第5話 レストラン

私達は高速を抜けると、


墓場のように静まり返った


レストランの駐車場に車を停めた。


ステーキハウスの看板を


ライトが下から照らしている。


店内は肉料理が焼ける


香ばしい匂いが漂っていた。


美山はテーブルに着くと、


メニューに記された文字を指差して、


店員に伝えた。


私は自分が食べる物を適当に注文すると、


水を少しずつ口に運びながら、


美山の話を聞いた。




「実に酷い結婚生活だったよ

とても永遠の愛を誓いあったとは思えない

紙の上では夫婦だけど

関係はとっくに終了してるよ」




妻とうまくいっていないというのは、


不貞行為をしようとする男の常套句だ。


私は聞き役に徹することにした。




「家の玄関に弁護士の靴が並ぶのは

もう懲りごりでね

子供が持って帰ってくる

三者面談の用紙をめぐって

どっちが出席するかで揉めるし

朝目覚める度に

部屋の中が片付いていくのも辛かったな」




美山はトーク番組のように


自分のことをペラペラと話すと、


外に女をつくる理由を簡単に説明した。




「女房とは出来ないことが出来るから」




テーブルにカシスオレンジジュースが


運ばれてきた。


二層のグラデーションが鮮やかだ。




「こういうのって味より雰囲気だから」




美山はそう言うと、


グラスに添えてある櫛形のオレンジを


指で撫でた。私達は乾杯をした。


重なりあうグラスの響きが、


この夜を約束した証しに聞こえた。


疲れた体にジュースの甘さが心地よかった。


美山は家庭内の不満を積極的に話した。




「俺が子供に話し掛けてるのに

全部女房が答えようとするんだよ

あれ腹立つよな~

それで今度は

女房に直接話し掛けようとすると

急にベランダへ出て

鉢植えの手入れなんかやり始めてさ

目も合わせやしない」




カシスオレンジのグラデーションを


崩しながら相づちを打っていると、


注文した料理が運ばれてきた。


テーブルの中央にフライドポテトと


トマトソースのミートボールが並んだ。




「これ ミーちゃんのやつ」




そう言うと美山は、


ミートボールの皿を私の方へ寄せた。


美山はフライドポテトをつまみ上げると、


先端をふらふらさせながら


話の続きをした。


時折、美山の手が私の皿へと伸びた。


フライドポテトにトマトソースを付けて


食べている。


その指はピアニストのようにしなやかだ。


美山の指が


私の体の上を滑るところを想像してみる。


この男は、どんなセックスをするのだろう?


食事を終えると満腹感から


急に睡魔が襲ってきた。


一点だけ見つめてぼんやりしていると、




「出ようか」




そう言って美山が席を立った。


私もそれに従った。


駐車場に向かって歩いている時、


電話が鳴った。


美山のスマートフォンだ。


私は車の中で待つことにした。


助手席のシートを倒すと、


外で話し込んでいる美山の姿が見えた。


何かを指示している。


美山の声と表情が険しい。


車内はすっかり冷え込んでいた。


僅かな緊張を感じながら待っていると、


運転席のドアが開いた。


美山は脱いだ背広を私の膝に掛けると、


暖房とラジオをつけた。


日本語の歌詞を英語っぽく歌う


暑苦しい曲が流れ出すと、


車内に漂っていた緊張感が一気に和んだ。


電話の相手は出版社からだと言っていた。


締め切りが近いのだろうか?


美山は妻子と別居している。


週刊誌には離婚の話も出ていたが、


親権をめぐって


争っているとの報道もあった。


真相は定かではないが、


それを今知りたいとは思わない。


男の離婚は過去への清算だ。


美山は車を発進させた。




























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