第11話 初めての仕事依頼

 宮前町にやって来た新九郎は小助の後を付いて行きながら、きょろきょろと街の様子を窺っていた。前に五郎太を呼びに来た時には、必死でそれどころではなかったのだった。それ故に、しっかりとこの街を見るのは初めてなので、それも仕方なかった。


「小助殿。向こうには行かないのか。あちらの方が賑わっているようだが」

「ああ、あっちはお偉方が主だからな。30文払って行っても、割に合う仕事は無いからな」

 そう言われてそちらに目を遣ると、確かに道の途中に関が設けられていて槍を持った見張りが立っていたのだった。


「お偉方は独自に護衛を付けているから、用心棒は求められない。安い下働きならば、税を払ってまで行く意味が無い」

「成程」

 確かに小助の言う通りだと新九郎は納得した。


 それから、暫く歩いて立派な門構えの建物へと小助が入って行ったので、新九郎も続いて中へと入ったのだった。


「おっ、兵衛。そちらは、もしかして」

「ああ、雲出川くもずがわで拾って来た新九郎様だ。こいつは八之助。ぬしを拾うのを手伝ってくれたのだぞ」

 期待に満ちた目で新九郎を見ていた八之助は、小助の言葉を聞いて喜んでいた。


「そうか。世話になったのだな。八之助殿もわたくしの恩人という事ですな」

「これはこれは、どこぞの名の有るお方ですかな」

 新九郎の言葉の端々から溢れる気品さに八之助は畏まってしまった。


「八之助。無駄じゃ。こやつは何も覚えておらん。老耄みたいなものじゃ」

「小助殿。だから、五郎太殿はこれは一時的でいつか記憶が戻るかもしれないと仰っていたであろう」

 何度となく繰り返して来たやり取りを、またやった事に新九郎は何だか可笑しくなってしまった。それは小助も同じようで、二人は顔を見合わせて笑い合うのだった。


「まあ、元気そうで何よりだ。さあ、そろそろ仕事の話に入っていいかな」

 二人が一頻り笑った所を見計らって八之助が話し出した。


 仕事の内容は五日間の用心棒だ。日が落ちてから日が昇るまでの時間で、日当が銀10匁は保証するとの事だった。

「詳細は薬屋の多枝たえに聞いてくれ。彼女が依頼主だ」

「夜警で10匁か。悪くはない。分かった、行ってみる事にしよう」

 小助は八之助から木札を渡された。どうやら、それが仕事を受ける証になるようだった。


「結局、ぬしの言っていた方へ行く羽目になったな」

 八之助の家を出た小助は乾いた笑いを浮かべながら関の方へと向かって行った。

「どういうことだ」

「多枝の薬屋は李朱医学の薬師がおるのだ。だからな、庶民には手が届かないが、効き目は確かなものばかり扱っておる」

 つまりはお偉方を相手に商売をしているという事で、金払いを心配する必要が無いと小助は笑っていたのだった。

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