第31話

「あーもう今日はお開きお開き! 春原守、お前残って1人で台本読みしろ! 主役級に抜擢した俺の顔つぶす気? みっともなさすぎる」

「……すみません」


 夕方僕だけ残り、主要メンバーは帰る事になった。

 気づくとまた僕は昨日と同じ状況に置かれ、結局隆二のファンクラブの人に囲まれていた。


「お前さ、俺を馬鹿にしてないか?」

「この下手くそ!」


 そんな、昨日の今日で無茶だよ。


「でも、まだ僕は昨日台本を渡されたばかりで」

「滝川隆二なら、くだらないいい訳しないでお前より遥かに早く仕上げてくるぜ、一晩徹夜しても意地で台本なんて現場に持ち込まない男だね、お前はそれどころか最初から台本目に落としっぱなしだろだろ?」

「そ、それは、僕はいきなり全部はできなっ!」


 僕は蓮さんに肩を押され、思わず立て膝をついてしまった。


「言い訳なんていらないんだよ、覚えてこいっての! これはお前が滝川隆二に相応しい奴かどうか俺達のテストなんだって事覚えておけよ」


 鋭い目で睨まれて、僕はなんで? という言葉が頭の中で一杯になった。

 僕はまるでアウェイで戦っている格闘家にでもなった気分だ。


「俺らはお前なんか認めちゃいないんだよ。俺達がどんだけ努力して滝川隆二を振り向かせようとしてるのかわかんないだろう。お前みたいな風俗あがりのできそこないな奴には。くだらない小劇団で趣味みたいな芝居して、何も努力もしないで隆二さんの紐になってるような奴が隆二さんの男だなんて顔されて黙ってられるか!」


 隆二のファンクラブの人たちが僕を睨む。まるで針のムシロのようだ。


「俺らが芝居の厳しさ教えてやるよ」

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