第17話

 最初に現れた女性がその場にいる人たちに言うと妙にみんなは聞き分けがよくその場をやっと去ってくれるようだ。

「このことは隆二さんには言うなよ、言ったらお前どうなるかわかってるだろうな?」

「……」


 蓮さんは僕を睨んだまま自分のコートの中から一枚の紙を出してきた。


「まぁ、お前がじたばたしたところでこっちはこっちで手は打ってあるんだけどな。何にしても俺らまたお前の前に現れるから、そこに隆二さんのファンの幹部集めてお前から色々情報聞きたいんだよ、いいな。俺達隆二さんにしか興味ないから……。ただ情報が欲しいだけ」

 蓮という男の人は僕の首筋やら耳の辺りをなでて妙にやさしく言う。

「……」

「返事はどうしたっ?」

「……っ、は……はい……」


 そういうと彼らはざっとその場から離れて行った。完全に脱力だ。

 保世屋くん達も解放されたのかすぐに僕の傍に駆けつけてきてくれた。


「守くん!」

「ちょっとお前ら待てよ!」


 保世屋くんが叫ぶと幹部の男が振り返る。


「こんな乱暴な事してただじゃすまないぞ!」

「乱暴? どこも乱暴してないだろ?」

「服脱がしてんじゃねぇか! 脅しもして、完全に暴力じゃないか!」


 憤りを隠せない保世屋くんが幹部の男につっかかりそうになった。


「止めなよ、保世屋! 今はそれどころじゃない!」

「……!」


 保世屋くんは彼らを睨み付けると、彼らは無言のまま去っていった。


「大丈夫、守くん、酷い事するね。許せない……」


 僕の涙を拭いてくれたり、シャツを調えてくれたり、頭を撫でてくれたり、とにかくみんなが僕の周りを固めてくれて、去っていった人たちを睨んだ。


「ない、上に着てたカーディガンがない……」

「マジ? 窃盗かよ!」


 その後は僕も何も言えず、保世屋くん達も何も言えず、その場はお開きになった。


 僕は沈痛な面持ちで家に帰る。もう日も暮れていた。

 帰り際、何度も後ろを振り返り、とにかく誰かつけてないかそれだけが心配だった。

 上着がなくなってしまったので、本世屋くんがカーディガンを貸してくれた。

 最初は家まで送っていくと言ってくれた本世屋くんたちだけど、ファンクラブの決まりで、僕の自宅は教えない事になっていたので、近くの駅までとにかく送ってもらった。

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