第10話 入部はもうちょっと考えたい
「勝負?」
オカルト……幽霊……勝負……ッ!? まさか『スタンド』バトルッ!?
「その原因が法則とか方程式とかで説明のつくものだったらあなたに一ポイント、納得のいく説明のつかない、絶対にありえないことだったら、私たちに一ポイント」
「でも、こんな怪しい部活に相談なんて来るのか?」
「それが結構来るんだよねぇ。まぁ、どうしようもない相談もたまにあるんだけど」
「単に自意識過剰だったり、ただの肩こりだったりしますもんねぇ」
俺、合ってたのかよ。じゃあもう妖怪とかいないだろ。
「……さすがにそういうのはカウントしないけど、不可解な現象とか奇妙な出来事に関しての相談が来たら、それで勝負しようってこと」
「……なるほど」
この世で起きる不可解な出来事は全て妖怪の仕業とか言ってた白い奴がいたが、それが相談として持ち込まれて、実際に解決するってことか。
それにしても、妖怪と友達とか怖いし、メダルで妖怪を目の前に召喚するとか怖いし、運転してたら猫の地縛霊がいきなりラッシュパンチかましてくるとかあのゲーム怖すぎだろ。ホラゲーだわ。
「分かった、それで勝負しよう。んじゃ、それっぽい相談がきたら呼んでくれるか?」
「え? いや、ちょ……」
「え? なに?」
「あの、いや、そうじゃなくて、その……」
「何だ?」
十日市はふっと下を向いて、何やらごにょごにょと話す。
前髪で顔が隠れているので表情は分からないが、窓から差し込んでくる日が白い頬を赤く染めているのが分かった。
彼女の声はだんだんと小さくなっていき、しまいにはほとんど聞こえなくなって、思わず聞き返す。
「なんて?」
「……くぁwせdrftgyふじこlp……」
「んだって?」
「城ケ崎先輩、あのー・・・たぶん十日市先輩はですねぇ」
本仮屋が隣から説明を挟もうとすると、十日市がぎょっとそちらを見た。
「一緒に部活動しtんぐっ? ちょ、先輩何するんですか! いいじゃないですか!」
「その言い方だと私が好きみたいになっちゃうじゃん! やめて!」
袖を掴まれてぎゅいんと引き寄せられた本仮屋は、十日市の腕の中でパタパタもがく。後頭部に胸当たってるなぁいいなぁ俺も首絞められたいなぁ・・・。
「城ケ崎君も何その顔は! ちっ違うからね! 君のことなんか好きじゃないから! 勘違いしないでよね!」
「お、おう」
何、今のツンデレのテンプレみたいなセリフ。コイツが言ったのか? 可愛すぎだろ。もう一生尖ってろ。
「でも、これからの勝負で相談とか調査をする上で、オカルト部じゃなかったら「あんた誰?」ってなりませんか? だから、オカルト部に入った方がいいと思うんですけど。それに、部員も足りないですし」
「だっ、だからそういうことを言おうとしたの!」
本仮屋は、未だ十日市にがっしりと拘束されたままで喋る。
いや、部員足りないのかよ……。
「じゃあ改めて言うけど、城ケ崎君、お、オカルト部に入らない?」
「オレェ?」
すんごい美少女が幼女を拘束したまま部活に勧誘してきた。何このシュールな光景。
……でも、俺が、オカルト部に?
「で、どうするんですか? 私はいいですよ、城ケ崎先輩が入っても」
「俺が?」
俺を、オカルト部に勧誘しているのか? マジで?
オカルトを真っ向から否定し、あろうことか幽霊や妖怪の存在の不可能性を証明しようとしている俺が、オカルト部?
とりあえず、オカルト部じゃなくて今お前が挟まってるソコ入らせろ。代われ。
「新しく部員を勧誘しようかって、最近ちょーど先輩と話しててー。城ケ崎先輩って目立つキャラって感じでもないですし、変なことするような度胸もなさそうですし……」
超消極的な理由。合ってるのがさらにムカつく。
「まぁそうだけどよ……もっとさぁ、「多様性」とか無難な理由言えないのォ?」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く決めて下さい。入るんですか? 入らないんですか? どっちなんだいッ!」
筋肉ルーレットかよ。あれ、右か左かだから全然ルーレットになってないんだよなぁ……。
「いや~でもなぁ~。オカルト部かぁ~」
間接的に言えば、オカルトを否定すること、ひいてはオカルト部の存在意義を否定することが俺のオカルト部入部の動機となってしまう。俺、科学主義のスパイなの?
「城ケ崎君。……正直に言うけど、オカルト部は今消滅の危機にあるの。部員が四人以上いない部活は部として認められないから、このままじゃ私たちは部活動を続けられなくなっちゃう」
十日市は、捕まえていた幼女をほっぽり出し、俺にすすっと近づく。
「だから、城ケ崎君が入ってくれたら、とっても助かる。……お願い」
十日市は、胸の前に手を組んで、祈るようにして言った。
彼女の切実な瞳や、小さくて艶やかな唇に、一瞬ドキッとする。
その瞳に吸い込まれまいと顔を逸らす。が、その先に、本仮屋がかなり近くでこちらを見上げるようにして立っていた。
「城ケ崎先輩! どんなに勧誘しても、もう誰も入ってくれないんですよぉ~! 私たちはオカルトが好きなだけなのに! あなたには分からないでしょうね!」
「そ、そか……」
えと……議員の方?
「私たちは、好きなことを好きって言いたいだけなのに! もうこれ以上、私たちから何も奪わないでよぉぉぉ……」
えーっと、天気の方? 帆高くん? いや、そこまで言うことじゃないだろ。
「ねぇ……ダメですか?」
「ッ!」
彼女は顔を上げず、瞳だけでこちらを見た。
そのうるんだ目線がまるで何かの光線のように俺に突き刺さり、危うく心を奪われそうになってしまう。
「……わ、わーったよ、俺、入るよ。入部届貰ってくる」
言っちゃったよ、俺。
でも、これだけお願いされたらさすがに断れない。
俺は席を立ち、足早にドアへ向かう。
これから行くのは「入部届」の用紙が置いてある職員室だが・・・
……その前に一つ確かめなくっちゃな。
ドアが完全に閉まる瞬間に、下ろした右腕から人差し指だけくいっと部屋の中に向けた。
「バタン」
「(……行きましたか。……先輩、良かったですね!)」
「(これでオカルト部の消滅は免れたね。良かったぁ~)」
部屋の中から、二人の声が聞こえる。
……最早耳を近づけるまでもなく、大きくはっきりと。
俺がそうした。そうさせた。
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