第160話 家に誰かがいる幸せ(今日もだよ!)


 シズルが2月14日のバレンタインデーに泊まっていった。

 翌日は日曜日であり、ダンジョン探索も休みであったため、2人でゆっくりと過ごした。


 その次の週は学校に行き、放課後にダンジョンに行くといういつもの日常だった。


 ダンジョン攻略では、良いことと悪いことが判明した。


 良いことは、俺のマジカルテレポートで40階層まで飛べるということだ。

 俺は以前のスタンピードの時に罠を踏み、40階層まで行った。

 そこで40階層のボスであるホワイトドラゴンを討伐している。

 よって、マジカルテレポートの条件をクリアしているため、40階層まで飛べるのだ。


 ただし、31階層から39層は飛べなかった。

 行ったことがないからだろうと思っていたのだが、31階層に行った後も確認のために飛ぼうとしたのだが、無理だった。


 理由はわからないが、おそらく、39階層まで行かないと無理なのだろう。

 31階層から40階層を攻略しないと完全に使えることは出来ないようだ。


 とはいえ、40階層には行ける。

 よくわからないが、有難いことである。


 だが、31階層から39階層を飛ばし、いきなり40階層には行く気はない。

 たとえ、飛ばしたとしても、俺達のレベルで41階層以降を攻略できるとは思わないからだ。

 ましてや、41階層以降は未知の領域である。

 地図もなければ、出現モンスターも不明だ。


 とても、俺達では攻略できない。

 良くて誰かが死んで撤退、悪ければ全滅だろう。

 俺は早く男に戻りたいと思うが、そんなリスクは取れない。


 地道に攻略するしかないのだ。

 最悪、嫌な階層があった時に飛ばすくらいかな。



 次に、悪いことだが、これは30階層のボスであるタートルゴーレムだ。

 俺のマジカルテレポートで30階層まで飛ぶことが出来る。

 だが、30階層のタートルゴーレムを倒さないと31階層には行けない。


 つまり、探索の度にタートルゴーレムを倒す必要があるのだ。


 俺達は本部長に聞いた≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫のホームページを見た。

 そこに書かれている攻略法は俺達が使った戦術と同じで、誰かがわざと攻撃を受けている隙に攻撃するというものだった。


 俺達はもう一度、この方法でタートルゴーレムに挑んだ。

 瀬能にプリティーガードをかけ、瀬能を囮にしたのだ。

 しかし、何故か、タートルゴーレムは乗ってこなかった。


 実は≪正義の剣≫や≪ヴァルキリーズ≫のホームページにも書かれているのだが、いくら囮を出しても、タートルゴーレムは警戒心が異常に強いらしく、あまり乗ってこないのだ。

 だから、タートルゴーレムは持久戦になりやすく、難敵なのである。


 俺達は持久戦に向いているパーティーではない。

 攻撃に偏っており、防御は瀬能頼みだからだ。


 瀬能が落ちれば、そこで探索が終わってしまう。

 俺は瀬能の限界が来る前に、援護のために前に出た。


 すると、タートルゴーレムは目の前にいた瀬能を無視し、俺を見てきた。

 そして、襲い掛かってきた。


 その時は、その隙にシズルが忍法の風迅で倒した。

 その後も何回かタートルゴーレムに挑んだのだが、何故か、瀬能の時は乗ってこないのに、俺が前に出ると、タートルゴーレムは俺に襲い掛かってくるのだ。


 よくわからないが、めっちゃ嫌われているか、めっちゃ好かれているのだろう。


 どちらにせよ、攻略は容易になった。

 しかし、俺は毎回、攻撃を受けないといけなくなってしまった。

 しかも、毎回、シズルの風迅で吹き飛ばされる。


 俺はただでさえ、30階層まで来るのに精神力を使いまくっているというのに、その後、タートルゴーレムのブレスを受け、自らの彼女に竜巻で吹き飛ばされなければならない。


 なんだこれ?


 俺はこれから先、毎回、31階層に着くころには満身創痍状態なのだろうか?

 シズルは申し訳なさそうに謝ってくるが、他の仲間はしゃーないと言った感じだ。

 俺の不幸が大好きなハムスターに至っては、若干、口角が上がっている。


 リーダーは率先して動き、責任を負う。

 時には、仲間をかばい、囮になることもあるだろう。


 だが、俺はこれがいじめに思えてならない。


 もちろん、そんなことはないと、頭ではわかっている。

 しかし、徐々に、瀬能の顔が真顔になっているし、アカネちゃんの口角も吊り上がっている。

 ちーちゃんは俺と目線を合わさない。


 シズルとカナタが心配そうに声をかけてくれることがせめてもの救いだろう。


 今日もダンジョンに行った。

 30階層に行った。

 吹き飛ばされた……


 心が荒んでいく。

 もしかして、これがダンジョン病なのだろうか?


 まだ、31階層の探索しかしていないが、タートルゴーレムの宝石で儲けはいい。

 また、皆のレベルも上がっている。


 順調だ。

 非常に順調だ。


 でも、ね?


「なあ、俺、瀬能とちーちゃんとアカネちゃんを殴りたいんだけど……」

「急にどうしたの? いや、わかるけど…………」


 俺がベッドの上で携帯をいじっているシズルにそう言うと、シズルが顔を上げた。


 今日は2月21日の土曜日だ。

 昼にダンジョンに行き、解散となった後にシズルが家に来た。

 今日はこのまま泊まっていくらしい。


 こいつ、先週も泊まったのに、今週も泊まるのかよ。

 嬉しいけど、寮は大丈夫か?

 良い子ちゃんが悪い子ちゃんになってしまったよ。


「アカネちゃんは昔からそうだけど、瀬能とちーちゃんって、たまに俺に辛辣というか、ひどくない?」

「ルミナ君の態度が悪いからじゃ…………」


 悪くねーわ!

 一切、敬ってないけど、先輩だぞ?


「でも、しょうがないよ。ルミナ君が囮になってくれないと、私達ではタートルゴーレムを倒せないし」


 こいつはこいつで、最初の頃は申し訳なさそうにしてたのに、一週間も経たずに、心配しかしなくなった。

 言っておくが、俺はお前の風迅をモロに食らってんだぞ!


 シズルの風迅は強烈だ。

 俺にはプリティーガードがあるからダメージは防ぐことが出来る。

 しかし、風で飛ばされるし、目は回るし、地面に叩きつけられるしで、大変なのだ。

 きれいに着地しようかと思うのだが、目が回ってるでせいで、上手く着地できない。

 地味に痛いし、気持ち悪いし、やるせない。


「ホントにきついんだぞ。あのクソ亀、何で俺ばっかり狙うんだ」

「嫌われたんじゃない? 初めて挑んだ時、どう見ても浦島太郎のいじめっ子だったもん」


 ちょっと殴ったり蹴ったり、悪口を言っただけなのに、狭量なカメだわ。

 ってか、同一のカメなん?


『違うぞー。でも、知識として残ってるんだぞー』


 マジかよ……

 意味わからんが、マジかよ。


 ところで、なんで念話?

 ってか、お前、どこにおるん?


 シロは俺の服の中にいない。

 家に帰った時はいたが、いつのまにか、どこかに行った。


『屋根裏で涼んでる。気を使ってやったんだよ。ってか、先週もそうしてたぞ』


 屋根裏?

 どうやって行ったんだ?

 ってか、先週もかよ……


 俺はシロの行動に疑問を思ったが、まあいいかと思った。


「カメのくせに腹立つわー」


 ってか、瀬能とちーちゃんが笑いを堪えているのは、カメをいじめる俺が復讐されているからだろうか?

 そうなると、シズルが浦島太郎役か……

 まあ、浦島シズルさんはカメも吹き飛ばしてるけどね。

 ぷぷ。


「急にニヤニヤしだしたし…………」


 うっせ。


「明日は朝からケーキを取りに行くんだから寝るぞ」


 明日はカナタの誕生日だ。

 午後から俺の家に集まるため、午前中にケーキを取りにいかないといけない。


 俺はベッドに行くと、ベッドの真ん中を占領しているシズルを端に転がす。


「いや、寝ようと思ったのに、愚痴りだしたのはルミナ君じゃん」


 うるせーな。

 俺は正論が嫌いなの。

 皆、正論で俺を悪者にしようとする。


「まったく、どいつもこいつも人を何だと思ってんだ」

「機嫌悪いなー。ほら、おいで」


 シズルはそう言って、ベッドで寝ころびながら両手を広げる。


 俺はガキか?


 俺はちょっと呆れたが、シズルを見下ろすと、そんな気持ちは消え失せた。


 ………………ふむ。

 わーい!


 しかし、あと10日ちょいか…………


 俺はやすらかな気持ちで寝ることにした。


『単純なヤツ』


 お前もはよ寝ろ!





攻略のヒント


 最近、シズルが彼女面どころか、嫁面してるのが気になる。

 まあ、いいけど。

 あと、シロは気を使いすぎじゃないだろうか?


『神条ルミナの日記』より

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