、普天間基地問題で揉め続けている。彼が余計なことを言わなければ、無駄な争いはなかったわけである(しかも彼は自身の発言を実現できなかったわけで)。それだけでも鳩山政権の責任は大きいと思われる。菅氏の政権時代に東日本大震災が起き、深刻な原発事故が起きたが、これについては、誰が首相であっても、コントロールはできなかったであろうと思っているが、自身の能力を超えて原発の対策に口を出したのは不適切だったと思われる。


民主党政権で、最も現実を見て、現実的な政策を提示していたのは野田氏だと思っている。当時の安倍自民党総裁との党首討論で、「国会議員の議員削減を実施するなら解散を行なう」と宣言し、安倍氏が「議員削減を行なっていくことを約束します」という言葉を受け、おそらく民主党が大敗するにもかかわらず、自身の発言を守って解散総選挙、という行動をとった野田氏は、少なくとも先の二人よりも誠実であったと思っている(対する安倍氏は国会議員の議員削減をしてはいなかったように思うが)。


今回の安倍氏の国葬についても「国会等の審議なく行われるもので、その手続きに納得できるものではないが、個人としては、元首相として、同じ元首相の葬儀に出席しないのは、私の人生観からは外れる」として、出席の意向を示した、とのことであった。

「それはそれ、これはこれ」というのを、是とするのか、非とするのかは難しいところでは、あるが、野田氏の立場を考えると、非常に大きな決断をされたと思う。自分自身の信念を貫く、ということでは、今回の氏の決断は賞賛すべきもの(いや、人として当たり前かもしれないが)と思う。


今話題になっている旧統一教会との関係についても、「一つの場所で懸命に活動をしていれば、全く接点がなかったとは自信を持って言えない」と正直に答えている。これも氏の言う通りだと思う。正直な人だという印象を受けた。


かつての民主党政権、そしてその後の民主党の迷走を見るにつけ、同党で首相足りうる能力を持っていたのは野田氏だけだったのかもしれない、というのが私の感想である。

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