第156話 戦う前の確認は大事


 30階層のボスであるタートルゴーレムの情報を共有し、今日で30階層を突破することに決めた俺達は協会へと向かった。


 協会に着くと、マイちんの所へ向かう。

 マイちんは俺達に気付くと、笑みを浮かべ、手を挙げた。


「こんにちは。土日に来るのは久しぶりね」

「こんにちはでーす。ちょっと用事とかあったからねー。あ、これ、定期検診の結果」


 俺は挨拶を返すと、マイちんに先日、郵送された定期検診の結果を渡す。

 定期検診の結果は協会へ提出しないといけないのだ。


「はいはい。受け取りました…………ルミナ君、痩せたねー」


 マイちんが俺の定期検診結果を見ながら言ってくる。


「そらね。身長が縮んで、体重が変わんなかったらデブでしょ」

「まあねー。まあ、どうしても、その辺が気になるけど、問題はないでしょう。問診結果もダンジョン病とは無縁ですって書いてあるし」


 俺がダンジョン病なんぞにかかるわけない。


「でしょー。ということで、今日から攻略を進めるよ」

「進めるって……30階層に行くの? あなた達には早いと思うけど」


 マイちんは反対っぽい。

 一応、パーティーの力を見て、ダンジョン探索の進捗を止めるのも受付嬢の仕事だ。

 ましてや、専属ならなおさらである。


「まあ、ちょっと早い気はするけど、30階層に行けば、もう虫に会わなくて済むし」

「皆、虫が嫌いなのよねー。まあ、巨大な虫なんて想像もしたくないから気持ちはわかるけど。でも、30階層のボスは強いわよ。≪正義の剣≫も≪ヴァルキリーズ≫も苦労したらしいし」

「それはわかってるけど、まあ、大丈夫でしょ。タートルゴーレムは堅いらしいけど、ウチは火力には自信があるから」


 それしかないとも言います。


「うーん……学生のあなた達が30階層のボスねぇ…………まあ、タートルゴーレムはスピードは遅いらしいから危険度は低いか……わかったわ。でも、気をつけなさいよ。危なくなったら無謀は避け、すぐに帰還の結晶を使いなさい。いい?」


 今日はやけに心配性だなー。


「どうかしたの? 今日はやけに消極的だけど……」

「これまでは貴方のレベルが特別高かったから止めなかったの。万が一でも貴方がいれば、問題ないからね。でも、30階層ともなれば、貴方のレベルでも危ないわ」


 俺のレベルは31。

 多分、そろそろ32になるだろうが、30階層のボスが適正レベルかどうかは微妙だ。

 基本的に適正レベル=適正階層と考えていいが、普通は余裕を取るし、ボスともなればなおさらである。


「今までは楽勝だったからなー。まあ、俺は強いし、問題ないよ。こいつらも十分に強いし」

「まあ、それはわかるわ。でも、貴方達はこれまで超特急なのよ。私が心配しているのはあなた達が順調すぎること。ねえ、あなた達、死んだことある?」


 マイちんは後ろにいる仲間達に問う。


「ボクはありますよ。タンクですし」

「あたしもあるよ。前衛が抜かれたら真っ先に死ぬのは基本あたしだしね」


 上級生2人は死んだことがあるらしい。


 ちーちゃんは雑魚いしなー。

 瀬能に至っては俺が特製カボチャ爆弾で殺してたわ。


「私はないですね」

「私もー」


 シズルは死んだことがない。

 まあ、それは知ってる。


 アカネちゃんもないらしい。

 まあ、こいつはすぐに逃げるからな。


「僕はありますよ。川崎支部の時ですけど」


 カナタは死んだことがあるらしい。

 意外だなとも思ったが、川崎支部にいれば、仕方がないかもしれない。


 別に川崎支部の治安が悪いからということではなく、あそこの出現モンスターから考えると、メイジにはきついだろう。

 カナタは東京本部に移ってきて正解だと思う。


「ダンジョンで一番死ににくい人は素早い人なの。そして、そんな人ほど、死ぬことに耐えられないわ」


 防御力や攻撃力に長けた者は前に出るから死にやすい。

 魔法を使い、後ろにいる者は背後からの奇襲や前衛が抜かれると、死にやすい。

 だが、スピードがある者は敵の攻撃を躱せるから死ににくいのだ。

 そして、そんなヤツほど、死ぬのを嫌がる。

 これは時間が経てば、経つほど、後の死が重くなると言われている。

 早めに死を経験した方がいいのは確かだろう。


「……いっぺん、死んでみる?」


 俺はゆっくり振り向き、シズルとアカネちゃんを見つめながら言った。


「嫌よ……ってか、こわ! 無表情で言わないでよ」

「変なキャラ、作らないでもらえます?」


 うーん、まあ、シズルは≪度胸≫のスキルがあるし、アカネちゃんは図太いから大丈夫だろ。


「ウチは誰かが抜けた時点で探索不可能になるだろうから、大丈夫だよ。人数分の帰還の結晶もあるしね」

「わかったわ。あなた達、いい? ここから先は帰還の結晶を惜しんだらダメよ。死ぬのを許容できるのはごく一部の人達だけなんだから」


 ごく一部の時に俺を見るなよ。

 俺だって、死ぬのは嫌なんだぞ。


「わかりました」

「了解です」

「そうします」

「逃げるのは得意でーす」

「死にたくはないですしね」


 まあ、少なくとも、30階層のボスは大丈夫だろ。

 トロいし、時間をかけずに速攻で潰してしまえばいい。


 俺達はマイちんの忠告で気を引き締め直し、ダンジョンへと向かった。




 ◆◇◆




 ダンジョンに入ると、いつものようにマジカルテレポートで20階層まで向かった。

 そして、20階層から28階層まで最短距離で進み、29階層に到着した。


 ここまでかかった時間は3時間もかかっていない。

 レベルが上がったことと、慣れたことで進むスピードが上がったのだ。


「さて、あとは30階層までの階段に行けばいいが、その前にスキルをどうするか決めよう」


 俺は29階層に着くと、足を止め、全員に言う。


 俺達はこれまでレベル上げをしてきたが、スキルは習得せずに、スキルポイントを貯めていた。

 これまでに苦労はしてたが、ピンチにはならなかったからだ。

 それなら、スキルポイントを貯めておいて、30階層のボスや31階層以降の対策までに取っておいた方がいいだろうと話し合いで決まっていた。


「ルミナ君はどうするの?」


 俺の問いかけに対し、シズルが逆に聞いてくる。


「俺はメルヘンマジックのレベルを上げるから次のレベルが上がるまで取っておく」


 俺のメルヘンマジックのレベルは6であり、次のレベルアップで7にできる。

 メルヘンマジックlv7で覚えるのは髪が伸び、動かせるとかいうキューティーヘアーなるものだ。


 正直、変な二つ名が付きそうだし、仲間に引かれる可能性が大だから欲しくはない。

 でも、メルヘンマジックは有用だし、シロがレベルマックスにするように言っていたから習得することにしたのだ。


「なるほど。私はどうしようかなー。忍法を上げるか、パッシブスキルを上げるか、探知系を上げるか……」


 シズルは悩んでいる。

 まあ、気持ちはわかる。

 こいつのスキルはどれも有用なのだ。

 忍法はもちろんだし、脆い俺達にとって、探知系のスキルは命にかかわる。

 そして、シズルは素の能力が高いため、パッシブスキルを上げると、それだけで戦力が大幅に上がる。


「うーん、忍法と諜報かなー。おい、参謀、どう思う?」


 俺はちーちゃんに振ってみる。

 ちなみに、ちーちゃんは参謀と呼ぶと、ちょっと嬉しそうな顔をする。


「31階層以降のモンスターはオーガとかナーガとかが確認されてるね。基本的に攻撃力が高い連中だし、諜報は上げてほしいかな」

「わかりました。忍法と諜報を上げます」


 シズルは決めたようで、ステータスを操作しだした。




----------------------

名前 雨宮シズル

レベル19

ジョブ 忍者

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

 ≪疾走lv4≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪度胸lv2≫

 ≪隠密lv4≫

☆≪忍法lv2→3≫

 ≪諜報lv3→4≫

 ≪投擲lv3≫

----------------------

☆≪忍法lv3≫

 忍術が使えるようになる。

 使用可能忍術

 火遁、水遁

 雷迅、風迅

 シャドウブレイカー 

----------------------




「シャドウブレイカーって何だよ。急に英語になったぞ」


 しかも、カッコいい。

 俺のメルヘンマジックと交換してくれ。


「えーっと、影の剣が出てくるみたい」

「なにそれ? やってみ?」

「うん」


 シズルはそう言うと、手のひらを上に向ける。

 すると、シズルの手に黒い刃っぽいものが出てきた。


「それ?」

「これ。投げるっぽい」

「投げてみ」

「うん」


 シズルはその黒い短剣を通路の向こうに投げる。

 黒い短剣はそのまま一直線に通路の奥に消えていった。


「俺の≪斬撃≫みたいな能力っぽいな。技名を決めておけよ」


 デストロイヤーみたいなやつ。

 間違っても、ジャスティスブレイバーみたいなのはやめとけよ。


「いや、シャドウブレイカーでいいじゃん」

「まあ……それでもいいか」


 ちょっとカッコよすぎないかな?


「威力がわかんないね」


 シャドウブレイカーを見ていたちーちゃんが首を傾げる。


「威力はそこまではないと思いますね。精神力をあまり消費しなかったので。まあ、あとでタートルゴーレムに投げてみます」

「それでいいんじゃね? ちーちゃんは?」


 俺はシズルはそれでいいだろうと思い、次のちーちゃんに聞いてみる。

 

「あたしは普通に魔法系を上げるよ」


 まあ、それしかねーしな。


 ちーちゃんもすぐにステータスを操作し、スキルを上げた。




----------------------

名前 斎藤チサト

レベル20

ジョブ 学者

スキル

 ≪集中lv3→4≫

 ≪エネミー鑑定lvー≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪回復魔法lv3≫

 ≪水魔法lv3≫

 ≪風魔法lv2→3≫

 ≪身体能力向上lv1≫

☆≪記憶術lvー≫

 ≪高速詠唱lv1≫new

----------------------




 ちーちゃんもレベル20に到達している。

 それにバランス良くスキルを習得しているようだ。


 まあ、ちーちゃんに言うことはないな。


「そんなもんだろうな。瀬能は?」


 俺は次に瀬能に聞く。


「ボクも別に悩むことはないよ。前衛スキルを上げる」


 そりゃあそうだ。

 タンクだもん。


 瀬能もスキルを上げるためにステータスを操作する。




----------------------

名前 瀬能レン

レベル22

ジョブ 重戦士

スキル

 ≪身体能力向上lv4≫

 ≪デコイlvー≫

 ≪鉄壁lv5→6≫

 ≪怪力lv3→4≫

☆≪痛覚耐性lvー≫

 ≪空間魔法lv2≫

----------------------




「そういえば、お前、≪疾走≫とか≪回復魔法≫は取らないの?」


 いくらタンクでもちょっとくらい別系統のスキルがあってもいいし、騎士系なら≪回復魔法≫を習得するとレアジョブが出てくることがある。


「それは次だね。タートルゴーレムや31階層以降のオーガの事を考えると、前衛スキルを優先したい」


 なるほど。

 さすがに学生で免許を取るヤツは色々と考えているもんだな。


「お前は賢いなー。カナタはどうする?」

「火魔法はレベル5もありますし、土魔法と高速詠唱を上げようと思うんですけど、いいですかね?」


 あ、この子、俺の弟子だった。


「そうだな。その辺を上げとけ」

「はい!」


 カナタはメイジだし、魔法を上げとけばいいだろ。


 カナタもまた、ステータスを操作しだした。




----------------------

名前 斎藤カナタ

レベル16

ジョブ 魔術師

スキル

 ≪火魔法lv5≫

 ≪土魔法lv2→3≫

 ≪疾走lv1≫

 ≪集中lv3≫

 ≪身体能力向上lv1≫

 ≪高速詠唱lv1→3≫

----------------------




 実に優秀なメイジだ。

 さすがは俺の弟子。


「お前はこのまま魔法を伸ばせよ。すでに優秀だが、いいメイジになれるぞ」

「ありがとうございます!」


 うんうん。

 実にかわいいヤツだ。


「さて、アカネちゃんはどうすんの?」


 俺は最後のアカネちゃんを見る。


「回復魔法とパッシブスキルを上げようかと思うんですけど……」

「いいと思うぞ」


 アカネちゃんは最近、前衛にも出るようになった。

 少しづつだが、成長しているのが、わかって嬉しい。

 相変わらず、うるさいが。


「じゃあ、そうしまーす」


 アカネちゃんはそう言って、ステータスを操作する。




----------------------

名前 柊アカネ

レベル17

ジョブ プリースト

スキル

 ≪身体能力向上lv2→3≫

 ≪怪力lv2≫

 ≪回復魔法lv3→4≫

 ≪集中lv2≫

 ≪高速詠唱lv3≫

☆≪逃走lvー≫

 ≪疾走lv1≫

----------------------





 うーん、ミレイさんっぽいなー。

 ポンコツなところもそっくり。


「アカネちゃん、アイドルでもやる?」

「ええー、急に何ですかー? そんなにかわいいですー?」


 うっぜ。


「はいはい、かわいいね。じゃあ、行こうぜ」


 俺はわざとらしく照れているアカネちゃんを放っておき、30階層へと向かう。

 30階層への階段は比較的、近いため、すぐに到着した。


 そして、俺達は30階層に向けて、階段を降りていった。






攻略のヒント


宛先  紳士代表

差出人 お肉魔人

件名  もう帰りたい……


対象者の接触に失敗。

ダンジョンに入っていったため、跡をつけたのだが、対象パーティーが急に消えた。

理由は不明だが、何らかのスキルと思われる。


今は、協会に戻り、待機しているが、どうしよう?

 





宛先  お肉魔人

差出人 紳士代表

件名  Re:もう帰りたい……


了解。

ダンジョンに入ったということは短時間では帰ってこないと思われる。

いつまでも協会にいては、怪しまれる。

一度、戻ってこい。


悔しいが、作戦を一から立て直すべきだろう。



『とあるメール』より

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