第52話 忘れられない日
今からもう35年ほど前か?高校に入学したてのころだった。入学式だったか、始業式だったか、新入生のオリエンテーションだったか?各クラスで整列して体育館(兼講堂)に移動中だった。あの頃は、「おニャン子クラブ」が流行しているときで、芸能界にはあまり興味のなかった私でも、「夕焼けにゃんにゃん」を見て、少しおニャン子クラブのファンであった。一番のお気に入りは会員番号16番、高井 麻巳子さん(今は、おニャン子やAKBなどの仕掛け人、秋元 康氏の奥様である)で、彼女の二重できれいな目が好きだった。
廊下を移動中、他のクラスの列とすれ違った。ただ普通にすれ違っただけなのに、その中の一人の女子に目を奪われた。高井 麻巳子さんにも負けないくらいきれいな目をした人だった。ただすれ違っただけなのに、その人の印象が心に焼き付いた。
私の好きなThe Beatles、5枚目のアルバム“HELP”で、かの有名な“Yesterday”の前の曲、”I’ve Just Seen a Face”という曲があるのだが、その歌詞のとおり、「ちょっと顔を見ただけなのに、会った時間や場所も忘れられない…」という思いだった。
私の中学からは、その高校に数人しか進学しておらず、その中の私を含めた3人は仲が良く、入学直後は一緒に帰っていた。僕と、友人Aは同じクラス、友人Bは別のクラスだったので、とある日、友人Bのクラスの前で、友人Bを待っていた。ホームルームが終わり、生徒たちが出てくるのを見ていると、目のきれいなあの人がそのクラスから出てきた。「うぉっ!彼女はこのクラスだったんだ…。」と驚いた。とはいえ、お互いにお互いがStranger。何がどうというわけではないが、彼女がこのクラスにいる、という事を知ったことがうれしかった。
私の高校では芸術は美術、音楽、書道、工芸の4つから一つ選択することになっていた。美術については中学時代、美術の先生に「こんな絵、幼稚園の子でも描かないよ」と言われるほどセンスがないため却下。書道は小学校時代に無理やり習いに行かされていたが、書道を習っていてもこの程度の字、というほど字が汚いのでこれも却下。工芸も、あまり物造りに興味がなく、美術と同様、小学校の図画工作も悲惨なものだったので却下。音楽なら、たとえ音痴でも歌い終わればそれで終わり。また、楽器はギターを弾くことになっていたので、ビートルズにあこがれていた私は、迷わず音楽を選択した。
そして、新入生は各クラブの先輩方から熱心に勧誘を受ける。ギターがうまくなりたかったことと、きれいでかわいい先輩たちに強く勧誘されたため、友人A,Bも巻き込んでギター部(クラシックギター部)に入部してしまった。最初は仮入部、という形で練習に参加し、5月のGWの新入生歓迎会で正式に「部員」となる。新入生歓迎会は某公園で行われたが、新入部員の中に彼女がいたことにびっくりした。「こんなことがあるなんて…」。目がきれいで、かわいい見た目とは釣り合わないような低い声の彼女の自己紹介を聞きながら、一人で勝手に「奇跡」と「運命」を感じてしまった。
先日「恋」は「孤悲」と万葉仮名の話を書いたが、振り返ってみると、命の底から誰かを好きになるって、やはり「自分」の問題なのだと思う。片思いなんて、特にそうだと思う。「恋心」は自分の中にだけあって、それが自分を喜ばせ、自分を傷つけ、自分を悲しませ、そして、多くの場合は自分を深めてくれる。見えなかったものが見えるようになる。感じなかったことが感じられるようになる。
John Lennonの”Oh My Love”という曲の歌詞に、「恋人よ、生まれて初めて私の眼は大きく開いた。恋人よ、生まれて初めて、私の眼は見えるようになった。恋人よ、生まれて初めて私の心は大きく開いた。恋人よ、生まれて初めて、私の心は感じることができるようになった」という歌詞があるが、私は身をもってその歌詞を感じることができた。
私の高校時代をまとめると「恋」と「ギター」(あれっ?学生の本分である「勉強」はどこへ行った?)に集約される。思い出すとたくさんのことがあった。彼女も私のことを好きでいてくれたようだが、彼女の「好き」よりはるかに私の「好き」の方が大きかった。そういったものはなかなか続かない。フることもフラれることもなかったが、お互いに高校を卒業し、彼女が、「彼女の命を揺さぶるほど」好きな人に出会ってしまったので、結局そこで“The dream had just been over.”となったわけである。
ずいぶん長くなってしまったが、今日は彼女の誕生日。彼女の誕生日にふさわしい青空だった。今でも彼女への思いは変わらないが、30年以上の年月が過ぎ、お互いに変わってしまっているだろう。この気持ちは、30年以上前になくしたものをいまだに懐かしんでいるだけに過ぎない、と自分でもわかっている。
それでも、この空の下、どこかにいる彼女に伝えたい。
お誕生日おめでとう。お元気ですか?あなたの周りの大切な人たちもお元気ですか?私は今でも、あなたが幸せに過ごしていることを願っています。
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