第77話 吹っ切れた
同い年の女子の襲来に、はじめは動揺しまくっていた白咲さんだったが、かくかくしかじか……リビングで事情を説明すると、まさかのまさか。両手を合わせて、天使の笑みを浮かべた。
「じゃあ! お夕飯でも一緒にどうですか!?」
「「へ――?」」
てっきり嫉妬されて不機嫌になるかとばかり思っていたが、白咲さんはぱたぱたと、ビーフシチューの残った圧力鍋のもとへ駆け寄る。
「うん。三人分……なんとかいけると思います!」
そう、にこりと微笑む白咲さんに絆されて、俺は流されるままに白咲さんと残りの夕食作りに取りかかった。サラダを取り分けて、追加で人数分の食器を出して、パンをあたためて……
その様子を、リビングでジュースを片手に、坂巻はぼーっと眺めている。
料理を準備する白咲さんに、嫉妬していない(してくれない)のかな? と色んな意味でそわそわしながら視線を向けると、白咲さんは小声で。
「ゆきさんが、『妹』と言うなら。私は信じます。それが、私の思う『いい女』ですから」
と微笑んだだけだった。
その見透かしたような笑みと、懐の広さに、「ああ、敵わねぇなぁ」と改めて惚れ直す。
夕飯が終わり、俺たちは、白咲さんが親族関係について深く突っ込まないなどの配慮してくれた甲斐もあって、学校での出来事や他愛ない世間話をそれなりに楽しんだ。
当たり前のように泊まっていく白咲さんがお風呂に入っている間、俺と坂巻はリビングのソファで、張り詰めた糸が切れたように、同時に息を吐き出した。
「敵わないなぁ……」
と。今度は坂巻がつぶやく。
「……絶対。気づいてたよね。あたしと真壁が、それなりに色々あった、ただの(将来的な)義理の兄妹じゃない仲だってこと」
「ああ……多分」
「で、あの対応? なんてゆーか、器が広いっていうか、優しいっていうか、そういうのを通り越して……肝が据わってるよね」
「ああ。イケメンだろ」
どこかドヤ顔でそう返す俺に、坂巻はプッ、と吹き出しそうになりながら、「はは、確かに。見た目あんな美少女なのにね」と笑う。
そして……
「……あたし、やっぱ帰るね」
「は? え? どうした急に。てか、こんな遅い時間に?」
てっきり泊まっていくもんだとばかり思っていた俺は、ソファから半身を起こして問いかける。
すると坂巻は、持ってきていた鞄を手に立ち上がって。
「白咲さんと一緒に料理をしているときの真壁、すっごく幸せそうだった。隣に並んで、新婚さんか? って感じに仲良しで。しかも何アレ。話してみたらめちゃくちゃいい子じゃん。あたし、真壁のことはまだ好きだけど、だからこそ、だからこそ……あたし……
(!)
「はいはい! そんなこんなで思い残すこともなくなったし、お邪魔虫は退散といたしますわ! じゃあ、末永くお幸せにっ!」
「あ。おい、坂巻……!」
「ありがとね、真壁。あたし、なんか……吹っ切れた!」
そう言って、坂巻は鞄を手に、自分の家へと帰っていった。まだ終電はぎりぎり残ってる。駅まで送ると言いはしたが、坂巻はそれを頑なに拒んだ。
玄関で手を振った坂巻は、最後に。
『じゃあまた、学校とアイス屋で。数年後、家族になったら仲良くしてね、お兄ちゃん!』
と舌を出し、イタズラっぽい笑みを浮かべたのだった。
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