第5話 四季咲さんたちは愛されたい
僕には憧れの先輩がいる。
入社して初日の挨拶の時に僕は思わず、見とれてしまった。りんとした目元が涼やかでスーツ姿がよく似合う。背が高く、スタイルも抜群だ。
彼女の名前は
四季咲先輩は僕のことをオタク君と呼ぶ。
まあ確かに僕はアニメとゲームがなにより好きなオタクではあるけども。
でもよくよく四季咲先輩の言葉を聞いているとどうやらニックネームで呼ぶのは僕だけのようなのだ。部署の他の人は皆、さんづけで呼ぶ。
僕は会話の端々から四季咲先輩が好むものを聞きとり、メモをとった。
どうやら好物はチョコミントアイスとパンケーキ。好きな映画のジャンルはミステリーやサスペンス。
お昼はいつも一人で美味しそうなお弁当を食べている。美人でしかも料理上手なのか。
僕は日々仕事を四季咲さんとするなかで僕の中の彼女への思いはもう耐えきれないほど強いものになった。
勇気をふりしぼり、映画に誘うと食いぎみにOKをもらえた。
もっとはやく誘えば良かったと後悔するほどだ。
僕はSNSで人気のカフェに四季咲先輩を誘い、さらになけなしの勇気をふりしぼり、告白した。
「四季咲真冬さん、僕とつきあってください‼️」
勇気をふりしぼりすぎて店内に響きわたるほどの大声になってしまった。
突然の僕の告白に四季咲先輩はかなりあわててたけど、でもどうにかOKはもらえた。
少し変わった条件をつけられたけど……。
それは他の人もOKをもらわないとということだった。
他の人ってどういうことだろうか?
一週間後、僕はまた四季咲先輩とデートをすることになった。
待ち合わせの場所にあらわれたのはツインテールに地雷メイクの四季咲先輩だった。アニメのトレーナーに缶バッチをたくさんつけた痛カバンを持っていた。
二十七歳とは思えないかわいさに僕はドキリとした。
彼女は
僕は彼女の話に度肝を抜かれた。
なんと四季咲先輩は多重人格者だというのだ。真冬さんが言っていた他の人とはその別人格の人たちのことだったのだ。
しかし、春花さんとのデートは今思い出してもかなり楽しかった。やたらと密着するし、その体の柔らかさは極上であった。
それにオタクトークも盛り上がり、僕はすっかり春花さんに夢中になった。
さらに一週間後、僕は四季咲先輩とドライブデートをすることになった。
少し古いけど、よく手入れされているボルボがロータリーに止まっている。
車内から手を降るのは四季咲先輩だった。
彼女は
化粧っ気はなくて、服もデニムにロングTシャツ。髪型はポニーテール。
あっでもこんな飾り気のない姿もいいなと思った。先走りかも知れないが、こんな人と家庭を持ちたいと思った。
彼女に景色のいい展望台公園に連れていってもらい、僕たち夏樹さんの作ったランチを食べた。
これは本当においしかった。すっかり胃袋をつかまれた気分だ。
ただかなり思いこみが激しいようで、ヤンデレ気質があるようだ。
そんなに思われるのは嬉しいが、ちょっと怖い。真冬さんが出てきてどうにかその場はおさめてくれた。
性格に難があるものの、僕は夏樹さんのことも好きになってしまった。
そしてさらに一週間後、ついに最後の一人とデートをすることになった。
待ち合わせにいたのはいかにも清楚な感じの女性であった。クリーム色のワンピースに黒ぶち眼鏡をかけている。
あれっ、四季咲先輩は視力がいいことを自慢してたのに。
彼女の名前は
歴史と電車が好きなおとなしい感じの女性だった。言葉の端々に自分なんかとか他の三人に比べてとかをいうのが癖のようだった。
僕はそんなことはないと思う。
秋恵さんも十分に魅了的だと思わず言ってしまった。
秋恵さんは頬を赤くして、嬉しそうだった。
僕はどうやら四季咲先輩の四人の人格からつきあうことへの承諾を得ることができた。
四回のデートはそれぞれに楽しいものだった。一粒で四度美味しい、そんな気分だ。
そしてついに僕は四季咲先輩、いや、もうつきあっているのだから真冬たちの家に行くことになった。
そこは一見するとごく普通のマンションであった。
僕はチャイムを鳴らす。
手元にはお土産のチョコミントアイス。
すぐにドアが開く。
「ようこそ、オタク君」
最初に出たのは真冬だ。目元でわかるようにすでに僕はなっていた。
意思の強い、ややつり目になるのが真冬だ。
「あがってあがって」
僕は真冬にうながされ、部屋に入る。
お土産のチョコミントアイスを渡すとオタク君わかってるじゃないと微笑む。
真冬はキッチンに消える。
リビングのいたるところに神社やお城の写真がかざられ、壁にアニメのポスターやフィギュアが置かれている。
「優一君がくるから今日は腕によりをかけてご飯を作ったのよ」
きっとそれは夏樹だ。夏樹は四人の中で一番滑舌がいい。ハキハキとして耳に心地よい。
「ねえ、ご飯食べたらゲームしようよ。新しいのダウンロードしたんだ」
甘えたような口調は春花だ。目元もどこかたれ目になっている。彼女は一番四人の中でボディタッチが多い。それはそれで嬉しいんだけどね。
「あの、良かったら映画も見ませんか。歴史ファンタジーの面白そうなのが配信はじまったんですよ」
か弱い感じの声は秋恵だ。いつのまにか眼鏡をかけていた。目の前にふくろうのマグカップが置かれる。
彼女の好きなアールグレイが注がれていた。
僕ははからずも四人もの美人でかわいい彼女とつきあうことになった。普通よりも四倍たいへんだけどきっと四倍楽しくなるはずだ。
「よろしくな、オタク君」
「よろしくね、宅間さん」
「ずっとずっと一緒よ、優一君」
「よろしくお願いします、宅間君」
それぞれの口調で彼女たちは言った。
僕は彼女たちの手をとり、こちらこそよろしくお願いします、と答えた。
四季咲さんたちは愛されたい 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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