第71話 北の国から

昨日、私と同じように大学院から医学部に再入学し、北海道で脳神経外科医をしている大学院時代の友人から電話があった。久しぶりの電話でとてもうれしかった。今年は東北から北海道にかけて、天候が不順である。天気の話を聞くと、「あんまりよくなくて、小麦は「不作」みたいだ、とのこと。食料自給率の低い日本で、日本国内の農業を大きく支えている北海道が天候不順だと、昨今の円安によるコストプッシュインフレと合わせて、食料品の価格がどうなっていくのか、ずいぶん心配になる。


去年の北海道は本当に暑かったそうだ。確かに、「涼しかろう」ということでマラソンの開催地を札幌にしたのに、マラソン当日は朝から30度超えの気温だったと記憶している。東京と気温が変わらず(いや、むしろ北海道の方が暑かったような記憶が)、「なんじゃ、そりゃ」と思った記憶があり、友人ともその話で盛り上がった。確か、東京オリンピック、パラリンピックが終わった途端、一気に気温が下がり、真夏→冬、というような気候だったように記憶している(記憶なので、定かではない)。その報道を聞いて、「ツイてないよなぁ」と思ったように記憶している。


北海道の、彼の勤務する病院がある地域もCOVID-19は流行しているようだ。彼の勤務する病院は脳神経外科を中心とする病院なのだが、諸般の事情で発熱外来をしなければならないとのこと。しかし、人繰りがどうしてもつかず、発熱外来で対応する患者さんは1日に一人だけ、ということにせざるを得ないらしい。病院側はマンパワーが足りず、発熱外来を設けたくない(内科医もいないそうだし)のだが、行政からのお達しには逆らえないようだ。


第4波くらいまでは、彼の病院を管轄する保健所ではCOVID-19のPCR検査をしてくれず、検体をわざわざ札幌まで送っていたらしい。結果が出るまでに数日かかるので、やむなく、病院側でPCRの機械を購入したそうだ。


最近はそれがお役立ちだそうな。脳神経外科の病院なので、意識障害、片麻痺などの脳にトラブルがありそうな患者さんが搬送されてくることが多く、実際に脳血管障害、ということも多いのだが、新聞で報道されているように、「メインの問題は脳血管障害だけど、救急外来でPCRをすると、COVID-19陽性だった」という症例が多いとのこと。これは、自院で速やかに検査ができるからわかることで、彼曰く、「そういう点で、今、PCRの機械が役立っている」とのことだった。


今の保険医療行政では、COVID-19患者さんについては、軽症、中等症は原則自院で管理せよ、ということとなっており、また、彼のいる地域にはCOVID-19を専門に受け入れる病床がほとんどないこと、実際に脳血管障害で手術が必要であれば、救命のため、速やかに手術が必要であるため、院内はいろいろな意味で、てんやわんやの大騒ぎ、とのこと。全身麻酔をかけ、気管内挿管を行なう麻酔科医は、しっかりPPEを着こまざるを得ず、術者も、マスクはN95をつけて手術をしないといけない、とのことらしい。本当に大変である。


2時間ほど話し込んだだろうか?お互いにボヤキや、現場での深刻な悩みや思わず笑ってしまうトラブルなど、いろいろと話をした。彼も気合を入れて頑張っている様子である。こちらも私のペースで、無理はせず、でも気合を入れて頑張ろう、と思った次第である。


今の国際情勢を考えると、北海道も結構危険な場所だと思う。少なくともロシアと北朝鮮は視野に入れているのではないか、と思う。ただ、彼の話では、どうしても極東はモスクワと物理的、心理的にも距離があり、現在のウクライナ情勢を冷ややかな目線で見ている人が多いそうである。


そういう肌で感じる感覚は、その現場で過ごしているからこそわかるものなのだろうなぁ、と思った。

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