第148話 今年初協会、そして、初ダンジョンへ


 3学期初登校の日に俺はシズルと別れてしまった………………いや、席がね。


 俺は学校を終えた後、シズルと共に協会へとやってきた。

 先生はああ言っていたが、すでに、ダンジョンに行く予定があるのだ。

 俺達は結局、年末年始にはダンジョンに行かなかったので、久しぶりのダンジョン探索なのである。


 今日の探索は26階層のゴーレムを経験しようがテーマだ。

 ロクロ迷宮では、これまでにゴーレム系のモンスターが出てこなかった。

 もっと言えば、川崎支部のダイダラ迷宮でも見たことがない。


 仲間達はもちろんだが、俺もゴーレムの経験がないのだ。

 もちろん、知識とは知っているし、一応、ちーちゃんが下調べをしているだろうが、やはり経験をしてみないことには対策も練れない。

 26階層から30階層のボスまでは、すべてのモンスターがゴーレム系であり、このゴーレムをどうにかしないと、これ以上進むことが出来なくなってしまう。


 今日はその最初のアタックなのだ。


 俺はシズルと共に、協会のソファーで他の仲間を待っている。


 俺は外人はどこだと周囲を見ているが、見当たらない。

 まあいいかと思ったのだが、俺の視線の先に、見覚えのある1人の女が見えた。

 

 その女は1人でポツンと座っており、どこか寂しそうである。


 友達がいないキララであった。


 なんか可哀想だなーと見ていると、そういえば、キララに怪しい3人組を退治したことを伝えていないことに気付いた。


 元々、俺は例の立花の残党3人組の情報をキララから聞いていた。

 3人組はおそらくキララを狙っていたのだろうが、その場には悪名高きあきちゃんが一緒だったため、あきらめたのであろう。

 キララは狙われていることに気付き、このことを気にしていたので、伝えようかと思った。


 俺は変な虫がついたらいけないので、シズルを連れて、キララの元に行く。


 すると、キララはこちらに気付き、手を挙げた。


「よう、今日も一人か?」

「こんにちはー」


 俺とシズルはキララに挨拶をする。


「こんにちは。あー……あきちゃんが本部長に呼び出しを食らってるから待ってる」


 まーた、なんかやったんだな。


「泥船だなー」

「まあな。でも、もう慣れた」


 嫌な慣れだなー。


「がんば。それでさ、詳細は言えないけど、お前を狙ってた例の3人組は退治したぞー」

「ああ。あきちゃんに聞いた。すげー恩着せがましく言われたわ。まあ、ありがと」


 そういえば、あきちゃんが言うか……


「キララさんは怪しいって、よく気付きますね」


 シズルはキララに感心するかのように言う。


「私は男に付きまとわれやすいんだ。変なのに好かれるというか……それで自衛のために覚えた。私の地元は平和なんだが、夜になると、本当に暗くなるから危ないんだよ」


 街灯もなさそう……

 岩手に行ったこともないから知らんが。


「なるほど。私も気を付けないとなー」

「あんたはすでに手遅れだ。特大の地雷を踏んでる」


 おやおやー?

 その地雷は誰のことかなー?


「俺のことを言ってんの?」

「他に誰がいる? お前は迷惑とトラブルを招くくせに、人の懐に入るのが上手い。そして、自分を正当化するのも上手いからマジでタチが悪い」

「すごい! 当たってる!」


 こらこら。


「まあ、これはあきちゃんもなんだが…………やっぱ泥船だなー」

「が、がんばりましょう」


 シズルがキララに共感してる。

 まあ、シズルも変なのに好かれやすいのは確かだ。

 そんなヤツは俺が撃墜してやるがね。


「あ、そういえば、お前、ブロックすんなや」


 去年、キララにメッセを送ったらブロックされた。


「そして、人の話を聞かない」


 キララがさらに俺の悪口を言い、シズルはうんうんと頷いている。


「キララのくせに生意気だぞ」

「………………」

「………………」


 キララは無言で俺を指差し、シズルは無言で手を顔の前で振り、無理無理とジェスチャーしている気がする。


 君達、似たもの同士で気が合うね。


「ハァ……ブロックなんてとっくの前に解除したよ…………それとさ、後ろを振り向かずに聞いてほしいんだけど、お前をコソコソと見ている男がいるぞ」


 ん?

 ストーカーかな?


「俺? なんかしたかな? まあ、俺は高名だし。人気あるから」

「自分を良く言うな。悪名だろ…………いや、私やRainを一切見てないのが気になっただけだ」


 キララとシズルを見てない?

 元芸能人で、見た目は良いこの2人を?

 そうなると、俺を恨んでるヤツかな?

 

 よっしゃ!

 後でボコにしてやろ。

 今はちょっとシズルとマイちんがいるから無理。


「どんなヤツ?」

「うーん、普通? 何というか特徴がない。少なくとも、私は見たことがないな。まあ、私はここに来てから日が浅いから何とも言えん」


 まあ、どっちみち雑魚だろう。

 たまに、こういうのが出てくるんだよなー。

 二度と歯向かえないようにしてやるわ!


「ふーん。お前、よくそんなんが分かるなー」

「私は一人の時が多いからな…………よく周囲を観察してる」


 ……涙が出そう。


 こいつ、マジで友達いないんだな。

 そら、変質者に狙われるわ…………


「れ、連絡先を交換しませんか? 相談とか乗ってもらいたいですし」


 シズルは本当に良い子ちゃんだなー。


「ありがと」


 キララはシズルに連絡先交換を打診されると、礼を言い、嬉しそうに携帯を取り出した。

 そして、シズルとキララが連絡先を交換し終えると、あきちゃんが本部長室から戻ってきた。


 あきちゃんは散々、愚痴と本部長の悪口を言い、キララと共に帰っていった。

 なお、話を聞いたが、100%あきちゃんが悪かった。


 俺とシズルはキララとあきちゃんを見送ると、再び、ソファーに座って待つ。


「キララさん、あんなに良い人なのに、なんで友達がいないのかな?」


 キララとあきちゃんが去り、ソファーに座りながら待っていると、シズルが聞いてきた。


「あの見た目でアイドル、エクスプローラ試験主席、≪正義の剣≫で姫様プレイ、態度悪い、口悪い、そもそも地元じゃないから知り合いが少ない。同性に好かれる要素が皆無だわ。せめて、悪に徹すれば、悪友達ができるが、根が真面目だからそれも無理」


 同じアイドルでも、あまり男に媚びないポンコツミレイさんは同性にもそこそこ人気だが、キララは絶対に嫌われる。

 そして、キララ本人も歩み寄りをする人間ではない。


「あー…………」


 シズルは理解したのだろう。

 複雑な表情で虚空を見上げる。


 こういうのは、俺よりも同性のシズルの方が詳しいだろう。

 シズルもそういった嫉妬や羨望を受けてきた側の人間だろうし。


 性別は違うが、俺も嫉妬や羨望を受けてきたし、嫌がらせもされたことがある。


 俺は小学生の時からエクスプローラになり、最初からレアジョブである。

 スキルの数も多く、どんどんと強くなり、稼いでいる。

 その嫉妬はすごかった。

 しかし、嫌がらせをされてはきたものの、嫌な思いをしたことはほとんどない。

 むしろ、優越感で愉悦とざまぁの笑みを浮かべてた。


 今もですけどね!

 がはは。


「まあ、キララはあきちゃんがいるから大丈夫だろ」


 あきちゃんはそういうのに強い。

 他の連中もあきちゃんを敵に回しはしないだろう。

 何をするかわからんヤツだし。


『お前らの世代って、似たものばっかだな』


 類友ー!

 しかし、あいつら、おせーな。

 このまま、シズルと出かけようかな。


 その後もシズルと待ち続けていると、他の4人が一緒にやってくる。


「おせーぞ。何かあったん?」


 俺は4人を問いただす。


「悪いな」

「ごめんさなーい」

「ちょっと時間がかかりまして……すみません」


 瀬能、アカネちゃん、カナタは素直に謝ってくる。


「いや、あんたがバカをするから、あたし達は教頭に注意されてたんだよ。ついでに、今は外国のエクスプローラがいるから、ちゃんと見張ってろってさ。知るか」


 ごめんね…………


「チサトさんはどうして言うかなー? さりげなく伝えようって話しただろ」

「こいつはどうせ、聞きやしないよ。時間の無駄」

「いや、ちゃんと言えば、わかってくれるって」

「無理、無理。絶対にケンカ売る。賭けてもいい」


 揉めないで…………

 辛いから。


「お前も言われたん?」


 俺はシズルに聞いてみる。


「言われてないよ」


 シズルはそう言って、ニコッと笑った。


 ぜってー、言われてるわ。


「お前ら、俺がそんなことをするわけないだろ」


 リーダーを信じな。


「あれ? イラっとするぞ。ボクも賭けようかな」

「賭けになりませんってー」


 瀬能は手のひらを返し、アカネちゃんはいつものアカネちゃんだ。


 俺は唯一、信じてくれそうなカナタを見る。


「僕は賭け事をしませんので」


 カナタもいつも通りだった。

 微妙にズレてる。


「よーし、マイちんの所に行こう。お前ら、ついてこい!」

「ルミナ君って、旗色が悪くなると、それ言うよね」


 仲間の結束が乱れてきた。

 教頭のせいだな!

 きっとそう!


『いや、お前のせい』


 やっぱり?

 チッ……反省してま~す。




 ◆◇◆




 仲間の結束を信じている俺は仲間と共にダンジョンに行くため、マイちんの所へやってきた。


「こんにちはでーす」

「はい、こんにちは。今日もダンジョンよね?」

「うん。26階層に行く」

「すごいペースね。頑張って。でも、無理したらダメよ」


 マイちんは優しいなー。

 マイちんの優しさに溺れそう。


「大丈夫ー」

「ならいいのよ。あ、それと、貴方、停学だなんて、何をしてるのよ。お願いだからいい加減に大人になって。それに――――」


 マイちんがガミガミと説教を始めた。


 どうやら、俺が知る優しいマイちんは死んだようだ。


「――って、聞いてる?」

「聞いてるよー」


 まったく聞いておりません!


「そう? まあいいわ。それと…………あー…………ねえ、ルミナ君、マナポーションのことは説明してる? 渡したいんだけど…………」


 あ、言ってない。

 どうしよう?


「うーん、まあ、ちょうだい。後で適当に誤魔化しておくわ」

「そう? 当人達を前に、その言い方はどうかと思うけど…………じゃあ、これ。魔法袋もそのまま持っていっていいから」


 マイちんはそう言って、魔法袋をくれた。


「ありがとー」

「いえいえ。こちらこそ、ありがとうね。それと、もう一つ。今月から全エクスプローラのレベルや所持スキルを協会で把握することになったの。貴方達のステータスを見せてちょうだい」


 これは立花の残党3人組の影響だな。

 これまでは新スキル、新ジョブの報告義務はあったが、プライバシーやら自己防衛のために、個人のレベルやスキルの開示はなかった。

 だが、立花を始め、その残党共が暴れたため、協会はエクスプローラの情報を把握しておきたいのだ。


 ダンジョンの深層に到達していないヤツのレベルが50近くもあれば、十中八九、クロだろうし、協会にレベルの開示義務があれば、少なくとも、PKの抑止力にはなる。


「じゃあ、はい。ってか、俺のステータスはマイちんも知ってるだろうに」


 俺はステータスを出し、マイちんに見せる。


「レベルが上がったり、スキルを習得したら、いつも自慢するもんね…………はい、確認しました。本当にすごいスキルね……じゃあ、他の人達も確認させてちょうだい」


 マイちんがそう言うと、皆、素直にステータスを見せていく。


「はい。確認しました。全員、問題ありません。まあ、当たり前だけど。しかし、貴方達は優秀ねー。とても学生とは思えない」

「まあねー。これまでに何かヤバいヤツはいた?」

「今のところはいないし、皆、素直に見せてくれるわ」


 意外だな。

 誰か反発するかと思ったが。


「まあ、平和なのは良いことか……じゃあ、ダンジョンに行ってくるわ」

「ええ、気をつけて」


 俺達はマイちんに見送られ、今年初のダンジョンへと向かった。





攻略のヒント

 外国ではスキルを使った犯罪が多く、深刻な事態となっている国もある。

 そのため、エクスプローラのビザ発行にはかなり厳しいので、旅行の際には注意しよう。


『とある旅行誌 エクスプローラのビザ申請について』より

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