第159話 家に誰かがいる幸せ


 タートルゴーレムを倒し、協会に帰還した俺は、本部長にくぎを刺され、マイちんからはチョコをもらった。

 やったね!


 俺は協会を出ると、急いで家に向かう。


 そして、家の前に着くと、カーテンから光が漏れている家の様子が見える。

 中に人がいるからだろう。


 俺は玄関の扉の前に立つと、チャイムを鳴らすべきなのかを悩んだ。


 うーん、いや、俺の家だし、まさか、中で着替えてるなんて、ラッキースケベな展開はないだろう。


 俺は若干、期待しつつ、扉を開けた。


「ただいまー」


 俺は一応、声をかけて、家に入る。

 いつもは家に帰ると、寒いのだが、今日はすでに暖房がついているらしく、暖かかった。


「おかえりー」


 俺が声をかけると、奥からシズルが出迎えてくれた。


 なんかいいね。

 そう思わないかね?


『よかったな』


 俺はシロに同意を求めると、念話で答えが返ってきた。


 いや、もう家だし、出てきてもいいのに。


『俺っちはお前と違って、空気が読めるから』


 どうせ、読めませんよー。

 フンッだ!


「待たせて悪いな」


 俺は謝罪をしながら歩き、リビングのテーブルの前に座る。


「それはいいけど、なんかあった?」


 シズルもまた俺の隣に座った。


 確かに、マイちんが言うように近い。

 まあ、家だし、誰も見てねーからいいけどな。


「俺らが30階層のボスを倒したことはすぐに噂になるんだとさ。今までは俺だけが注目されてたけど、30階層突破ともなると、お前らもだって」

「まあ、そうよね。私達、学生だもん。普通は10階層前後だろうし」


 そんなもんだろう。

 俺達は元々、15階層から20階層程度であり、これだけでも十分に優秀だった。

 しかし、マジカルテレポートにより、飛躍的に攻略が進んだのだ。

 以前、瀬能やちーちゃんがマジカルテレポートはやばいと言っていた意味がようやくわかってきた。


「これからは勧誘や取材、やっかみが来るんだってさ」

「こればっかりは仕方がないよ。私達の目的はもっと奥だしね。まあ、学生の私達は取材はNGだし、やっかみもないでしょ。勧誘は……ダメじゃなかったっけ?」

「それでもやるヤツはやるからなー。取材だって、前にも来ただろ? やっかみは無視でいいけど、勧誘も来るかもな」


 本部長はああ言っていたが、やるヤツはいる。

 まあ、皆、断るだろうし、問題はないと思うけど。


「ああ…………あったねー。本部長さんがルミナ君を呼んだ理由がわかったよ」


 シズルはうんうんと頷いている。


 決めつけんな。

 多分、お前の想像通りだけど。


「あ、それとね、この紙袋が玄関のドアノブに掛けてあったけど」


 シズルはテーブルの上に置いてある白い紙袋を指差す。


 ん?

 気にはなってたけど、お前のじゃないの?


 俺は部屋に入った時から見覚えのない紙袋が気になっていた。

 でも、中身はシズルからのチョコだろうと思っていたので、触れなかったのだ。


「ふーん、何だろ?」


 俺は紙袋を取り、中を覗く。

 中には手紙と20cm程度の包装紙に包まれた箱が入っていた。


 俺は手紙を取り出し、読んでみる。




 お姉様へ


 今日はバレンタインということでチョコを贈ります。

 各自で贈ると、量が増え、迷惑になると思ったので、連名で贈らせていただきます。


 今日は土曜日であり、お姉様はダンジョンに行くと聞いておりますので、失礼ながら玄関に置かせてもらいました。


 お姉様の今後の活躍を祈っています。


 P.S

 お返しは不要です。


 魔女っ娘クラブより




「……………………ふむ」

「魔女っ娘クラブ…………あの子達か……」


 連名で1個を贈ってきたか。

 まあ、いっぱい貰ったら嬉しいと言えば嬉しいが、量を貰っても持て余すのは確かだ。


 太っちゃうよ。


「しかし、こいつら、俺の家を知ってんだな…………しかも、ダンジョンに行くことも知ってやがる」


 ほぼストーカーじゃん。


「そりゃあ知ってるでしょ。あの2人はここに来たこともあるし、ルミナ君が今日、ダンジョンに行くことも知ってるだろうし」


 ん?


「2人って?」

「…………いや、なんでもない。ここは学校からも、協会からも近いから皆、知ってるでしょ」


 ………………まあいいや。

 確かに、この家は通り道に面しているし、知ってるヤツはいるだろうしな。


「中身はなんだろ?」


 俺はチョコが入っているだろう箱の包装紙を剥ぎ、箱を開ける。

 中には色んな種類の一口サイズのチョコが並んだ普通のチョコレートが入っていた。


「普通だな。デパートに売ってるやつだ」

「だねー。まあ、あそこはまともなクラブだし、変な物は贈らないでしょ」

「…………お前、さっきから魔女っ娘クラブにやたら詳しいな」


 まさか、お前も魔女っ娘クラブメンバーじゃないだろうな?

 忍者のくせに。


「まあ、その、知ってる子がね…………」


 知ってる後輩かな?

 シズルは寮生だし、そういう付き合いもあるかもしれん。


「まあ、いいか。あとで食べよ。しかし、結構、高そうだな…………お返しはいらないって言われたけど、返した方が良さそうな気がする」

「お返しする相手がねー。全員に返すわけにはいかないでしょ。まあ、喜んでたって、伝えておくよ」


 確かに、誰に返せばいいのかもわからんし、魔女っ娘クラブの規模は知らんが、数人ってことはないだろう。


「頼むわ。ついでに、大人しくしとけって言っておいて。絶対にクランなんか作るなって」


 前にアカネちゃんから聞いたクラン結成計画は阻止したい。

 絶対に同級生や上級生からバカにされる。


「それは大丈夫だと思うよ。ハヤ……その子達のパーティーリーダーが断固、反対してるらしい」


 そりゃそうだ。

 ってか、パーティーを組んでるのかよ…………

 それで、よくクランを結成しようと思うよな。


「ふーん。じゃあ、いいか」

「まあ、そこまで気にしなくても大丈夫だよ。ルミナ君の動向を見て、楽しんでるだけだから。それよりも、はいこれ」


 シズルはそう言って、赤い包装紙に包まれた箱を渡してくる。

 中身は多分、チョコだろう。


「ありがと。開けてもいいか?」

「どうぞ。あ、でも、あんまり見ないでね。上手く出来なかったというか、初めて作ったし、目をつぶって食べたほうがいいよ。あと、あんまり味わないで食べた方がいいというか……」


 さっきのマイちんみてーだな。

 手作りなんだろうなー。


 かわいらしい反応だとは思うが、開けづらいし、うるせーよ。


 俺はシズルを無視し、包装紙を剥がしていってるが、剥がす度に、体を揺さぶられる。

 照れてるのはわかるし、かわいらしい反応だとは思うが、邪魔だ。


 俺はシズルの妨害の中、なんとか包装紙を剥がし終え、箱を開ける。

 そして、中に入っているチョコをまじまじと見た。


「そ、そんなに見ないで……恥ずかしい」


 そのセリフは来月、男に戻った時に聞くよ。


 ってか、普通に上手に出来てる気がする。


 チョコは一口サイズであり、なんかパウダーがかかっている。

 デコレーションも綺麗だ。

 少なくとも、俺のガトーショコラよりは上手である。


 え? 嫌味?

 俺のガトーショコラをバカにしてる?

 まあ、シロが全部食べたからシズルは見てないけど。


 俺は揺さぶりの力が大きくなったシズルを無視し、一つ取って、口に入れた。


 うーん、美味いな。

 お菓子が得意なホノカといい勝負だ。

 むしろ、愛情面を考慮すると、こっちの方が美味しいまである。


 本当に初めてかね?


「美味いな」

「ほ、ほんと? 失敗続きで、ようやくマトモなのが出来たやつなんだけど」


 こいつ、何個作ったんだろ?

 ここまで上手に作れるって、数回ではないような気がする。


 手作りなんて、愛情さえあれば、不器用でも満足なのに。

 相変わらず、重いなー。

 このチョコ、血とか入ってない?


「いや、見た目も綺麗だし、めっちゃ美味いわ」

「よかったー。ルミナ君がガトーショコラ作るとか言うから、怖かったんだー。ルミナ君、上手だし」


 いや、言ってないけど……

 あと、俺はお菓子作りは上手じゃない。


「写メ撮っとこー」


 俺はせっかくだし、携帯を取り出し、撮ろうとする。


「やめてー。撮っちゃダメー」


 そのセリフは来月…………いや、それはさすがにせんか……


 俺は内心、変なことを考えたが、気を取り直し、貰ったチョコを撮ろうと、携帯を構える。

 しかし、その度に揺らされた。


 おい、揺らすな。

 ピントがズレるだろ。


 俺はなんとか撮ろうとするが、めっちゃ揺らされたため、諦めることにした。


 まあ、シズルが帰ってから撮ればいいや。


「わかったよ。撮らなきゃいいんだろ。まあ、ありがとな。貰えてうれしいわ」

「うん。パパっと食べてね」


 ライスか!


 俺はチョコの箱に蓋をし、しまう。

 すると、シズルがしな垂れかかってきた。


 チョコとは違ういい匂いがするわー。


「ようやく30階層に来たね」

「だなー。このまま40階層を目指そう」


 そういえば、40階層に行ったことがある俺はマジカルテレポートで40階層に行けるのだろうか?

 試してみれば良かったな。


「まだ先かもしれないけど、一歩進んだ気がする」

「10回階層ごとに飛べるからなー。それに、少なくとも、次のホワイトドラゴンはいける。一度、倒してるし」


 厄介なのはブレスとあの巨体だろうが、まあ、レベル上げをしつつ、進んでいけば、問題はないだろう。


「そうだね。それでトランスリングを手に入れたんだもんね」


 そうだよー。

 今は使えないけどねー。

 使えたら、このままお前を抱えてベッドインなのに。


「まあ、当面は31階層だなー。とは言っても、来月は期末試験か……」

「そっちは本当に頑張ろうね。落第は嫌だよ」

「しねーわ」


 多分な。

 瀬能とちーちゃん頼り。


「あー、あと今度、カナタ君の誕生日だね」


 カナタは2月22日が誕生日だ。

 実に覚えやすい。


「祝ってやるか。しかし、あいつは何が欲しいんだろ? あいつの趣味って何だ?」

「知らないねー。まあ、チサトさんに聞けばいいでしょ」


 姉なら知ってるか……


「そうするかねー」


 カナタを祝い、そして、期末試験か…………

 俺は3月上旬にまた、男に戻れる。


 うーん、見事に試験勉強時だ。

 この良い子ちゃんは勉強を優先するだろうなー。

 よし、試験が終わった後にしよう。


「ルミナ君は髪が綺麗だねー」


 しな垂れかかっているシズルはふと俺の金髪を手に取った。


「お前の方が綺麗だろ。絶対に切るなよ。俺は長い方が好きなんだ」


 俺が初めてシズルに会った時、まず目に入ったのは、その長くて、艶やかな黒髪だ。

 こんなにも主張する胸部があるにもかかわらずである。

 

「なかなかに自分勝手なセリフだ…………切らないよ。あー、だから、ルミナ君は長いままなんだね」

「長い方がいいじゃん。似合うし。ちょっとショートにしてみようか? 絶対に似合わないと思うぞ」

「いや、そんな軽く切らないでよ。急に短くなったら怖いよ」


 確かに、逆の立場なら俺も怖いな。


「大丈夫。秒で伸ばせる」

「ん?」

「タートルゴーレムを倒してレベルが上がった。そして、キモい魔法を覚えたんだよ」


 俺はタートルゴーレムを倒したことでレベルが32になった。

 そして、スキルポイントが貯まったため、メルヘンマジックのレベルを7にしたのだ。




----------------------

名前 神条ルミナ

レベル32

ジョブ 魔女

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

☆≪自然治癒lv6≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪怪力lv6≫

☆≪斬撃lvー≫

☆≪魅了lvー≫

☆≪気合lvー≫

 ≪索敵lv3≫

 ≪罠回避lv2≫

 ≪冷静lv2≫

 ≪隠密lv5≫

 ≪投擲lv1≫

☆≪メルヘンマジックlv6→7≫

 ≪薬品鑑定lvー≫

☆≪使役~蛇~lvー≫

☆≪魔女の素養lvー≫

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☆≪メルヘンマジックlv7≫

 魔女のみが使える魔法。見た目はメルヘンだが、強力な魔法を使えるようになる。

 使用可能魔法

 ラブリーアロー、パンプキンボム

 ラブラブファイヤー、ラブリーストリーム

 プリティーガード、ヘルパンプキン

 マジカルフライ、マジカルテレポート

 キューティーヘアー

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☆≪キューティーヘアー≫

 髪の毛の長さを伸ばしたり、縮めたりできる。

 また、精神力を込めれば、髪質や強度も変更でき、自由自在に動かすこともできる。

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 実にバケモノみたいな魔法だ。

 キューティーさのかけらもない。


「どんなの?」

「こんなの」


 俺は髪に意識をおき、集中した。

 すると、俺の後ろ髪がにょきにょきと伸びだした。


「うわっ…………」


 シズルがちょっと引いている。 

 俺も引いている。


 そして、伸ばした髪を動かし、シズルの身体に巻き付かせる。


「ごめん。本当にやめて。すごく怖い」


 シズルはめっちゃ引いている。

 俺も引いている。


 このまま触手プレイが出来そうだ。


 俺はシズルに引かれたため、髪を元の長さに戻した。


「な? キモいだろ?」

「ちょっとね……すごい魔法だね。意図がわからない」


 俺もわからん。


「まあ、この魔法を使うことはあんまないと思う。欲しいのはその先だし」


 この魔法って、使い道あるか?

 髪型で遊ぶくらいだろう。


「まあ、ある意味、魔女っぽくはあったね」


 いらん魔女っぽさだなあ。


「男を辞め、次は人間を辞めたよ」

「こわ」

「ハァ……まあ、しゃーない。お前、いい時間だし、そろそろ帰るか? 送っていくけど……」


 時刻を見ると、もう9時前だ。

 寮の門限がいつまでかは知らないが、そろそろ帰った方がいいだろう。


「うん。あのさ、泊まってっちゃダメ?」


 そのセリフは(以下略)


「いいけど、寮は? マズくね?」

 

 良い子ちゃんのくせに。


「今日は実家に帰るって申請を出した」


 相変わらず、最初から泊まる気満々じゃん。

 ドスケベめ!

 まあ、できないけど。


「んー、じゃあ、泊まっていきな」

「そうする」


 シズルはそう言って、抱きついてきた。


 いやー、大きいなー。

 柔らかいなー。

 幸せだなー。


 俺はシズルの頭を撫でながら、何がとは言わないが、堪能する。


「ところでさ、この写真はなーに?」


 シズルは急に離れ、とある写真を取り出した。

 その写真はいつぞやにあきちゃんからもらったシズルのきわどい写真だった。


「ん? それどうしたん?」


 しまっておいたはずだが…………


「そこの引き出しの中にあった」


 こいつ、良い子ちゃんみたいな顔して、家探ししてやがる!

 いーけないんだ、いけないんだー!


「……………………」


 俺は無言で髪の毛を伸ばし、シズルが持っている写真を奪った。


「こわ! そこまで器用に動かせるの!?」


 俺も今、知ったわ。

 マジで触手プレイが出来そうで怖い…………





攻略のヒント


 写真を没収されるかと思ったが、別にいいらしい。

 やっぱり、頭がおかしいドスケベだわ。


『神条ルミナの日記』より

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