第15話 逮捕された派手なスーツ

異国の女達が寒空の下で、


通行人の行く手を阻む。


その佇まいは、


裏通りの雰囲気を作り出していた。


体の曲線を包み込むタイトなドレスは、


痩せた体を強調させる。


なくすものがない女達は、


まとまった金が出来たら、


祖国へと引き揚げてゆく。


この場所で生きる人々は、


様々な事情を抱えていた。


まともな教育すら受けていない者も多く、


低学歴者やシングルマザーの


受け皿になっていた。


生活の為に手段を選んでいる暇はない。


女達は時に凶暴な振る舞いをした。


避妊用具に穴が空いていたと言って、


高額な中絶費を要求しては、


金に溺れた。


嘘の妊娠。嘘の流産。


女達は生活の為に架空の胎児を殺した。


死ぬことさえ特別な意味を持たない。


店に向かう道中、


ヒールの中敷きに水が入った。


天候不良で


道路の状態がよくない日が続いていた。


店の近くに水はけの悪い場所があり、


ストッキングを濡らすことが、


ここ数日の日課になりつつあった。


G県の冬は東京より寒いけれど、


インフラが老朽化している為、


東京と同じく想定外には弱かった。


店の更衣室で


新しいストッキングに


履き替えようとしていると、


ふくらはぎが


伝線していることに気がついた。


丸めて爪先から抜き取ると、


蓋つきのゴミ箱の中へ放った。


蓋が閉まる瞬間、


食べかけのハンバーガーが


捨ててあるのが見えた。


借り物のドレスに着替えると、


常連のいるテーブルを回って挨拶をした。


それは何の変哲もない、


いつも通りの接客風景だった。


店内の様子が一変したのは、


この後だった。


珍しく団体客が入ってきたと思ったら、


私服警官が数人、


店の入り口から勢いよくなだれ込んできた。


客もホステスも警官の存在に気がつくと、


一斉に黙りこんだ。


一人の警官が私の元へやって来ると、


ジャケットの内ポケットから


写真を取り出して見せた。




「この人

ここで働いていませんか?」




オールバックの髪を後ろに束ね、


吊り目でエラの張った人物が


写っていた。


中性的で


割りとどこにでもいそうな顔立ちだった。


どこかで出会っていないだろうか?


少しでもこの場にふさわしい態度を


取ろうと考えながら、




「いえ

見たことありません」




と短く答えた。


警官はそれ以上追求してこなかった。


ダイアナは状況を理解すると、


自分の知っていることを話した。


G駅の北口付近で、


似ている人物を見掛けたという。


私も同じ場所で、


怪しげなやり取りを目撃していた。


しかし顔までは覚えていなかった。


警官にいつ頃の出来事か聞かれると、


ダイアナは少し考えた後、




「センシュー」




とだけ答えた。


店内の様々な場所に


フラッシュがたかれた。


客がキープしているボトルや


カウンターに置いてある異教の神像にまで、


レンズが向けられた。


その場に居合わせた全員が惨めに思えた。


ホステス達の


不安と警戒が入り交じる視線をよそに、


警官達は店のオーナーである一之瀬を


取り囲んで職務質問をしていた。


細い糸の上を


物体が移動してゆくような緊張感。


空気が張り詰めていた。


私の胸に静寂が降りてくる。


年配の警官が諭すような口調で言う。




「警察は噂話だけ聞いて

動いてるんじゃないんだよ」




全部のポケットを調べても何も出てこない。


すると店の奥から


店内を捜索していた警官が、


革の鞄を持ってやって来た。


一之瀬の私物だ。


白い手袋をつけて慎重に運び出す。


一之瀬は派手に鼻をかむと、


開き直った態度で正体を明かした。


私達が店のオーナーだと思っていた男は、


違法薬物密輸組織の一員だった。


警官は現在の時刻を告げると、


一之瀬に手錠をかけた。


金属音が小さく鳴った。


一瞬の出来事だった。


一之瀬は警官に両脇を抱えられると、


自らが所有する店を出て行った。


この日も派手な色のスーツを着ていた。


今日、捕まることがわかっていて


選んだ服じゃないことは明らかだった。
























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る