Phase 00 爆弾魔

 「あなたが、神戸の爆弾魔ですね。」

 「どうして俺が一連の事件の黒幕だと分かったんだ。」

 「あなたが出した手紙だよ。」

 「確かに、俺は爆弾と一緒に手紙を置いていたが、それがどうした。」

 「あなたの名前は『近藤隆史こんどうたかし』ですよね。つまりイニシャルは『TK』。そして、爆弾に添えられていた手紙のイニシャルも『TK』だった。あの時、三宮センター街で献血を行っていた人に同じイニシャルの人がいないか調べてもらったところ、あなたが浮かび上がった。ただそれだけの話だ。」

 「くっ・・・。」

 「苦虫を噛み潰した顔をしたって無駄ですよ。あなたが爆弾魔という紛れもない証拠はこの献血リストの中に入っているのだから。」

 「そうか。俺の罪は認める。就職氷河期で仕事もない。更に追い打ちをかけるように震災で家庭は滅茶苦茶になった。だから、神戸中に爆弾を仕掛けてあの時の悪夢を再現しようと思ったんだッ!」

 「爆弾と地震だったら、地震の方がうしなうモノが多い。爆弾で喪うモノなんて、地震と比べたらちっぽけなモノだ。」

 「でも、俺はセンター街を爆破しようと思ったんだぞ!」

 「今のセンター街は復旧の途上にある。そんなモノを爆弾で壊してしまったら、せっかく復旧に関わっている人に対して申し訳ないと思わないのか!」

 「ああ、俺は思わない。そして、お前の家に爆弾を仕掛けた。きっとこの家は爆発して消えてしまう。」

 「それなら問題ない。西宮署の刑事さんに頼んで爆弾は撤去してもらった。だから、そのボタンを押しても無駄だよ。」

 「そんな戯言たわごとを言うなッ!」

 カチッ。カチッ。カチッ。

 「あれ、爆発しないな。どういうことなんだッ!」

 「兵庫県警、西宮署の守時兼定もりときかねさだ刑事だ。残念ながら、爆弾の方はこちらで撤去させてもらった。だから、君がボタンを押してもこの家は吹っ飛ばない。」

 「クソ・・・クソ・・・クソッ!」

 近藤隆史の手首に手錠がかけられる。

 私は、悪魔に取り憑かれたように暴れる近藤隆史をじっと見つめていた。

 ――その時の近藤隆史の顔を、私は未だに忘れていない。


 「今回の事件の解決、ご苦労だった。」

 「守時刑事、ありがとうございます。私はただ探偵としてやるべきことをやっただけです。」

 「それはそうと、献血者リストから爆弾魔を見つけ出すなんて僕には到底できない仕事だ。毎回、君の推理の着眼点には感服させられるよ。」

 「三宮センター街では土日に献血を行っている。センタービルに爆弾が仕掛けられた時の献血者から手紙のイニシャルを割り出せば自然と犯人が見えた。それだけの話ですよ。」

 「なるほど。君の推理は斬新で大胆だ。是非とも兵庫県警に欲しい人材だよ。」

 「守時刑事、私の本業は小説家ですよ?『血染めのシャツ』以来全くもって売れていないけど。」

 「いや、君の作品はもしかしたら一般人には難しいんじゃないのかな。僕は『盲腸の馬鹿』も『今日の夢』も面白いと思っているけど。」

 「それって所謂いわゆるお世辞ですよね?」

 「いや、僕は純粋に面白いと思っただけだ。それは兎も角、また何か事件が発生したらそちらのお世話になる可能性が高い。これからもよろしく頼むよ。」

 「分かっています。そのうち兵庫県警のブレーンとして配属されちゃったりして。」

 「今はまだその時ではない。」

 「ですよねぇ。兎に角、今回もありがとうございました!」


 この爆弾魔を題材にして、私は小説を書き上げようと思った。

 ――タイトルは『パンドラのはこ』だ。

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