第35話

「ま、守、大丈夫か? どうしたんだ? あれからずっと?」

「……うん。だ、大丈夫。僕みんなの足引っ張れないし」


 その後も必死に台詞を言おうとするけど、なかなかすぐに呑み込めない。みんなの視線が段々氷のように冷たくなっていくのが怖かった。


「守くん、落ち着いてやりなよ、大丈夫か?」


 休憩タイム中に流石に香川さんが心配して近くに来てくれた。


「……香川さん、台本いつ渡されたんですか?」

「僕は一週間位前に渡されたんだ。守くんも渡されているもんだと思ってたんだけど、最初に海洋の人達に会ったときにまだって聞いてさ、僕も今回の芝居、ちょっと君には重荷かもしれないと思ってるんだよ。でも、こんなチャンスめったにない。本当にごめんね……」


 香川さんはこのプロジェクトで少しでも多くの人が劇団イルカを広めたいと思っているはずだ。

 その気持ちがわかるだけに僕は首を横に振った。たぶんここは僕の正念場なんだと思う。


 そうこうしているうちに5日経った。僕はその間殆ど寝てなかったと思う。スタジオから外に出れずに5日。

 気を失っていた僕は、体にいきなり氷のような冷たさを感じ目が覚めた。

 知らないうちに寝てしまい、バケツの水を掛けられたようだ。


「これ見てみろ」


 蓮さんに言われてネットのあるページを見るとそこは隆二のファンサイトのようだった。


「ここはそれぞれこの掲示板だけのハンドルネームのみの隆二のファンの交流場だ。表向きはみんな洒落た事言ったり、お前と隆二の仲を祝福しているが実態はこうだ」

 体が痺れて動けない。頭だけ起こされて、僕はその画面を見させられた。



 あの春原守って男ヤバいよね? 風俗あがりだろ?


 隆二に病気移したらただじゃすまない


 ちょっと俺あいつその場にいたら殴りたい


 あいつの顔見てるだけでイラつく


 俺達の隆二寝取った男


 あいつから誘ったらしいぜ


 隆二なんかマインドコントロールされちゃってんだよ騙されてるんだよ


 金が目当てなんだろで夜は腰をふりふりしてご奉仕


 羅列された文字の言葉に僕は心臓が跳ね上がりそうになった。

 その他にも言葉にならない言葉に僕は違う、違う……と譫言のように口だけが動いた。

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