第20話 無理なら、「無理」って言っていいのだ。

6/29に、大阪府で起きた2歳児の熱中症死事件、いろいろな事実が明らかにされつつある。逮捕された祖母と祖母の配偶者は、「祖母」というには若い印象のある40台の女性とのこと。そう考えると、私たち夫婦が小さい子供を育てるのと大差はないみたいだ。実際にこの夫婦の間には5歳の息子がおり、3歳差で叔父、甥の関係になっている。


亡くなった子供は、三男の子供で、「育てるのが無理」と母親に養育をお願いした様子。新聞記事を読むと、ベビーベッドを改造した、目隠しをした柵の中に子供を入れており(常時そうしていたかどうかは不明だが)何度もその子一人を残して、夫婦と5歳の子供を連れて外出していたそう。その一方で、2歳の子供が育てにくい、とのことで市にも相談に行っていたそうである。ある程度、養育に対して責任感を持っていたことは否めないだろう。その一方で、市が勧めた公的施設への見学を直前にキャンセルしたりと、不安定であることは確かである。


亡くなった児は、一度お風呂で溺水し、一時心肺停止(以下CPA:CardioPulmonary Arrestと略す)となったようである。明確にCPAとなった、と確認されたのであれば、ある程度の時間CPAの状態が続いたのであろう。平均して、救急隊の要請から現場到着まで平均して5~6分程度(早いね)と言われており、最初に患者さんと接したのが救急隊員であれば、5~6分はCPAとなっていたのだろう。であれば、その間に脳に十分な血流が届かず、低酸素脳症となっていてもおかしくはない。これは推測ではあるが、児はCPA蘇生後低酸素脳症を持っており、それが育児困難につながっていたのかもしれない。


自分たちの言うことを全く聞かず、周囲を困らせる子供に愛着を持つことは難しい。ネグレクトを容認するつもりは全くないが、前述のことは事実であろう。だから、児を置いて外出することにあまり躊躇がなかったのかもしれない。


冷房をかけ、窓を開けて出かけた、というのは、すごく不自然な行動だと思う。夫婦の中で心のどこかに、「この子がいなければ」という気持ちがあったのかもしれない。児が本当に熱中症で亡くなったのか、その他の原因で亡くなったのかも、司法解剖をしなければわからないだろう。


市はこの児を「虐待事案」として、当初は「要保護」としていたが、その後「育児に前向きな姿勢がみられる」として、「要支援」とランクを下げたようだ。「要支援」とされた後は、新聞の記載では、1年8か月間、家庭訪問はされていなかったとのことらしい。これも不可解だと思う。2歳の子供なので、一番長く見積もっても、2歳11か月の年齢と考えられる。確か、児が溺水でCPAとなったのは、1歳の頃、と新聞記事を記憶しているので、1年8か月の間、家庭訪問をしていない、あるいは「要支援」の状態となっていたとするなら、CPAとなって、「要保護」と判断されてから速やかに「要支援」と格下げされた可能性が高い。


現在、必要とする社会保障がどんどん削られており、児童相談所も大変な人不足となっているのだろうと想像するに難くない。しかも、「要保護」「要支援」となっている、ということは、何らかの形で家庭が機能不全に陥っているので、担当者自身の身の危険もありうると思われる仕事である。生活保護の担当員や児童相談所の担当員も、「具体的なプランを作成」するスタッフと「そのスタッフを守るため」の力をもったスタッフの二人三脚で進まなければ問題の解決は難しいと思っている。


すこし脱線したが、祖母が市に「養育困難」を訴えてせっかく相談に行ったのだから、市側も、もう少し踏み込めなかったのか。祖母も正直に「もう、この子は育てていけません」と言えばよかったのではないか、と思う。「理不尽な要求」に市が応える必要はないと思うが、本当に必要な「助けを求める声」にはきっちり対応すべきだったのでは、と残念でならない。結局みんなが不幸になってしまったのでは、と思っている。


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