第5話「誰がそんなことをおっしゃったのですか?」



「誰がそんなことをおっしゃったのですか?

 私と王太子殿下の婚約は王命でした。

 私もお父様も王太子殿下との婚約の話を何度も断ったのですよ。

 そうしたら王命で無理やり婚約者にされてしまいました」


「は、母上がそう言っていたのだ……。

 この婚約はアリアが望んだことだ、アリアは俺に惚れていると。

 だからアリアにはどんな無茶を言ってもいいし、ぞんざいに扱っても構わないと……」


「王妃様がそんなことを。

 それで王太子殿下は私とのお茶会をすっぽかし、誕生日に贈り物をせず、パーティでエスコートせず、宿題と王太子の仕事の九割を押し付け、挙げ句の果てにミラ様と浮気して、公衆の面前で私との婚約を破棄したわけですね」


「すまない……」


王太子殿下が消え入りそうな声で言った。


「今さら謝られても遅いですわ」


私が冷たく言い放つと王太子殿下はがっくりと肩を落とした。


「僕は絶対にアリアにそんな酷い仕打ちをしないよ」


「嬉しいです。

 信頼していますわフリード様」


「ちょっと待ってよ!

 ガラン様が王太子じゃなくなるってどういうこと!」


今まで尻もちをついたまま放心していた、ミラ様が立ち上がった。


「言葉通りの意味でしてよ、ミラ様」


「認めない!

 あたしは認めないわ!

 あたしはガラン様と結婚して王太子妃になるのよ!」


「ガラン様は王家の色持ちではないので、ミラ様と結婚しても国王にはなれませんわ。

 ガラン様が王家の色持ちである私との婚約を破棄しミラ様と結婚する……それはすなわちガラン様が王太子の地位を捨てるということです」


「王太子じゃないならガラン様と結婚しないわ!」


ミラ様はあっさりとガラン様を捨てた。


お二人のおっしゃっていた真実の愛ってなんなのでしょう?


随分と安っぽい愛ですね。


「フリード様って言ったわよね!?

 ガラン様なんかよりずっとイケメンだわ!

 フリード様の銀色の髪とアメジストの瞳素敵だわ! 美しいわ!

 黒髪に茶色の瞳のガラン様よりずっとかっこいいわ!

 黒髪に茶色の瞳なんてこの国にはありふれているもの!

 あたしはフリード様と結婚するわ!

 フリード様あたしにプロポーズして!」


ミラ様がフリード様に突進していく。


「ミラ様、フリード様に近づくのは危険ですよ」


「ほっといてよ!

 見てなさい、あんたの婚約者を奪ってやるんだから!」


フリード様に手を伸ばしたミラ様は、あっという間にフリード様の護衛に取り押さえられた。


「ちょっと! なんなのよあんたたちは!

 あたしはフリード様の婚約者になる女よ!

 あたしに乱暴したことを後悔させてやるんだから!」


護衛に取り押さえられながら、ミラ様が喚いている。



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