第178話 モンスターの習性の話なのに、あきちゃんは出てこない


 45階層に挑んだ俺はモンスターの集中攻撃に遭い、イジメられた。

 だが、怪我の功名で、後々のボス戦で出てくるキリングドールの習性を掴んだ。


 そして、46階層への階段も発見したので、ちょっと様子を見てから帰ることにした。


 46階層に降りた俺達は階段探しを開始する。

 それからそこそこの時間を歩いたのだが、敵が出てこない。

 もちろん俺の索敵にも反応はない。


「ショウコ、いないのか?」

「今のところは」


 うーむ、45階層まではキリングドールがうじゃうじゃ出てきたのに、この階層は静かだ。

 経験上、こういう階層に出てくるモンスターは強かったり、ゴーレムのような面倒な相手であることが多い。


 そのまましばらく歩いていると、曲がり角があったため、曲がった。


「この先にいるわね。リビングアーマーが1体よ」


 ショウコが角を曲がると、すぐに教えてくれた。

 角を曲がったことで、先にいるモンスターを発見したのであろう。


「1体だけか……弱いと思うか?」


 俺は隣にいる≪Mr.ジャスティス≫に聞く。


「思わない。二人がかりでいこう」

「はいよ」


 俺と≪Mr.ジャスティス≫はそれぞれ、剣とハルバードを出し、構える。

 構えながら待っていると、俺の索敵にも反応があった。


「ダークナイトより大きいな……」

「だね。用心しよう」


 俺と≪Mr.ジャスティス≫は警戒しながらリビングアーマーを待っていると、リビングアーマーが姿を現した。


 リビングアーマーは2m近くの大柄な身体であり、フルアーマーを装備している。

 そして、でっかい槍と盾を持つ騎士のようだった。

 ダークナイトが一般兵なら、リビングアーマーは将軍って感じだ。


「魔法を使う」

「わかった」


 俺はハルバードをしまい、両手でハートマークを作った。


「ラブラブ、ファイヤー!!」


 俺が放った火魔法はリビングアーマーに向かっていくが、リビングアーマーは手に持つ大きな盾で防御する。

 俺の火魔法はそのまま盾で受け止められてしまった。


「だと思ったわ」


 魔法はあの盾で防ぐと思っていた。

 やっぱり≪Mr.ジャスティス≫が予想していた通り、防御力の高いモンスターのようだ。


「僕が出る。援護を頼む」


 お! 進んで生贄になるとはさすがは生贄世代筆頭だ。


「いってらーい」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫を見送り、観戦する。


 ≪Mr.ジャスティス≫はリビングアーマーと対峙すると、盾で体を防御しながら剣で斬りかかった。

 リビングアーマーは大きな盾で剣を受けると、すぐに槍で突いてくる。

 ≪Mr.ジャスティス≫は体の向きを横にし、半身になり、槍を躱した。


 うーん、騎士同士の一騎打ちみたいでかっこいいな。


 俺はそのまま≪Mr.ジャスティス≫とリビングアーマーの戦いを見ているが、互角に見える。

 いや、おそらくは≪Mr.ジャスティス≫の方が強いのだろうが、≪Mr.ジャスティス≫は本気じゃない、というか、防御に徹している感じだ。


 何してんの?


「援護いるかー?」


 俺は手を前にかざし、聞いてみる。


「もうちょっと待って」


 ≪Mr.ジャスティス≫は断ってきた。


 その後も一進一退の攻防が続いているが、いい加減、飽きてきた。

 最初は映画みたいでかっこいいなと思ったが、代り映えがしない。


 俺が援護もせずに、ずっと待っていると、戦況が動く。


 ≪Mr.ジャスティス≫は盾をしまい、もう一つの剣を取り出したのだ。

 両手持ちになった≪Mr.ジャスティス≫はリビングアーマーを圧倒しだした。


 最初からそうしろよ。


「≪Mr.ジャスティス≫は相手を研究してるんだろ。リビングアーマーも50階層のボス戦に出てくるんだから」

 

 シロが教えてくれる。


「なるほどねー」


 ≪Mr.ジャスティス≫もちゃんと考えているんだ。

 でも、何かわかったのか?


 俺が首を傾げていると、≪Mr.ジャスティス≫はリビングアーマーを倒した。


「ふう」


 戦闘を終えた≪Mr.ジャスティス≫が武器をしまい、一息ついたので、近づく。


「何かわかったん? 実に地味な戦いだったけど」

「地味だけど、強かったよ。特に弱点もない。でも、ダークナイトと同様に攻撃には消極的だね」


 ダークナイトの強いバージョンって感じか……


「キリングドールと一緒に出てくると、厄介そうだな」

「そんな感じだね。ごめんけど、ルミナ君も戦ってみてくれない?」


 こき使う聖騎士様だわ。


「はいはい」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫に言われて、リビングアーマーと戦うことにした。


 しばらく進んでいると、この先にリビングアーマーが1体いるとショウコに言われた。

 もしかしたら、この階層は1体しか出ないのかもしれない。


「後ろからも1体来てます!」


 諜報をしているシズルが言う。


「バックアタックばっかだな。普通の1パーティーで攻略できんのかよ」


 むずくね?


「うーん、今後のことを考えると、後衛に戦える人が欲しいな。ねえ、柊さんを返し…………なんでもない」


 俺が腕を上げると、≪Mr.ジャスティス≫は言い淀んだ。


「殺すぞ」

「冗談だよ。それより、ほら、来たよ」


 ≪Mr.ジャスティス≫は前を指差す。


 チッ!

 まあ、アカネちゃんは裏切らないからセーフ。

 さっき、俺のことが大好きって言ってたし。

 ……めっちゃ恨みがましく見てたけど。


「後ろは?」


 俺はハルバードを構え、前を見ながら、後ろの戦況を聞く。


「大丈夫。クーフーリン君と春田さんが突っ込んでいった」


 じゃあ、大丈夫だろう。


 俺は後ろの憂いをなくすと、姿を現したリビングアーマーと対峙する。


 先ほどの≪Mr.ジャスティス≫の戦いを見ていると、俺が攻撃すれば、盾で防御してくるだろう。

 そこが狙い目だ。


 俺はハルバードを振り上げ、突っ込む。

 リビングアーマーは盾を前に出し、槍を構える。


 おそらく、≪Mr.ジャスティス≫の時のように、盾で受け、槍で反撃するのだろう。


「バカめ!」


 俺は力いっぱいハルバードを振り下ろした。

 すると、金属音がぶつかる大きな音と共に、リビングアーマーの盾はへこみ、俺の手には確かな手ごたえが残る。


 リビングアーマーは勢いに負けて、反撃することも出来ずに、1、2歩後退した。

 俺の力は≪Mr.ジャスティス≫とは違うのだ。


 俺は後退したリビングアーマーに向けて、ハルバードを突き出し、胴体を突こうとする。

 それを見たリビングアーマーはへこんだ盾で防御する。


 ん?

 そんな盾で防御すんのか?

 さっき、俺の力を見ただろうに。


 俺は防御を選択したリビングアーマーに疑問を持ったが、構わずに盾を突いた。

 リビングアーマーは今度は防ぎきれず、勢いに負け、盾を落とし、尻餅をつく。


 俺はそんなリビングアーマーを見下ろしながら、ハルバードを高く振り上げ、一気に落とした。


 リビングアーマーは潰れ、煙となって消える。


「お前が長々と戦っていた理由が分かった」


 俺はハルバードを振り下ろした格好のまま、≪Mr.ジャスティス≫に言う。


「そう?」

「ああ。こいつもキリングドールも他のモンスターも決まった動きしかしない」


 先ほど、リビングアーマーは槍でカウンターを狙えばいいのに、あくまでも盾で防御しようとしていた。

 盾がへこみ、機能が落ちているのにも関わらずだ。


 盾で防ぎ、その後に槍で攻撃する。

 このパターンしかしない。


 思えば、キリングドールは後衛を狙うし、ダークナイトはキリングドールを守ろうとする。

 そして、シャドウメイジは後ろで魔法を使うだけ。


 40階層以降のモンスターは人形や機械のように決められたパターンの行動しかしていないのだ。


「40階層までと比べ、数は多いし、連携してくるから、やけに難易度が上がったなと思ったけど、行動パターンが変わらないんだよね」

「なるほどねー。そういう情報は先に欲しいわ」


 よく考えると、こういう情報は≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫連中が先行して得た情報をちーちゃんが調べて、教えてくれていた。

 やたら、俺やあきちゃん、クーフーリンが苦労してるなと思ったが、俺達、後発組はそういう情報を知ってから戦っているので、今回みたいに知らない敵と戦うのに慣れていないんだ。


「おそらく、この先は今までのモンスターがパーティーを組んで出てくる。そして、50階層に近づくにつれて、キリングドールとリビングアーマーの比率が高くなると思う」


 今までのキリングドール、ダークナイトの組み合わせは厄介だったし、これにリビングアーマーが加われば、厄介さが増す。

 しかし、攻略法の糸口は見えてきた。


 50階層への道のりが近づいた気がする。


 俺達はその後、情報を共有し、帰還した。

 帰還後、今後の予定の話し合いをした結果、翌日は休み、明後日の日曜日から攻略を再開することを決め、解散となった。


 俺は家に帰る途中、≪魔女の森≫の4人に明日、家に来るように連絡した。

 翌日は休みだが、話し合いのために、集まることにしたのだ。


 なお、4人なのは、シズルさんが何も言わずにトコトコとついてきているから。


 こいつ、どんどん我が物顔になってないか?


『いるよねー。こういう男に影響されやすい女って。いやねー』


 シロさんや、それ、どういう意味?

 あと、そのオカマ言葉をやめろ。

 すげー、バカにされてる気がするわ。





攻略のヒント


「あなたは…………二つ名なんですか?」

「二つ名だよ! 槍使いにふさわしい立派な二つ名!」


『二つ名の由来を聞いてみよう~瀬田コウタロウ~』より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る